改題第6号(通巻第84号) 読者からの手紙

わかんない

 なぜ、消費増税が不要なのか。なぜ、こんなに働いてきたのに身に覚えのない「借金」を負わされてしまったのか。なぜ、移民を大量に受け入れると国力が低下するのか。なぜ、南北の離れ小島の領有をめぐって近隣の国々と揉めているのか。なぜ、行き過ぎた規制緩和によって、スキーバスが谷間に落ちるのか。なぜ、平和を守るために軍事力が必要なのか。なぜ、国民を誘拐された上に、ミサイルが飛んでくるのか。なぜ、隣国に頭を下げ、経済援助までしたのに、恨まれるのか。なぜ、シャッター商店街が生まれるのか。なぜ、「コンクリートから人へ」を支持したのに人が沢山死ぬのか。なぜ、元号と西暦を使い分けているのか。なぜ、農業に助成金が必要なのか。なぜ、コンビニでミネラルウォーター売っているのに、水道を民営化すべきではないのか。
 わからないのである。国民の多くはもちろん、大方の国会議員でさえ(大変、由々しき事態だが…)わかんないのである。そして、知識人(インチキ混じりだが…)がその関係性を国民に十分理解してもらうために、どれだけの概念や専門用語を必要とするのだろうか。その難しさを再確認するために以下〈キーワード〉と〈ターゲット〉に分け、概観してみたい。

 〈キーワード〉需給ギャップ、名目賃金と実質賃金、財政バランスシート、乗数効果、クレジット デフォルト スワップ、トマス・エリオット、不信社会のコスト、国民国家、過当競争とデフレ圧力とサービス品質、バランス オブ パワー、個別自衛権と集団的自衛権、被害者意識と依存、華夷秩序、日米構造協議、緊縮財政、プライマリーバランス、権威と権力、ケインズ、ハイエク、フリードマン、インフラとスープラ、そして進歩史観とグローバリズム。

 一方、私が身近にする一般的な勤労者の姿とは…。

 〈ターゲット〉朝7時起床。寝ぼけまなこで歯を磨き、顔を洗い、男性ならシェイバーをあてる。トイレを済ませ、トースト、コーヒー、プチトマト、ヨーグルトの朝食を摂り、スマホと財布とキーホルダーを鞄に詰め込み、徒歩かバスで駅へ向かう。妻は、子供をママチャリに乗せ、保育園行きのバスステーションへ。洗濯物を干し、軽いメイクをして10時〜15時のパートタイムへ。16時帰宅し、再びママチャリで子供のお迎え。スーパーマーケットへ。その後、洗い物と夕食準備。21時、夫帰宅。シャワーを浴び、缶ビールを一〜二本空けながらの夕食。妻の話に耳を傾け、TVのバラエティ番組か報道ニュースを眺める。職場でのあれこれが頭をかすめるが、明日を思い、スマホのメールをチェックして就寝。こんな繰り返しが年間250日ほどつづく。

 あなたなら、どう思われますか?私は職業柄(ブランディング・ディレクター〈広告業〉)、ついこんな腑分けをして伝達可能性を検証してしまうのだが、このような「キーワード」を介してこのような「ターゲット」に理解を求めることは不可能だと思うのだ。限られたリソースを使い、できる限り効率的に、こうした難題に立ち向かうために私なりに訴求ポイントを絞ってみると次のようになる。
⑴進歩史観の相対化⑵近現代史の再認識⑶公と私の連続性の回復⑷乗除認識による加減認識の相対化⑸社会有機体イメージの回復

 しかし、これらとてコンセプトのようなもので、そのままでは多分、流通言語にもならないだろう。しかも国会はもちろん、財界、官僚、教育、マスメディア、アカデミズムの大半はモジュール化と均一化に大きく傾いていて、知のベースロードは干上がってしまっている。
 さて、このように絶望的なコミュニケーション環境下で採るべき戦略は⑴〜⑸をできる限りわかりやすい言葉や事例を使って口語化し、広く流通させ、ターゲットに届けることだと思われる。たとえば「足し算、引き算だけで国を語っちゃいけません⑷」「社会も生き物なので、部分的に細胞を入れ替えると死んじゃうこともあります⑸」あるいは、「どんな優秀なアリだって、運悪く、象に踏まれれば死ぬのだ⑴(今西錦司より)」などの表現が頭に浮かぶ。
 もちろん言論誌には、言論誌ならではのターミノロジーによって主要概念を創り、伝えるという重要な役割がある。しかし、こうしたボトムアップ型のコミュニケーション戦略を加える(媒体は、言論誌に限らず)ことによって「ターゲット」のマスイメージを育み、空気を読むことだけが取り柄のインチキ知識人を挟撃し、彼らの言説に影響を与えていく(私は、トランプ氏を、そう評価している)。そんな情報戦略を通じてしか、現在の「知的国難」を乗り越えるすべはないと思えるのだが、いかがなものだろうか。

投稿者 : 

  • 吉田真澄(東京都、会社員、61歳)

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