吉川徹氏は『日本の分断 切り離される非大卒若者(レッグス)たち』の中で、大卒と非大卒という「学歴」で大きな分断があることを指摘しています。そこへ1975生年以前と以降で切り分けた「生年世代」、男女の「ジェンダー」の補助線を加えることで、より緻密に分断の様相を書き出しています。
まず、近年の日本社会では、年収・雇用・家族の形態などの「ステイタス」、つまり「社会的地位」の流動化が進み、それらは「ステイト」、つまり「状態」と呼ぶべき移ろいやすい性質を帯び始めているといいます。その中でも変わらないが故に、私たちを社会に結びつける働きが強い固有の属性が「生年世代」、「ジェンダー」、そして「学歴」だといいます。
少し昔の時代を振り返ってみると、確かに日本は社会的地位が比較的固定した社会でした。例えば、日本的経営では、終身雇用と年功制、株式の相互持ち合いといった独自の方式を採用し、労働者の地位は守られていました。しかし、2002年商法改正、2004年派遣法改正、2005年会社法の制定など、次々と労働者の安定を脅かす法整備がなされてきました。
こうして社会の流動性が高められていく中で、とりわけ弱い立場にあるのが「若年非大卒男性」だといいます。彼らは働き盛りであるにもかかわらず5人に1人が非正規・無職、約3人に2人が離職経験を持ち、個人収入は「先輩」にあたる「壮年非大卒男性」よりも150万円近く低い300万円前半だといいます。また、彼らの両親の8割以上が高卒または義務教育卒で「非大卒再生産」の出自であるといいます。
彼が能力が低く、怠け者であることは決してありません。労働時間は他の男性と同程度であり、OECD諸国と比較しても高い教育レベルにあるといいます。
そもそも、日本の社会構造は、社会に出るときにまず学歴を手にして、それに基づいて職業のキャリアが形成されていき、そのアウトプットとしてお金の貧富が生じるという、学歴から始まる連鎖になっています。こうしたプロセスの始点である学歴は、家庭の経済力、両親の学歴観、親の教育力、親の職業、親の学歴などの、出身家庭の特性が大きく作用するでしょう。こういった背景を理解すると、安易に「自己責任」などと彼らを切り捨てるのはあまりに酷だと思われます。
ところで、アメリカにおけるトランプ大統領の最大の支持層は、高卒以下の労働者であるといいます。グローバリゼーションを進めるなかで、見捨てられてきた人々の声を代弁する者として彼が支持されるでしょう。一方で、日本では「若年非大卒」から支持を集める政治家は今の所出てきていません。そういった層の声を代弁する山本太郎氏も彼らの支持を集めるのに苦戦しているとの声もあります。
吉川氏は彼らがそもそも、政治的関心が低く、努力主義の傾向にあることを指摘しています。かつて日本に力があった頃は、そうした特質がプラスに働く場面も多かったのかもしれません。しかし、声を上げないことをいいことに、彼らの安定を脅かすような政策が行われ続けるとしたら、彼らが声を上げ始めるのも時間の問題だと思います。
日本では欧米のような大規模な政治運動は起きていません。しかし、内部では静かに、そして着実に分断が起きています。
林文寿(岐阜支部)
2024.10.15
御子柴晃生(農家・信州支部)
2024.10.15
吉田真澄(東京支部)
2024.10.15
羽田航(53歳・派遣・埼玉県)
2024.10.15
川北貴明(34才・芸術家・大阪府)
2024.10.15
九鬼うてな(17歳・生徒・京都府)
2024.10.15
近藤久一(62歳・自営業・大阪府)
2024.10.15
前田一樹(信州支部、39歳、公務員)
2024.07.25
奥野健三(大阪府)
2024.07.25
たか(千葉県、41歳、イラストレーター)
2024.07.25