クライテリオン・サポーターズ(年間購読)最大6,000円OFF

[書評]心の暗部に目を向ける態度

前田龍之祐

前田龍之祐

コメント : 1件

山本 圭 著 『嫉妬論 民主社会に渦巻く情念を解剖する』光文社/2024年2月刊

 

 幼少期の頃、家へ遊びにきた親戚の子供を自分の親が可愛がっているのを見て、機嫌を損ねてしまったことをよく覚えている。いわゆる嫉妬心というやつである。それは「何一つ取り柄がない」ような、忌まわしい感情なのかもしれない。本書によれば、思想史の上でも嫉妬は基本的に悪いものとして扱われ、十分に主題化されることは少なかったという。スピノザは端的にこう言う、「嫉妬とは[…]憎しみそのものに他ならない」のだと。
 だが、どんなに経験を積んでも、私たちはこうした感情から自由になることはできない。嫉妬とは、現代のような民主社会であっても、付き合わざるを得ない人間感情なのだと、本書は規定する。ならば、社会生活を営む上で、その影響は無視できないものと言わなければならないだろう。「正義」や「平等」といった概念と嫉妬の関係を見つめながら、私たちの負の感情を考察すること。これが本書の目的にほかならない。
 改めて、嫉妬という感情を考えるとき、本書はまずそれを〈自分が持っていないものを他人が所有している状況への苦しみ〉と定義する。そこには、自身の損得に直接関係がないにもかかわらず、誰かの幸せが見ていられないといった性格が認められるというが、注意したいのは、それがもっぱら「比較可能な者同士のあいだに生じる」という点である。職場の同僚、または兄弟間などの場合のように、嫉妬の対象には自分と近しい人物が選ばれるというわけだ。しかし、このことは裏返せば、格差の是正と嫉妬の減少とは必ずしも相関しないという不都合な事実を、私たちに突きつけるのではないか。つまり、公正な社会のなかで格差が減るほど、より他者との差異が自覚化され、「針一本の不平等」さえ嫉妬の誘引となり得るのであり、一見理想的な社会でも人間感情を飼いならすことは不可能ではないかと、本書は問いかけるのである。
 しかし、だとすれば嫉妬は、現代の民主社会において有害であるほかないのか。実際には「民主主義こそ人々の嫉妬心をいっそう激しくかき立て」る仕組みだと言えはしないか。なるほど、民主主義において人々は平等を望むが、その要求の背後にあるのは、出る杭に我慢ならない大衆の「水平化」への意志、すなわち正義の仮面をつけて現れる、醜いルサンチマンの感情だという可能性は、やはり否定できないと本書は言う。平等が進むにつれて、かえって人々の間の細かい差異が浮き彫りになり、それが嫉妬の温床になる──民主社会がこうした過程を孕み持つのなら、私たちはこの条件を引き受けた上でうまく付き合う以外ないだろう。
 最後に本書は次のように書いている、「嫉妬に何かしら意味があるとすれば、それはこの感情が『私は何者であるか』を教えてくれるから」と。嫉妬という心の暗部に目を向けることが、他の誰でもない「私」という人間の理解への一歩なら、真剣に生きる上でその態度は決して手放せない。見たくないものに蓋をしないこと、おそらくこれが、本書が与える教えである。

 

本書の詳細はこちらからご覧いただけます。


〈編集部より〉

最新号『表現者クライテリオン2024年5月号』好評発売中!!

特集タイトルは

不信の構造、腐敗の正体

政治、エンタメ、財務省

です。

今、日本の各領域において激しく進行している「腐敗」とそれに対する国民の「不信」の構造を明らかにすることを通して、その「腐敗」を乗り越えるため方途を探る特集となっております。

ぜひお読みください!!

巻頭言と目次はこちら

購入・詳細はこちら

クライテリオン・サポーターズでお得に年間購読していただけます。

 

<お知らせ>

クライテリオン・サポーターズ、募集中!!

雑誌と書籍の年間購読を通じて、『表現者クライテリオン』をご支援ください!
https://the-criterion.jp/lp/r6supporters/

第6期表現者塾、塾生募集中!!

表現者塾は毎回ゲストの講師より幅広いテーマのご講義をいただき、浜崎洋介先生が司会、対談役を務める会員制セミナーです。
様々なテーマについての議論を通して、より深く私たちの「クライテリオン(基準)」探ります。

過去回についてもアーカイブからご覧いただけます。

◯毎月第2土曜日 17時から約2時間の講義
◯場所:新宿駅から徒歩圏内
◯期間:2024年4月〜3月
◯毎回先生方を囲んでの懇親会あり
ライブ配信、アーカイブ視聴あり

詳しいご案内、お申し込みはこちらから↓↓
https://the-criterion.jp/lp/2024seminar/

執筆者 : 

TAG : 

CATEGORY : 

コメント

  1. ひぃ より:

    書評面白かったです、拡散します。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


メールマガジンに登録する(無料)