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書評:『平成の天皇と戦後日本』 河西秀哉著

From 『表現者criterion』 編集部 

戦後民主主義と天皇制の共存

 本年五月より新しい時代が始まり、報道等を見る限りでは、新天皇皇后両陛下にはおおむね「国民の支持」が集まっているようだ。しかし本来「天子」「現人神」であった「天皇」にとって、「国民の支持」などという俗な事柄は重要視すべきものではなかった。それが大きく転換したのは言うまでもない、戦後民主主義体制下においてである。
 
 現代天皇制研究の第一人者である河西氏は本書において、皇太子時代に「関心がなく、親しみがわかない」という批判を国民から受けておられたはずの上皇陛下が、上皇后陛下と共に、諸外国への訪問、国民的行事への臨席、被災者の訪問等の平成という時代における「公的行為」を通じて、「象徴天皇」としての地位と「国民の支持」を確立なさっていく過程を詳細に描写している。
 
 ここで確認しておくが、「天皇」の最も重要な行為としては「国事行為」があり、内閣総理大臣や認証官の任命、国会議員の総選挙の施行公示等がこれに挙げられる。これはすなわち民主主義国である日本の国家運営について、「天皇」がお墨付きを与えるということになる。
 
 健全な民主主義の運営においては、運営者(日本では内閣や国会)に何らかの権威付けが行われることが必ず必要である。「選挙」というものがもちろん存在してはいるが、ある程度以上の規模の国民国家においては、それを超えた、ある意味では「神聖」とも言える紐帯の存在によって国民の統合が行われる。民主主義国家の代表とも言える米国ですら、大統領は就任の際、聖書に手を置き「神」に職務の遂行を誓う。
 
 戦後三四半世紀に迫る現代日本も、「天皇」の権威を背景として国体(国の基礎的な政治原則)が成立している国家であり、その権威は万世一系によるところも大きいだろう(よって女系天皇の誕生は国体の損失を引き起こしかねない)。
 
 しかしそれとは別に、民主主義であるが故に、天皇制も「国民の支持」に左右されてしまう危険性を孕んでいる。近代において多くの王室がその王冠を剝奪されてきたが、これはほとんどが「民意」の名の下に行われた。しかし令和の現代日本において皇室がこれほどの「国民の支持」を得て存続しているのは、ひとえに上皇上皇后両陛下のご努力の成果に他ならない。本書はそのような両陛下が平成という時代を歩んでこられた道程の記録とも言えるだろう。
 
 「天皇」の行為は、現代日本において「公的行為」のみがクローズアップされがちだが、上記の「国事行為」やまた宮中祭祀などは、「日本」の国体や伝統の根幹に関わる部分を担っている。後継者問題等もあり、今後の皇室がどのような道を辿っていくのかはわからないが、長い歴史を持つ素晴らしい国体や伝統が「千代に八千代に」続いていくことを願ってやまない。

 

佐藤慶治:86年熊本県生まれ。国立音楽大学音楽学部卒業。九州大学大学院比較社会文化学府博士後期課程修了。博士(比較社会文化)。精華女子短期大学幼児保育学科専任講師。

(表現者クライテリオン2019年9月号より)

『平成の天皇と戦後日本』 河西秀哉著
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