本日は、『表現者クライテリオン2021年1月号』より、巻頭コラム【鳥兜】を公開します。
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以下、巻頭コラム鳥兜『「遊び」を罰するな』
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コロナに振り回された一年だった。世界経済の成長率は戦後最悪を記録。日本もリーマンショックに匹敵する景気の落ち込みとなった。
コロナ不況の影響は一様ではない。デジタル関連の企業は業績を伸ばしたところも少なくない。在宅勤務や巣ごもり消費など、「新しい生活様式」が広まったからだ。コロナをきっかけに、経済のデジタル転換は一気に進んだ感がある。
厳しいのは、デジタル化できない産業である。レストランや居酒屋、百貨店やライブハウス、映画館や美術館は、人が集まることで成り立つ産業である。教育もデジタル転換が進んでいるとはいえ、基本はやはり対面である。
服飾も厳しい。人と会わなくなれば、ファッションに気を配る必要がないからだ。もともとアパレルは構造不況業種と言われていた。需要が頭打ちなのに、中小が乱立して供給過多だったからだ。この先、需要がさらに減退すれば、倒産が続出するのは避けられない。
要するに、コロナで苦しんでいるのは「遊び」に関連した業種である。仕事終わりに一杯やる。休みに家族で外食する。映画や観劇で息抜きする。おしゃれをして出かける。人と人が一緒になって体験を共有する。新鮮な空気を呼吸する。そんな「遊び」に関わる産業と雇用が、致命的な打撃を受けている。
教育も、本質は「遊び」である。楽しみなしに何かを学ぶことはできない。知識の伝達はオンラインでもできる。だが、考えること、感じること、学ぶことの楽しさを伝えることができるのは対面だけだ。
世の中には、今は我慢の時だという言説が溢れている。飲み会も外食も、旅行も観劇も、コロナが収まってから思う存分やればいい。今はじっと耐えて、感染が終息するのを待とう。「欲しがりません勝つまでは」の戦時精神は、今も健在のようである。
ひと月、ふた月ならそれでもいい。だがいつまでも家でじっとしていたら息が詰まるというものだ。気の置けない友人と会っておしゃべりをする。一緒に映画やライブに行って体験を共有する。街に出て買い物したり外食したりする。つまりは人と一緒になって遊ぶ。この人間的な喜びを抑圧しつづければ、歪みはわれわれの精神に出てくる。このまま自粛を続ければ、精神の健康を失う人は今の何倍も出てくるだろう。
もちろん感染防止は重要である。だがわれわれの精神の健康を守ることも、同じくらい重要なはずだ。感染対策で「遊び」を禁じるのは間違いである。「遊び」の場を守りながら感染者の増大を防ぐ。そのための知恵を働かせる余地はいくらでもある。
コロナで最も苦しんでいるのは「遊び」の提供を仕事としている人たちだ。それだけではない。遊ぶ場所がなくなれば、それ以外の仕事についている人たちも息抜きの手段を失う。医療や介護に従事しているエッセンシャル・ワーカーだって、たまには遊ぶことも必要だ。「遊び」は人間にとって欠くことのできないものである。必要な政策は、「遊び」の場を減らす方向にではなく、維持する方向で考えていかなければならない。
「遊び」の反対語は真面目ではない。無感情である。感情を失うことは、理性を失うことよりもずっと恐ろしい。そして人間の感情は、人とのふれあいの中でしか健全さを保つことができない。「遊び」の場を提供してくれる人たちは、医療や介護を支えてくれる人たちと同じくらい「エッセンシャル」(不可欠)なのである。
(『表現者クライテリオン』2021年1月号より)
『表現者クライテリオン』2020年1月号
「菅義偉論 改革者か、破壊者か」
https://the-criterion.jp/backnumber/94_202101/
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