今回は、『表現者クライテリオン』のバックナンバーから、毎号掲載しているコラム【鳥兜】を公開します。
公開するのは、タイトル:「「マス・コミ」の時代は終わらない」。
全文公開しましたので、ぜひ最後まで読んでみてください。
『表現者クライテリオン』では、毎号、様々な連載を掲載しています。
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以下内容です。
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フランスとシンガポールのシンクタンクが日本を含む二十三カ国で行った調査によると、コロナ禍に対する「政治的リーダー」の対応に満足している市民の割合は、二十三カ国平均で四〇%であった。
その他「ビジネスリーダー」は二八%、「地域社会」は三七%、「マスメディア」は解な評価ではある。その原因は、例えば経済活動の自粛要請に十分な補償が伴わないことにあるのかも知れない。
ただ、「ビジネスリーダー」と「地域社会」の対応満足すると答えた国民もそれぞれ六%しかおらず、同様に最低の評価を受けていることを考慮すれば、何かもっと根の深い不安や不信が国民心理を覆っているようにも思える。
その原因の一つとして考えられるのは、日夜繰り返されるマスコミの悲観的報道であろう。どのメディアも一様に、「日別感染者数」のような数字を並べたてて、新型ウイルスへの恐怖を煽り続けてきた。
そして、死者数が欧米諸国に比べ遥かに少ないことや、他の疾病と比較して目立って多いわけでもないという事実には目をつぶり、「もっと強力な措置をとらなければ大惨事になる」と政府の弱腰を批判してきた。
報道内容そのものも問題視されて然るべきではあるが、それよりも重要なのは、メディアを通じた「マス」(大規模)なコミュニケーションに、依然として我々が強く依存しているという事実を確認することである。
じつは先述の調査において、マスメディアに対しては四七%もの日本国民が満足を覚えると回答していた。これも二十三カ国中最低の値ではあるものの、政治・企業・地域社会に比べれば八倍から九倍に相当する高評価であり、この「落差」は諸外国と比較して圧倒的に大きい。
要するに日本人は、政府も企業も隣人も信用していないのであるが、メディアだけは特権的に、国民からある程度の評価を勝ち得ているのである。
とすれば、政府や企業に対する不満も、隣人に対する不信も、人々が現実に被った迷惑を反映したものであるというより、メディアによって作り出されたムードに過ぎないのではないかと疑いたくもなる。
ちなみに日本以外の諸国においても、マスメディアへの評価は驚くほど高い。これは現代文明の、かなり安定した特質の顕れなのであろう。そしてこの度、「健康」という万人の関心を惹く領域で危「マス・コミ」の時代は終わらない七六%の市民から高く評価されている。
驚くべきは日本国民の満足度の低さである。例えば政治的リーダーの対応を評価する国民はわずか五%に過ぎず、二十三カ国中ダントツの最下位だ。健康被害が軽度な水準に留まり、私権制限も控えめであることを考えれば、幾分不可機が生じたものだから、その特質が一層際立つことにもなったのではないか。
インターネットの全面普及によって、マスメディアは衰退に向かうとも言われてきた。消費者の多様な欲求や関心に応じて情報は細分化され、コミュニケーションが「タコツボ化」に向かうとみられたからである。
テレビ・新聞・雑誌のように画一的な情報が「マス」に配信される時代は終わり、かわりにブログや動画配信サイトのような、「等身大」の個人メディア文化が花開くであろうと。しかし結果的には、マス・コミュニケーションがインターネットの世界にも入り込んだだけのことで、我々は少しも「等身大」の「多様性」を謳歌してなどいないのである。
国内外のリベラル派の中には、パンデミック下で数々の私権制限措置が発動されたのを目の当たりにして、政府権力の暴走と独裁化の懸念を抱いた論者もいるようである。だがその前に我々は、「マス・コミ」の持つ不断の影響力に、改めて注意を向けるべきではないだろうか。
(『表現者クライテリオン』2020年7月号より)
他の連載などは、『表現者クライテリオン』2020年7月号にて。
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