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【浜崎洋介】「菅義偉」とは誰なのか①ー実務者であり無鉄砲な勝負師

浜崎洋介,菅義偉,政治

From 浜崎洋介(文芸批評家) 

今回は、『表現者クライテリオン』バックナンバーを三編に分けて全編公開いたします。

公開するのは、「菅義偉論 改革者か、破壊者か」特集に掲載の、本誌編集部の浜崎洋介の記事です。

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菅義偉の「二つの顔」への問い

 菅義偉首相のインタビューや、その著書(『政治家の覚悟』)、あるいは、そのノンフィクションを読んでいてまず感じるのは、その整合しにくい矛盾した性格である(以下、菅義偉首相をはじめ、本稿で論じる政治家、学者、言論人、企業人たちの敬称は省略する)。

 まず現れてくるのは、政治の裏表に通じた「実務型政治家」のイメージであり、それは、あの第二次安倍政権における「笑わない官房長官」、「影の総理」、「官邸主導政治」のイメージとも重なって、おそらく国民の印象とも大きく隔たってはいない。

が、もう一つの面は、その「実務型」のイメージから大きく乖離しており、それは「仁義なき突破者」、あるいは「無鉄砲な勝負師」のそれであり、おそらく菅義偉の知られざる一面を形成している。

 たとえば「実務型」の像は、その「たたき上げ」の履歴において描くことができる。衆議院議員・小此木彦三郎の七番目の秘書としてスタートし、一時期預けられた神奈川県議の梅沢健治の下で政治の「どぶさらい」を学び──
酒が飲めない菅は、宴席でもどしながら、それでも支援者と付き合い続けたという──その秘書時代に作り上げた政官財の人脈を生かして横浜市議会選挙に打って出て当選、たったの二期で「影の横浜市長」の異名をとるまでの政治力を発揮し、その後に国政に進出(初の小選挙区比例代表並立制で当選)。

以降、国土交通大臣政務官、経済産業大臣政務官、総務副大臣、総務大臣、内閣官房長官と、政府の要職を歴任しつつ、その都度、ETCの夜間割引、アクアラインの値下げ、万景峰号の入港禁止、ふるさと納税の導入、NHK改革、郵政民営化などを実現してきたのだった。

その仕事ぶりを一言で評せば、まさしく秘書時代を知る横浜の経済人が言うように、「とにかくマメで仕事が早い」(森功『総理の影─菅義偉の正体』小学館)というものだろう。

 しかし、菅義偉には、その実務者の顔とは異なる「無鉄砲な勝負師」の一面がある。それは主に政治的駆け引きにおいて示されてきた性格だが、まず菅の政治家デビューを飾る横浜市議会選挙がそうだった

自民党公認の現職・鈴木喜一の出馬が決まっていた西区で、しかも、仕えていた小此木彦三郎など周囲が反対するなかで突然出馬を決めた菅は、いわゆる「地盤」、「看板」、「鞄」なしの無謀な選挙に打って出て、見事初当選を果たすのである。

「実務者の顔」と「突破者の顔」を併せ持つ所以

 そして、その「無鉄砲さ」は国会議員になっても発揮されることになる。小渕恵三と梶山静六と小泉純一郎が争った一九九八年の自民党総裁選では、一年生議員にもかかわらず梶山静六を担ぎ上げ、所属先の小渕派に反旗を翻した菅は、その後に宏池会に所属先を移して、今度は「加藤の乱」で森喜朗政権(と、それを陰で支えた野中広務)に反旗を翻す。

そして、その後も、第一次安倍政権の後継に福田康夫を推した自派の古賀誠らに異を唱え麻生太郎支持を表明、さらに二〇〇九年の総裁選では、「派閥は古い体質の象徴」との言葉を残して宏池会を退会し、麻生派の河野太郎支持を表明する(松田賢弥『したたか 総理大臣・菅義偉の野望と人生』講談社)。

むろん、それらの博打は悉く失敗することになるのだが、しかし、二〇一二年の自民党総裁選における安倍晋三支持だけは違っていた。

 各紙の世論調査では石破茂、石原伸晃に次ぐ三番手でしかなかった安倍晋三を、国会議員票による決選投票まで見越して総裁選に引きずり出し、それを担ぎ上げた菅義偉は、その勝負に見事勝利することによって、あの第二次安倍政権における〈官房長官=影の総理〉の座を射止めることになるのである。

 しかし、では、この一見矛盾した二つの顔──実務者の顔と突破者の顔──は、政治家・菅義偉のなかでどのように整合しているのか。本稿が問いたいのは、その双面を結び合わせている菅義偉という人間の情念であり、また、その情念が由来してくる場所である。 

 では、改めて、菅義偉の二つの顔をよく見てみよう。すると、そこに一つの共通した表情が浮かび上がってくることに気づくはずだ。それこそは、「既定コースに対する憎しみの表情」である

あるいは、それを「既得権益への破壊衝動」だと言い換えてもいいが、要するに、「よそ者」の前に立ちはだかる日本的共同体への憎しみの感情だと言っていい。そして、菅義偉の著書『政治家の覚悟』において興味深いのは、その憎しみが、「よそ者」として成り上がってきた自分自身への強烈な自負心の裏返しとして存在しているかに見えることである。…(続く)

(『表現者クライテリオン』2021年1月号より)
 

 

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