冨田恭彦 著 『詩としての哲学 ニーチェ・ハイデッガー・ローティ』 講談社/2020年2月刊 の書評です。
書評者:酒井佑陶
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「哲学とは真理の探究である。」そう理解している人は多いのではないか。古代ギリシャから西洋近代において、哲学の至上命題は理性によって絶対的な知としての真理へ到達することであった。
しかし、真理は人間の意志や経験から独立して存在しうるのか。哲学とは措定された真理を「探し求める」ことなのか。
本書はR・ローティが提示した「詩としての哲学」を批判的に継承・拡張することで、従来の哲学とは異なる新たな哲学的系譜を論じている。あらかじめ定められた真理へと迫る営みではなく、目的地を固定しない創造的で開かれた知的営みとして、哲学そのものが再解釈される。
著者はこの「詩としての哲学」の思想的系譜をイギリス・ロマン主義、エマソン、ニーチェ、ハイデッガー、ローティらに見出す。ニーチェやハイデッガーはともかく、ロマン主義の詩人たちが哲学史の表舞台に登場することは稀である。
プラトン以来、真理を獲得するための能力である「理性」が人間にとって最も重要な心の働きとされ(理性主義)、詩作は真実性(イデア)の模倣とされる現実世界をさらに模倣するだけの、真理から二重に遠い営みと考えられてきた。
これに対しワーズワースやコールリッジといったロマン主義の詩人らは、創造的で総合的な能力としての「想像力」が理性に対して優位すると説く。著者はここに「詩としての哲学」の源流を看取する。
さらに本書の魅力は、新しい哲学の系譜を描き出すことだけではない。むしろ興味深いのは、後半部が近代哲学の代表的人物に関する記述で占められていることである。
著者曰く、デカルトとカントは認識に関する絶対的基盤を説きつつも、それは自然学的思考を中心とした新たな認識論を、想像力の発露として提示したに過ぎない。さらにロックの経験論に対する誤解を解くことで、むしろロックは「詩としての哲学」に重要な貢献を与えた創造的な哲学者であるとされる。
こうした再解釈は、従来のようにロマン主義を啓蒙主義との二項対立で把握せず、むしろロマン主義の地平に啓蒙主義を融合させ、我々のロマン主義理解を一新させるだろう。
また保守主義のように「哲学や理論がない」と非難されてきた思想は、それは「理性主義的哲学」ではなく「詩としての哲学」に基づいた思想なのだと解釈することも可能になる。このように「詩としての哲学」は我々の哲学観を改め、異端とされてきた思想を復興させる可能性を秘めている。
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コメント
哲学とは真理の探究である。
哲学とは、問いを立て、言語で遊ぶ。