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【小幡敏】我々日本人の行き着く先は、戦争よりも過酷になるだろう

小幡敏

小幡敏

今回は『表現者クライテリオン』2021年9月号の掲載の記事を特別に公開いたします。

公開するのは、「保守からの近代日本批判―大東亜戦争への道」特集掲載、
小幡敏先生の論考・第二編です。
第一編

『表現者クライテリオン』では、毎号の特集のほかに、様々な連載も掲載しています。

興味がありましたら、ぜひ『表現者クライテリオン』2021年9月号を手に取ってみてください。

以下内容です。

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何故日本人は浮ついてしまうのか

 丸山眞男も、日本における座標軸としての超越的原理の不在があらゆる外来思想の雑居につながり、それが結局原理的対決を回避することにより内面化されない事実を指摘しております(『日本の思想』)。

 そうした環境にあって、日本も苦しい努力はしてきたと言えるでしょう。

西田幾多郎が『世界新秩序の原理』の中で、

「我国の皇室は単に一つの民族的国家の中心と云うだけでない。我国の皇道には、八紘為宇の世界形成の原理が含まれて居るのである」

と述べたのも、日本の絶対普遍欠乏症が言わせたと考えられなくもない。

 いずれにせよ、明治の近代化の中で天皇という疑似的な絶対者を持ち出した日本は、それが元来日本に根付かぬものである以上、破綻は見えていた。

戦前戦中戦後を問わず繰り返される天皇を巡るすったもんだのドタバタ劇は、この一つの無理から拗らせた日本人の適応異常の一症状だと思われます。

今や誰にも忘れられてしまいましたが、解党派として日本共産党のコミンテルンからの独立、日本への回帰を唱えた浅野晃は、取り調べ中のやり取りを回顧して、

日本の天皇といふものは、外国の君主とちがって一度も国民と対立抗争するやうな権力的存在でも階級的存在でも無かったのだ。民族統一の中心だったのだ」(浅野晃・影山正治『転向─日本への回帰』)

と述べています。この見解は、佐野・鍋山による転向声明にも引き継がれていますが、これとて近代日本が天皇という疑似的な絶対者を扱いあぐねていた一例だと言えます。

 こうしたことは枚挙に暇がなく、田中智学の息子の里見岸雄は『天皇とプロレタリア』の中で、天皇とプロレタリアを直結させた反資本主義などを志向しておりますし、それらは全て、日本人の中心点を天皇に求めて現実の対象化を進める営為だったと言えるでしょう。

行き着く先は、戦争よりも過酷なものになる

 いずれにしても、我々日本人がもう少し自覚的になるべきは、思想は普通人にとって恋人のようなもので、それは無垢なうちは絶対者として我々の前に光り輝く存在でありますが、一度手を触れれば、良くも悪くも我々の都合に引きずられる物に堕すということです。

身もふたもないようですが、残念ながら思想とは概してそのようなもので、かつて教条的威力を有した共産主義とて、今ではそれを言う人も稀です。

そして、その共産主義を弾圧していた戦中とて、それは一概に否定し得るものではなかった

 そういう意味で、日本人は思想(ないし潮流)の前にまったく無力な赤子同然であると言うべきではないでしょうか。

思想を前に自由恋愛に遊ぶのであれば、そういう事実は受け入れて然るべきでしょう。我々は評価軸となる絶対者も、宗教も持たないのですから。

とにかく、精神の巨人が難産した思想を、平凡人がよく消化できるなどとは思わぬ方が賢明というものです。

 こういう点についてあまりにも無自覚であるために、我々は絶えず流入する思想その他の事物に対して、極端に尻軽にならざるを得ません。

欧化主義で開国したかと思えば、大東亜共栄圏を唱えて超国家主義に陥る。その廃墟の後では、かつて鬼畜とまで蔑んだ米国に付き従い、米国的民主主義こそが正義であるといって疑わない。

これは夫の仇と寝ることに等しいではありませんか。そして、そういう無節操は、どうしたって近代国家の成員としては片手落ちではありませんか。

 少々言い訳染みますが、私は何も日本人を他国民に比して劣った民族であるとは思いません。日本人にも美点はある。

今はともかくとして、歴史上、尊敬に足る日本人は無数にありましたし、その歴史にも、文化にも、私は敬意を持ちます。

何より、私は日本語というものを自身の命よりもよほど尊いものと思う。

その上でなお、日本人の欠陥については目を開かねばならないのです。

この欠陥、日本人を軽薄にする病理に向き合わねば、我々はきっとまた敗北します

いや、今歩くこの道も敗北の道でしょう。その行き着く先は、我々にとって戦争よりも過酷なものになるということを、よく考えてみなければならないと思います。

本稿で日本の欠陥をつぶさに見ることは叶いません。

それについては別に譲るとしても、日本人がおおよそ上記のような欠陥を抱えているが故に、あらゆる面で遅れをとりつつあることは、少しは同意してもらえるのではないかと期待します。その上で、…(続く)

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注 例を挙げれば、先に引いた憲兵井上源吉は思想戦班編成にあたりマルクスの著作を読み始めたところ、「その内容は意外に共鳴するところが多い。私はミイラ取りがミイラになってはまずいと思い、早々とこの勉強を中止した」と言いますし、浅野晃を尋問した取調官も、「とにかく日本は、このままぢゃあ駄目になる。ここで根本的に改革しなくちゃあならない。その点では、国体の問題、天皇の問題さへ考へ直してくれれば、この際、君たちの考へてゐるやうな思ひ切った大改革をやらねばいかんと思ふ。国体の問題、天皇の問題だけを別にすれば、僕は皆さんと全く同感だ」とまで述べたと言います

(『表現者クライテリオン』2021年9月号より)

 

 

続きは近日公開の第三編で!または『表現者クライテリオン』2021年9月号にて

『表現者クライテリオン』2021年9月号
「日本人の死生観を問う」
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