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【クライテリオン最新号・特集座談会】二〇二二年を振り返る(2)

啓文社(編集用)

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こんにちは、『表現者クライテリオン』編集部です。
本日は、『表現者クライテリオン』2023年1月号特集座談会「二〇二二年を振り返る 戦争・テロ・恐慌の時代への大転換」から冒頭部分、第二弾をお届けします。

興味を持った方は是非、本誌を手にお取りください。

 

二〇二二年を振り返る 戦争・テロ・恐慌の時代への大転換

仲正昌樹×吉田 徹×藤井 聡×柴山桂太

 

「国民国家」が脆弱な東ヨーロッパ

藤井▼仲正先生は二〇二二年を振り返ってみていかがでしょうか。

仲正▼私もウクライナ侵攻は結構な衝撃だったのですが、色々と昔のことを思い出しました。私が学生だった一九八〇年代には、ソ連の制限主権論というのをしばしば耳にしました。プラハの春が起きてチェコスロバキアに侵攻した時に、ブレジネフが言い出した議論です。

 

 九〇年代初頭に、順当なコースより結構遅れて大学院に入って、ドイツ現代史も少しかじったのですが、当時言われていたのが、東欧諸国はドイツやフランスのような国民国家の基礎がしっかりできていない、ということでした。

近代に入っても、色々なナショナリティ──ネイションになりきっていない民族的集合体ということです──が重なり合うように狭い地域に共存し、民族間の境界線がはっきりしないまま、第一次大戦で、ハプスブルク朝やロシアの帝国的な支配が崩壊したのに伴って、多くの国家が生まれたが、どこに最終的に境界線を引くかという問題は解決していなかった。

その不安定な状態なまま、すぐにナチスとソ連の勢力争いに巻き込まれ、第二次大戦後、いきなり社会主義に移行した。今度はソ連崩壊に伴って、衛星国家だけでなく、ロシア国内の他民族を中心とする共和国も独立したが、国家と民族の関係が不安定なので、紛争の火種になりやすいということでした。

制限主権論というのは、東ヨーロッパの西に比べた不安定さが、東の大国であったソ連の意識に反映されたものなのではないかと思います。そうした国民国家、民族、ナショナリティをめぐる問題に関心を持ちながら思想史を勉強していたので、そのことを思い出しました。

 

 カール・シュミットは、ヨーロッパの諸国間の基本的な秩序は、ウェストファリアの時に出来上がっており、ヨーロッパ以外の地域では植民地をめぐってめちゃくちゃ競争する一方で、ヨーロッパの国民国家間では相手を主権者と認め合い、完全に潰すところまでは行かず節度のある戦争をするようになった、と言っています。正戦ですね。

ソ連崩壊後、ウクライナはそういう体制の仲間に入っていて、ロシアもそれを尊重せざるを得なくなっていると思っていたけれど、実は少なくともプーチンの周辺ではそんな意識はなくて、結構古い意識のままやっているのではないかと思いました。

 

藤井▼ウクライナの歴史を紐解くと、ロシアに非常に影響を受け、ほぼロシアと同じような人々が住んでいる東側の地域と、西側のポーランド等々と関わりの深かった地域の間で、旧ソ連の制限主権論によって国境が引かれたということですね。

そういう出自ではあるけれど、さすがに三十年もやってきているので、それなりに主権国家化している部分もあっただろうに、結局は旧ソ連時代の制限主権論の認識でプーチンは動いていたんだ、ということが発覚したのかもしれませんね。

 

仲正▼そういうことです。ロシアは、自国の主権の限界に関して我々が思っているのと違う認識を持っているのかもしれません。

 

吉田▼歴史学者のティモシー・スナイダーは、西側とロシアの間の地域を「ブラッドランド」と呼びました。ドイツ東部からロシアまでの地域は、歴史的に見てもヨーロッパで最も脆弱な部分なんです。

それは民族と国境が一致していないからでもあるし、ウェストファリアの国民国家体制に十分に組み込まれていなかったからでもあります。あそこはもともとヨーロッパのウィークポイントであり、そこにプーチンが目を付けたということもあるかもしれないですね。

 

柴山▼中東欧がブラッドランドになるのは、西側諸国で標準的なネイションステートの仕組みが持ち込まれた、というのが大きいのでしょうか。

 

吉田▼帝国崩壊とその支配を受け、ウェストファリア体制をつくってきた標準的な国家形成ではなかったことは事実です。ただ、国民国家をつくるのは常に戦争です。そうした意味では、おそらくプーチンの意図に反して、侵攻はウクライナの国民国家化を進めてしまっている状況と言えます。

 

仲正▼ドイツとフランスの間で、何回も戦争をやってきて疲れ切ってEUをつくることになったわけですね。東ヨーロッパでは主権国家らしいものができていなかったせいで、ヘンな言い方ですが、ぶつかり足りていないのかもしれません。

これ以上ぶつかったらお互いダメになるから、線を引かないといけないという共通認識がないままソ連に取り込まれてしまったので、境界線の感覚が西ヨーロッパとは違うのでしょう。

 

吉田▼西側諸国は第二次世界大戦後に民族大移動を経験しました。ドイツにも一千万人以上のドイツ系の人が帰還してきたように、です。ある種、民族的にはユニフォームなコミュニティとして、ネイションステートが戦後再スタートを切ることになりました。もっとも、旧ソ連はそういう状況を経験しなかったことも、帝国主義の時代を生きていることの説明になります。

 

柴山▼そう考えると、東欧よりもロシアはもっと脆弱ですよね。国内にたくさんの少数民族が生活している。アジアも同様で、「戦争が国家をつくる」というテーゼから言っても、近代的な国民国家形成ができたのは日本を含めてごくわずかで、あとはまだ脆弱ということになる。これからアジアはどうなるのか、というのは大きな問題です。

 

アメリカとロシアの国益ゲーム

藤井▼ウクライナの国民国家制や主権の水準に着目すると、やはり二〇一四年のマイダン革命をどう捉えるかが重要だと思います。これはバイデンが副大統領の時に、ロシアとの約束を反故にする格好で、ウクライナの民主主義で成立していた政権をCIA等々の工作によって転覆させ、親米国家にした一面があります。

少なくともプーチンは、アメリカはウクライナの属国化を図ったと認識しているでしょう。そうすると、アメリカもロシアもウクライナの国民国家制を蹂躙しているのではないかと思うのですが、このあたりはいかがでしょうか。

 

吉田▼米ソ両帝国は、いまだにグレートゲームをやっているということだと思います。ジャーナリストのクラステフは『模倣の罠』という本の中で、ロシアはアメリカのやっていることをそっくりそのまま真似て、仕返しをしているに過ぎない、と指摘しています。

アメリカは裏庭の中南米でも色んな工作をしてきたわけで、ロシアは何で同じことをやっていけないのか、という論理がプーチンにはあるのでしょう。

 

 今は表向きでは、自由民主主義と権威主義との対立の構図になっているけれども、一皮むけば赤裸々な国益のゲームが展開されていると理解した方が、実際には様々なものが見えることは事実でしょう。

 

藤井▼なるほど。仲正先生はいかがでしょうか。

 

仲正▼昔、西部邁さんがよくおっしゃっていたことですが、同じ国益ゲームでもアメリカはまだマシだと。表面上はルールを守ってくれるからです。表面上のルールを守ってくれるので、次に何をやるかある程度読めます。

 

 ただ、アメリカもイラク戦争あたりになるとだいぶやり方が下手になってきました。傀儡政権をちゃんと建ててから行動を起こすというのが、イラク戦争くらいからできなくなってきた。

かなり下手くそな、ソ連と五十歩百歩に見えてしまう介入を、アメリカは二十一世紀に入ってからやっています。アメリカに余裕がなくなっているということだと思います。CIAなども何かやっていると思いますが、昔ほど事態をうまくコントロールできていないように思えます。相手側もアメリカのやり口を結構学習しているので、アメリカの思い通りになりません。

 

 しょうがないから、アメリカはだんだん手を引いているのだと思います。我々から見ると、ロシアはもっと手詰まりのはずなのに、何で露骨に手を出しちゃうのかという感じですが、プーチンからすれば、軍事力の面では、ロシアの実力はそこまで捨てたものじゃないということでしょう。

 

吉田▼アメリカの行動の予測可能性でいうと、バイデン政権が発足してすぐに、関係国との協議もなく一方的にアフガニスタンから撤退した事実があります。アメリカのヘゲモニーの衰退に伴って予想可能性もその分、低まっている。そしてアメリカのアフガン撤退がプーチンのウクライナ侵攻の引き金の一つになった可能性もあります。

 

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次回更新は12/29(木)!

前回の記事はこちらから→【クライテリオン最新号・特集座談会】二〇二二年を振り返る(1)

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【特集座談会】
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