皆様、こんにちは。
『表現者クライテリオン』編集部です。
本日は、『表現者クライテリオン』2023年1月号より書評『「資本主義」を乗り越えた先の労働とは?』をお送りします。
田中孝太郎
マーク・フィッシャー 著
大橋完太郎 訳
『マーク・フィッシャー最終講義
ポスト資本主義の欲望』
左右社/2022年7月刊
資本主義に代わるシステムを想像/創造できない現代社会の閉塞状況を、かつて著者のフィッシャーは「資本主義リアリズム」と呼んだ。だが彼は、「ポスト資本主義」を構想することを諦めているわけではなかった。
本書は、著者が学生とともに「ポスト資本主義」の可能性を探るべく行った講義録である。毎回の講義ではマルクーゼやルカーチなどのテキストを題材に、マルクスやフロイトの思想も参照しながら議論が展開される。
著者の自死により中断した講義録であるため、必ずしも体系的な議論とはなっておらず、全体像を把握するのは難しい。
しかし、キーとなる概念から著者の思考を辿ることはできる。一つは労働と欠乏、抑圧の関係だ。文明を成り立たせているものは抑圧である。なぜなら労働が不快なものであるならば、労働を強制する抑圧的な環境が不可欠だからだ。そして抑圧を生み出す根底には欠乏の感覚があるという。
一九六〇年代には、戦後の経済成長により西側諸国で欠乏が減少する。そこで生まれたのが「カウンターカルチャー」だ。著者はこの時期に、「ポスト資本主義」に向かうためのヒントを見出そうとする。
カウンターカルチャーは文化的運動であると同時に政治的運動でもあった。同時期に公民権運動が盛り上がったことは偶然ではない。しかし、いつしか政治的意味合いは薄れていき、ノスタルジーを呼び起こす「商品」として資本主義に取り込まれたことも事実である。
なぜこのような失敗が起きたのか。その理由の一つは労働者階級とカウンターカルチャーの対立にある。カウンターカルチャーは労働者層にとって脅威であり非難の対象であった。両者の対立の根底には、労働をめぐる考えの違いがある。
労働者階級は労働そのものを否定せず、その質や賃金の改善を訴えていた一方、カウンターカルチャー側は労働のプレッシャーからの解放を夢想していた。
著者はおそらく、「ポスト資本主義」の中心に「ポスト労働社会」を据えようとしている。
ここで問題とされる「労働」とは、欠乏と抑圧が根底にある、苦痛を伴う労働のことだ。ヒッピーに不可欠であったドラッグには否定的であるものの、既存の価値体系を相対化しようとする彼らの精神性は肯定しているように見える。
カウンターカルチャーが優れた文化・芸術作品を残し、政治的にも大きな影響を与えたことは間違いない。しかしそれでも、「倫理」の面では労働者たちの肩を持ちたくなってしまう。労働者階級が退屈な労働に勤しむのは、苦しみを享楽するマゾ的欲望があるからだと本書では指摘されるが、果たしてそれだけが理由なのだろうか。
著者は別の本で、資本主義リアリズムのもとでは心の病が蔓延すると述べたが、その事実は著者自身の鬱病と自死によって示されてしまった。本書でしばしば言及される、資本主義プロセスの高速化によって資本主義を乗り越えるという「加速主義」がこうした犠牲を伴うものだとすれば、我々は別の方向性を探るべきだろう。
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マーク・フィッシャー 著
大橋完太郎 訳
『マーク・フィッシャー最終講義
ポスト資本主義の欲望』
左右社/2022年7月刊
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