今、永田町では早期の解散総選挙の声が出始めているらしい。どうやら、岸田総理のウクライナの電撃訪問の国内世論の評判が良く、支持率が上向き始めたからだそうだ。
岸田総理はゼレンスキー大統領と共に、ロシアを強く非難しつつ「ウクライナ全土からの即時かつ無条件の撤退」を要求する共同声明を出した。
この共同声明は日本の対露外交の大きな転換をもたらす。なぜならウクライナ全土にはクリミアも含まれているからだ。これまで日本はクリミア問題に対して米国等と異なり、ロシアに対して比較的寛容な立場をとってきた。G7で唯一NATO加盟国ではないと同時に、唯一ロシアと国境を接する国であり、かつ北方領土問題まで抱えていたからである。
そもそもロシアは(是認すべきか否かはさておき)クリミアを手放すことはあり得ない。クリミアからの撤退を余儀なくされれば、核兵器使用リスクが高まるとの観測がある程にクリミアはロシアにとっての核心的利益だからだ。
にも関わらず今回岸田氏はクリミアからの無条件かつ即時の撤退を強く要求したのだ。
これは日本がロシアにとって米国やNATOと同じ立ち位置の国となったことを意味する。つまり日本は米国、NATOと同様に「ロシアと全面的な“准”戦争状態」に突入する事になったのだ。
言うまでも無く米国は岸田電撃訪問を高く評価している。事実上、ロシアと間接的に戦争状態にある米国等にしてみれば一緒に戦う仲間の国が増えた方が「国
益」に叶うからだ。
しかし、それが日本の長期的な「国益」に叶うとは限らない。
もちろん、日本がもしもこれを契機にロシアと戦う事すら辞さぬとの覚悟を決めたのであるのなら、まだ筋として通る。しかし日本は憲法の縛り故に戦う事
など出来ない。それが分かりながら今回岸田氏は、ロシアと戦うかのようなポーズを見せたのである。
結果、今回の電撃訪問は北方領土の返還交渉を全て破壊することとなった。安倍内閣が積み上げてきた経済や資源についての協力関係もまたご破算となる可能
性が一気に拡大した。しかも、近い将来生じうる台湾・尖閣有事の折りにロシアが日本に明確に「敵対」する可能性が拡大した。さらには将来(米国が日本を“見捨てる”等の)最悪の条件が整った折りに、ロシアが北海道に「侵略」を仕掛けてくる可能性すら高まったとも言いうる。
今回、プーチン大統領に批判的なロシアのメディアが岸田訪問はロシアが友好国を失った事を意味していると報じているが、逆に言うなら日本はロシアという(准)友好国を失ったのである。
もちろん、米国はこうした日本の国益毀損リスクになど一切頓着していない。日本国民の大半も又同様だ。「ロシアは犯罪者なのだからそんな奴との友好関係など全て捨てろ!」という空気が日本中、そして米国等に充満しているのだ。
しかし、日本には北方領土返還、資源エネルギーのポートフォリオ戦略、米国からの真の独立や戦後レジームからの脱却、数世紀にわたるアングロサクソンの
世界支配の打破など、長期的な外交目的が様々にあるのであって、それらの外交目的達成において永遠に隣人であり続けるロシアにただただケンカを吹っかける
態度などに合理性がある筈もない。
それは任侠映画で親分にたきつけられて鉄砲弾と化す頭の弱い子分と大差ない。そんな子分は親分の消耗品として殺されるのがオチなのだ。
空気だけで動く総理外交は国家を地獄に導く。それを我々は大東亜戦争で学んだ筈だ。しかしサルでも出来る反省を未だ日本人は出来ないでいるのだ。
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『表現者クライテリオン2023年5月号 【特集】「岸田文雄」はニッポンジンの象徴である ”依存症”のなれの果て』巻頭コラム「鳥兜」より
岸田首相の徹底批判を通じて、我が国の人民の”依存症”を見つめた本特集。是非、本誌をお手にお取りください!
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