【西田昌司】自民党は何を保守すべきなのか-戦後体制の無自覚な保守を改めよ

啓文社(編集用)

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本日は6月14日発売、『表現者クライテリオン2024年7月号 [特集]自民党は保守政党なのか?』より、特集論考「自民党は何を保守すべきなのか」をお送りいたします。

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冷戦が終わってもなおアメリカの占領政策に従う自民党。
日本の保守政党なら日本の価値観を取り戻すべきだ。

改憲ではなく反共のための保守合同

 自民党は、昭和三十年十一月に自由党と日本民主党のいわゆる保守合同により結党されました。その目的は、自主憲法制定であり、憲法改正の発議をするために必要な衆参両院での三分の二の議席を確保するためだ、と伝えられてきました。しかしながら、その後一度たりとも、まともに憲法改正に向けての議論がされたことはありませんでした。同年十月に右派と左派の社会党が合同し日本社会党が結成されました。いわゆる一九五五年体制の始まりですが、その背景には米ソの東西冷戦の影響があったことは間違いないでしょう。当時台頭してきた社会党や共産党という左翼勢力から日本を守る、それが保守合同の本当の目的であったはずです。

保守本流とは何か?

 昭和二十年八月十五日には終戦の詔勅が発表され、日本はアメリカに占領されることになります。吉田茂は、昭和二十一年五月に内閣総理大臣に指名された後、一時期を除き、昭和二十九年十二月までの間、七年以上にわたって内閣総理大臣を務めました。吉田茂が結成した自由党には、官僚出身者が多かったことが知られています。戦前は、政治家ではなかった官僚を政治家に登用したのが吉田茂の自由党なのです。戦前の日本とは明確に立場が違う政治姿勢を吉田茂はGHQに示そうとしていたのでしょう。吉田茂は、文字通り戦後の日本を作り上げた人物です。自民党の中ではよく保守本流という言葉が使われてきましたが、保守本流とは、吉田茂の路線を継承する自分達こそが自民党の主流派なのだ、という自負心を示した言葉なのです。

憲法と自衛隊の矛盾

 吉田茂の第一の功績は、明治憲法を改正して日本国憲法を作ったことだと言われています。前文で、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意し」、九条では戦争放棄を宣言したこの憲法は、世界に誇るべきものだと私達は教育をされてきました。
 しかし、昭和二十五年には、自衛隊の前身となる警察予備隊が組織されました。これは憲法違反だと今も共産党などは主張しています。確かに、九条と自衛隊は矛盾しています。しかし、その原因はGHQの占領方針が百八十度変更したことにあるのです。
 GHQは占領当初、日本に非武装化を命じました。同時に、共産主義者を解放しました。アメリカがソ連と協力して日本と戦争した事実が示すように、当時のアメリカ政府は共産主義を容認していたのです。ところが、昭和二十五年六月、北朝鮮が軍事境界線の北緯三十八度を超えて韓国に侵略を始めます。朝鮮戦争の勃発です。
 これを契機に米ソ冷戦が始まります。アメリカは容共から反共に政策を転換し、占領方針も百八十度変わりました。日本に駐留していた軍隊が朝鮮戦争に派遣されたため、その穴埋めとして日本に再軍備を要請したのです。ところが、既に憲法で軍隊を持たないと宣言していたため、軍隊を持つことを国民に説明できません。そこで、軍隊ではなく警察予備隊として自衛隊は発足することになるのです。つい数年前には、「自衛権も放棄する」と、吉田茂は国会で答弁していたにも拘らず、今度は、「憲法は自衛権を否定するものではない」として、事実上の解釈改憲をすることになるのです。
 これが、自衛隊と憲法が矛盾する根本的原因ですが、この事実が国民に正しく説明されていません。その原因は、当時はGHQに報道規制をされていたからです。問題は、占領が終わった後もこうした事実が報道されないことです。占領が解かれて七十二年経った現在においても、マスコミは自主的に報道規制をしているのです。これは政府も同様です。GHQによって憲法や自衛隊が作られたのではなく、日本人が自主的に作ったというのが政府の立場です。これを否定することは、戦後政治そのものの否定になります。そもそも国民が真実を受け入れないかも知れません。世の中は大混乱するでしょう。それを避けるがために、自主的に報道規制が続けられているのでしょう。

財政法制定の目的

 財政法も、憲法と同じく昭和二十二年に制定されました。財政法により、いわゆる赤字国債の発行が禁止されました。その制定の理由は次のように言われてきました。「戦時中、政府は多額の国債を発行して戦費を調達しましたが、その結果、戦後、大変なインフレに見舞われました。その反省から、国債発行に制限をかけ、健全財政を守り、インフレを抑制するために財政法は制定されたのです。」しかし、これは表面上の理屈です。本当の目的は、日本の再軍備を憲法と同時に財政面からも否定するために創られたのです。実は、こうしたことを共産党や朝日新聞も主張しています。
 そもそも、多額の国債を発行した戦時中には、インフレなど起こっていません。政府は戦争遂行に供給力を総動員していたため、民間需要を抑制してインフレを防御していたのです。
 しかし、戦争が終わり民間需要が沸騰します。その一方で、大都市の工業地帯は焼かれ、供給力が圧倒的に不足していました。終戦直後は、国家予算の三分の一が終戦処理費という名目でGHQに支払われる一方、復興に予算は殆ど使われなかったのです。これは真珠湾攻撃に対する仕返しだとも言われていますが、日本の貧困化もGHQの占領方針だったのです。こうした事実を知れば、需要の急増と圧倒的な供給力不足が戦後のインフレの原因であることが分かります。
 財政法は、日本の財政自主権を奪うための占領政策の柱であったと考えるべきなのです。度重なる地震被害を見るにつけ、国土強靭化は喫緊の課題だと誰もが感じるでしょう。更に、国防や教育支援などの少子化対策や、医療・介護・年金などの福祉の充実など、政府がやるべき仕事は山のようにあります。それにも拘らず、財政の健全化が必要だと財務省は訴えます。その根拠となっているのが、財政法なのです。そして、その結果が失われた三十年だったのです。財政法が日本の国力を奪っていることは一目瞭然です。

 

続きは本誌にて…

 

〇著者紹介

西田昌司(にしだ・しょうじ)
58年京都市生まれ。滋賀大学卒業。87年、税理士事務所を開設。90年、京都府議会議員当選。07年、参議院議員選挙に出馬し当選、現在3期目。参議院自民党国会対策副委員長、参議院予算委員会理事、財政金融委員会委員長、自民党副幹事長など要職を歴任。現在、自民党財政政策検討本部本部長、参議院財政金融委員会理事などを務める。著書に『総理への直言』『保守誕生 日本を陥没から救え』(西部邁、佐伯啓思との共著)『財務省からアベノミクスを救う』など。


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