「組織のガバナンスに問題がある」という言葉をニュースで耳にしたことがある人は多いだろう。では、「ガバナンス」とは何か? 早瀬善彦による本書は、この「ガバナンス」とは何かを、レオ・シュトラウスの政治哲学論から辿ることで問い直した野心的な試みである。
本書は、ガバナンス概念を「ガバメント」と「レジーム」の関係から整理する。すなわち、ガバメントは「単なる形式的な統治形態」であり、「レジーム」は「ガバメントを思想的に形づくる根源的な価値」にあたる。そして「ガバナンス」は、「確立されたレジームをより善きレジームへと発展させ、統治していく知恵と技術」だと定義される。
この「ガバナンス」の定義は、政治学や行政学の観点から見ても、いささか特異である。というのも、「ガバナンス」という言葉は、「ガバメントからガバナンスへ」という標語に代表されるように、中央政府の存在感の相対的な低下を受けて、非政府アクターの役割に注目する文脈で登場する用語であり、ネットワーク社会を分析する枠組みとして用いられるからである。翻って本書は、我々が避けるべき「悪しき統治」が明確に存在し、それに対抗するためにも、古典古代の知恵を借りる必要があると説く。あくまでも政府のありようにこだわる点で、本書は既存のガバナンス論と明らかに一線を画している。
本書で著者がとりわけ強いこだわりを見せるのは「レジーム」概念である。この探求を通じて、「善き統治」を可能にする条件が探索される。
こうしたガバナンスの探求は、実のところ政治哲学が本来探求すべきミッションでもある。ところが、現代政治哲学は、その手法や理論の深化と裏腹に、このような「善き統治」を可能とする政治のありようを探求する視点を十分培ってこなかった。これに対して本書は、かつて古典古代の英知に耳を澄ませ、よき統治のありようを「政治」を忌避することなく模索したレオ・シュトラウスを援用することで、この困難な問いと格闘する。この意味で本書は、本格派の政治哲学の書である。
「ガバナンス」について書かれた本は数多あれど、このような理路を辿った本はほとんどない。評者の力量的に、本書のシュトラウス解釈が妥当か否かを判断することは叶わない。だが、本書が切り拓かんとする古典古代の英知を辿る足取りは、政策研究からしても、決して突飛ではないことも確かである。本書も援用する政策科学の泰斗、イェヘッケル・ドロアはその著作、Avant-Garde Politicianにおいて、古典古代の英知も踏まえ、「善き統治」を可能とする「善き政治家」のありようを探っているのである。この点において本書は、紛うことなき公共政策の書でもある。
我々の生に深く関わる、「統治」のありようを吟味するにあたり、その本質を問い続けた先人の声に耳を澄ますことが、時にこの上ない手がかりをくれることがある。細分化の進む政治哲学、政策研究にあって、巨大な問いに果敢に挑んだ得難い試みとして、本書は記憶されるだろう。
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