【鳥兜】からっぽな国のうつろな宰相

啓文社(編集用)

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本日は最新刊『権力を動かす権力の構造~ディープステート(DS)論を超えて~』より、巻頭コラム「鳥兜」をお送りいたします。

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 死の直前、三島由紀夫は次のように書いていた。「このまま行ったら『日本』はなくなってしまうのではないかという感を日ましに深くする。日本はなくなって、その代わりに、無機的な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜け目がない、或る経済的大国が極東の一角に残るのであろう。それでもいいと思っている人たちと、私は口をきく気にもなれなくなっているのである。」 (「果たし得ていない約束」)

 昭和四十五年 (一九七〇) の言葉は、今も読む者の心に刺さるが、この慧眼の士にもおそらく見抜けなかったのは、五十五年後の日本はもう極東随一の経済大国ではなくなっているという一事である 今の子供が大人になる頃には、日本はアジアで四番目か五番目の国になっている。人口の一割以上が、外国出身の移民となっているだろう。円の力も落ちて、外国からまともにモノが買えず、慢性的な物価高に悩まされているはずである それでも高潔な生活を送れていればいいが、貧すれば鈍するのが世の習い、民度も下り坂を転がり落ちているに違いない。

 それなのに、まるで危機感がない。かつて池田勇人は、ドゴールに「トランジスターのセールスマン」と揶揄された。ソニーの製品を熱心に宣伝したからだが、今の政治家と比べれば、代表的企業の商品を売り込もうとする熱意がある分、はるかに上等である。戦後日本人は、刀をそろばんに持ち替えて外国と渡り合ったが、今はそろばんさえ投げ捨てて、揉み手して相手のご機嫌を伺っているだけだ。来日する外国人に懸命にサービスして、わずかばかりのおこぼれに与ろうとする。それを「新たな成長戦略」などと言って恥じない、哀れな国に成り下がった。現実は、天才作家の想像力を追い越して進んでいる。刀を放棄した後に残ったのは、「からっぽ」で抜け目のない経済大国などではなく、「からっぽ」な上に卑しい経済貧国だったのだ。

 恐ろしいのは、そんな近未来がもう誰の目にも映り始めているのに、国家の指導者から熱意も覇気も失われていることである。石破茂の顔相を見よ。顔の美醜ではない。あの焦点の定まらない、うつろな目がすべてを物語っている。

 国際会議で、ひとり椅子に座り込んでスマホいじりに精を出す。そんな光景がこれまであっただろうか。かつては、公然と席を立って国際社会からの孤立を選んだこともあった。戦後の歴代首相は、談笑の輪から外されても作り笑いを忘れず、隙あらば割り込こもうと抜け目なく 振る舞ったものだ。それが今やどうだ。「ボクに話しかけないで」とばかりに、 弱々しい目線をスマホに向けて周囲と壁を作る。まるで、不釣り合いな大人の場に連れて行かれた、拗ねた子供のようではないか。

 あのような、国家の代表者たる自覚のかけらもない男が総理大臣の座にあることに震えるような恥辱を覚える。これはもう、政策論とか戦略論とかいう以前 の、絶対感覚の問題である。それでもいい、政策が良ければいいのだ、などと嘯く人たちと、私は口をきく気にもなれなくなっている。


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