【藤原昌樹】今日も今日とて矛盾だらけの反戦平和活動家たち ―日米ジョイントコンサートに抗議する不思議―

藤原昌樹

藤原昌樹

沖縄県民が一流の音楽に触れる機会-第28回日米ジョイントコンサート

 

 8月31日、今年も沖縄で「日米ジョイントコンサート」が開催されます(注1)

 

     

陸上自衛隊 第15旅団のHPとX(旧Twitter)に掲載されているコンサートの案内

 

 「日米ジョイントコンサート」とは、陸上自衛隊第15音楽隊と米海兵隊第3海兵遠征軍音楽隊によるコンサートのことです。

過去に行われた同コンサートの様子のごく一部をYouTubeで視聴することができるのですが、その映像を視ていただければ、世界的にも高く評価されている自衛隊と米海兵隊の音楽隊の演奏を無料で楽しめる機会を心待ちにしている沖縄県民が少なくないということをご理解いただけるのではないかと思います(注2)

 

 しかし残念ながら、このような沖縄県民、特に子供たちが一流の音楽に触れる機会となるイベントに水を差す抗議活動をしようとしている反戦平和運動家たちがいることを知りました。

 

理不尽な主張を振りかざす反戦平和活動家たち

 

 下記の画像が、「自衛隊と米軍のジョイントコンサートに抗議しようとしている輩がいますよ」と教えてくれた友人が送ってくれたチラシです。

     

「日米合同音楽会に抗議する実行委員会」が配布しているチラシ

 

 このチラシでは、「第28回日米ジョイントコンサート」の当日(8月31日)にコンサート会場の前に集まり、抗議活動に参加することを呼びかけています。

 このような呼びかけは28回目にして初めてのことです。

 

 チラシには「島々から連帯と共闘を求めて 沖縄県内外の皆さんへ」と題して「市民社会では、自衛隊による住民懐柔策、宣撫工作が活発になり、子どもたちが自衛隊参加のイベントに囲い込まれようとしています。軍隊の演奏会がその最たるもので、音楽の持つ文化的価値や普遍性を利用して、軍事組織の暴力性をオブラートに包んで、軍事の側へ引き入れようとしています。島々の日常生活が迷彩柄の軍事色に染められて行きます」と記されていますが、まるでチンピラが何ら非のない一般市民に因縁をつけているかのようです(注3)

 

 今年1月に「南西航空音楽隊のコンサートが『沖教祖』の要請で中止に追い込まれてしまった騒動」が起こった際に、『産経新聞』論説委員の川瀬弘至氏が「沖教組が校長らに出した文章が酷い。中止を求める理由を6つ挙げているが、いずれも矛盾に満ちている」と一刀両断にしていました(注4)が、今回の抗議活動の呼びかけも論理が飛躍して矛盾に満ちており、「これがテストの解答なら0点だ」という厳しい評価を下さざるを得ない文章です。

 

 自衛隊が「暴力装置」であるのは当たり前のことですが、それは警察も同様です。そもそも国家権力は暴力を独占することによって秩序を保つのです。

 暴力はこうして市民から取り上げられている訳ですから、暴力をオブラートに包んでいるのは我々の市民社会そのものです

 そして、警察はその暴力を市民に向けることが前提とされていますが、自衛隊は対外的な暴力に抗する組織です。もしこの暴力が悪だと言うのであれば、それは必要悪です。

 国家の秩序と安寧のために、その必要悪を担うのが自衛隊員(彼らもまた本来的には一市民です)であり、彼らはその責務を果たすために命を落とす可能性すらあります。

 その事実を踏まえると、市民社会が自衛隊を受け入れず、彼らに対して無理解でいて構わないと考える方がおかしいのではないでしょうか。

 

 仮に市民の側に自衛隊に対する不信感や忌避感があるのだとしても、今回のコンサートのようなイベントなどの場で市民との接点を持つことがなければ、その不信感や忌避感が増していくばかりです。

 お互いが顔の見える関係を作り、相互に理解を深めることに努め、それでも何か批判があるのであれば批判すれば良いのでしょうが、顔の見えない関係をそのままに、何らかのイデオロギーに基づく理不尽な抗議の声をあげ、自衛隊へのヘイトを繰り広げるというのは、本来の意味での「平和」から最もかけ離れたやり方であるように思えてなりません。

 

抗議活動ではなく、共に『素晴らしい音楽』を楽しむことをお薦めしたい

 

 これまでに何度か拙稿で論じてきたように、自衛隊は、1972年の沖縄の「日本復帰」と同時に沖縄に配備されてから長い時間をかけて大多数の沖縄県民と良好な関係を築き上げてきましたが、沖縄には「自衛隊差別」の歴史があり、既に僅かな割合になっているとはいえ、現在に至るも「反自衛隊感情」を抱いている人々がいることも否定できません。

 

 今年に入ってからでも、那覇市内の公立小学校で開催されるはずであった南西航空音楽隊のコンサートが「沖教祖」の要請で中止に追い込まれてしまったり、宮古島トライアスロン大会で宮古島駐屯地の自衛隊員が迷彩服を着て支援活動を行うことに対して「組織ぐるみの懐柔策だ」と抗議をしたりするなど、反戦平和活動家たちによる「自衛隊差別」と言って過言ではない抗議活動が繰り広げられています(注5)

 

 『沖縄タイムス』『琉球新報』をはじめとする沖縄のマスメディアは、このような反戦平和活動家たちによる「自衛隊差別」を戒めるどころか、助長していると看做さざるを得ず、彼らに対する憤りを禁じ得ません。

 

 コンサートを楽しむために訪れる人々と抗議のために会場の敷地に入り込む活動家を峻別することは極めて困難な作業であり、この抗議活動を警備を強化することなどによって完全に封じ込めることはほぼ不可能です。

 

 残念ながら、ウチナーンチュによる「自衛隊差別」という「沖縄の恥ずべき歴史」に新たな1ページを付け加えることになってしまう蓋然性が高いでしょう。

 

 沖縄県民が自衛隊と米海兵隊の音楽隊による「素晴らしい音楽」に触れる機会に抗議するのではなく、「反戦平和運動家」たち自身が、彼らの子供たちを連れてコンサートを楽しむことの方が、彼ら自身にとっても、よほど有意義な時間になることは間違いありません。

 「反戦平和運動家」の皆さんに、会場の外でシュプレヒコールをあげるのではなく、会場に入って「素晴らしい音楽」を楽しまれることをお薦めしたいと思います。

(注1) 陸上自衛隊 第15旅団

(注2) 米海兵隊第3海兵遠征軍音楽隊と陸上自衛隊第15音楽隊の合同演奏

・ これが自衛隊音楽隊の力だ! – MAMOR-WEB

(注3) チラシに記載された文章の全文は下記の通りです。

島々から連帯と共闘を求めて 沖縄県内外の皆さんへ

 琉球弧の島々への自衛隊新基地建設、ミサイル配備、軍事要塞化がものすごいスピードで進行しています。国境の島であろうと、観光の島であろうと、地下水が命の水の島であろうと、一切顧みられることなく、強行されています。

 それに符合して、日米の共同軍事訓練が全国で絶え間なく続いています。

 中でも、米海兵隊の「海兵沿岸連隊」への再編と新戦略、それと一体となり、呼応する陸海空自衛隊の統合作戦司令部新設があり、日米の軍事一体化は司令部・作戦・施設の共有となり、自衛隊は米軍の指揮下に包摂されています。

 国是であるはずの「文民統制」はもう無いのも同然、自衛隊の旧日本軍化、軍部の暴走が始まっており、戦前回帰の傾向が強まっています。私たちの暮らしは疲弊し、生活苦にあえいでいるのに軍事予算だけは倍増し、軍備拡大が続いています。

 市民社会では、自衛隊による住民懐柔策、宣撫工作が活発になり、子どもたちが自衛隊参加のイベントに囲い込まれようとしています。

 軍隊の演奏会がその最たるもので、音楽の持つ文化的価値や普遍性を利用して、軍事組織の暴力性をオブラートに包んで、軍事の側へ引き入れようとしています。島々の日常生活が迷彩柄の軍事色に染められて行きます。

 また、島々で進む「戦争最前線の軍事要塞化」の一方で、宮古八重山の12万人は「国民保護」だの「避難計画」だのという言葉で、「島を棄てる」こと=「島民が棄てられること」、棄民政策を強いられています。政府・防衛省はこれまでの「基地建設は抑止」論を今やかなぐり捨てています。

 昨年、与那国や石垣には自衛隊と共に米軍が上陸し、軍事訓練を行いました。

 宮古では、これまで住民の激しい抵抗と首長のNOの前で、米軍の上陸は押しとどめてきましたが、自民推薦の市長に変わり、米軍上陸がいつ行われるか、厳しい状況が迫っています。

 今回、8月31日17時から、沖縄コンベンションセンターにて開催される「第15旅団音楽隊と第3海兵遠征軍音楽隊のジョイントコンサート」は、まさに陸自と海兵隊の共同行動の先鞭となるイベントです。

 石垣では来月、この海兵遠征軍が新兵器ネメシスを上陸させ展開訓練する計画です。私たち宮古島住民にとっては、海兵隊初上陸の狼煙となるイベントとして立ち現れています。

 参院選後、急伸する「差別排外主義」「天皇主権」「核保有」を論じるファシズムの萌芽に反ファシズムの戦線を構築して、反戦を貫かなければなりません! ぜひ、連隊と共闘をお願いしたいと思います。

2025年8月6日 

日米合同音楽会に抗議する実行委員会

(注4) 時代錯誤のトンチンカン 自衛隊演奏会を中止に追い込んだ沖縄県教組のあきれた言い分 日曜に書く 論説委員・川瀬弘至  – 産経ニュース

(注5) 【藤原昌樹】いま改めて「沖縄の恥ずべき歴史」を振り返るー沖縄における自衛隊差別 | 表現者クライテリオン

 

(藤原昌樹)

 


<編集部よりお知らせ1>

敗戦とトラウマ
次こそ「正しく」戦えるか

浜崎洋介 編著

▶ Amazonで購入する

▶ サポーターズの「選べる書籍」で入手する

わたしたちはなぜ「あの戦争」を上手く語れないのか?

三島由紀夫、吉田満、城山三郎、丸山豊・・・・・・凄惨な戦場と様々な不条理、えも言われぬ充実感と耐え難い罪悪感。あの時、確かに日本人の中にあった感情とそれを失ってしまった喪失感が、戦争文学には刻まれていた!
特攻、沖縄戦、敗戦……
文学が刻んだ日本人の精神的断絶の深層を見つめる「戦争文学座談会」。

クライテリオン叢書第5弾、『敗戦とトラウマ 次こそ「正しく」戦えるか』が本日Amazonで販売を開始しました!
(全国の書店では8月7日ごろ発売となります。)

 

<編集部よりお知らせ2>

大場先生はこう記しています──

さても不思議なことに、こうした未来を真っ先に想像したのは、会沢正志斎を筆頭とする日本儒教だったはずである

近代の世界秩序に先んじて、「国体」にもとづく独立と文化的自立の戦略を構想していた水戸学。

会沢正志斎が語った世界観は、単なる歴史の一ページではなく、現代においてこそ再び参照されるべき思想の水脈です。

このたびの「水戸遊学合宿」では、まさにその正志斎の遺構を訪ね、江戸日本が提示した思想的骨格に迫ります。

大場先生による現地講義と案内のもと、史跡を歩き、語り合い、思想に触れる二日間。

文明の転換点に立つ今こそ、日本の独立精神の原点を学びなおす絶好の機会です。

【特別企画】水戸遊学合宿

🗓 日程:二〇二五年八月二十三日(土)〜二十四日(日)

🚌 新宿駅より貸切バスで水戸へ

🎤 講師:大場一央先生(儒学者/水戸学研究)

🏯 弘道館・水戸城・偕楽園などを訪問

🍶 懇親会・宿泊付き(夜は語りの時間も)

📌 詳細・申込はこちら

👉 https://the-criterion.jp/lp/mitotour/

皆さまのご参加を、心よりお待ちしております。

表現者塾事務局

info@the-criterion.jp

執筆者 : 

CATEGORY : 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

メールマガジンに登録する(無料)