『表現者criterion』メールマガジン

【藤井聡】「不当なハラスメント」と「不当なハラスメント申告」を考える。

From 藤井 聡(表現者クライテリオン編集長・京都大学教授) 

昨今、「ハラスメント」の問題はニュースを賑わしています。

典型的なのが、ボクシング協会の山際会長の騒動ですが、
今、騒がれている体操の塚原夫妻の騒動も、同様です。

アメフトの日大のタックル事件の時も、
日大の監督から日大の選手に対する「圧力」の問題が
大きく話題となりました。

こうした「ハラスメント」騒動には、
実に複雑な要素が絡み合っており、
単純に論ずることが難しい、という特徴があります。

本誌クライテリオンの保守放談でも、一部、
触れられていましたが、ここでは、
この問題について、一度じっくりと、
考えてみたいと思います。

そもそもこれがニュースで騒動になっているのは、
次の論点があるからです。

【論点1:「不当」な圧力構造問題】
今まで隠蔽されてきたが、
本来、そこには「不当」な圧力構造があり、
こういう不当な圧力構造は解消せねばならない

しかし、この論点の裏側には、
次の論点があることを忘れてはなりません。

【論点2:適切な上下関係・組織の崩壊問題】
ハラスメントの定義は被った側の「主観」によるのであり、
その圧力を「不当」だと思えばハラスメントとなる。
したがって、あらゆる「ハラスメント申し立て」が、
別の規準から見た時に
「不当」となる可能性が潜在しており、
それが横行することで、
適切な上下関係や組織が崩壊していく。

もっとも、今、ニュースで騒がれる事例の多くは、
論点1の観点から見て、
「社会通念から見て、こりゃ、不当な圧力だろう」
とメディア関係者達が判断したからこそ、
騒動になっている訳ですから、
「論点1」でもって、
圧力者を批判する報道が主流となってはいます。

とはいえ、それでも、
「論点2」の視点が不要となることはありません。

仮に報道されたそれぞれの「事件」の「ハラスメント申告」が
「100%正当」であったとしても、
そうした事例が騒がれれば騒がれる程、
社会全体で「ハラスメントの不当申告」
が誘発される可能性が増大し、
かつ、その不当申告を、
社会や組織が「許容」する可能性が
増大してしまうからです。

つまり社会通念それ自身が、
こうした騒動によって変えられてしまうわけです。

そもそも、本来的に
上司部下関係、師匠弟子関係というのは、
「上から下に対するパワーがある」
ことを全ての前提としたもの。

だから、あらゆる上下関係は、
それがマジメに営まれている限り、
それが「ハラスメント」と認定される可能性が、
常にあるわけです。

下の者が(あるいは、第三者が)、
それがハラスメントだと言えば、
それでハラスメントが成立するからです。

にも関わらず、そんな上下関係、師弟関係が
歴史の中で延々と営まれてきたのは、
そうすることでしか、
人と人が協力していくことができず、
組織を動かすことができない、
という側面があったからでしょう。

ですが、「ハラスメント申告」が当たり前となった社会では、
「上司側」が身を完全に守るためには、
上司であることを「放棄」するしか
方法がなくなってしまいます。

かくして、ハラスメント騒動が増えれば増える程に、
日本中の「上下関係」「師弟関係」が溶解し、
それをベースに組み立てられているあらゆる「組織」が
「崩壊」していく事になるわけです。

だから、メディア上で論じられている
論点1:「不当」な圧力構造問題
の裏で、密かに、しかし確実に進行する、
論点2:適切な上下関係・組織の崩壊問題
にも、我々は思いを馳せねばならないわけです。

そして、その上で、
その両者の間のバランスを取りながら、
それぞれの組織を運営していく事が、
求められているわけです。

もしもそうした緊張感ある組織運営がなされるなら、
何が適正な組織運営であるのかを考える
規準(クライテリオン)が涵養され、
上司と部下の振るまいが
少しずつあるべき方向に改善し、
上司と部下との間の信頼関係の形成を促し、
それぞれの組織が公正に活性化すると同時に、
「不当な組織」と対峙する方法や胆力を鍛える
ことともなるでしょう。

一方で、そうした努力を放棄すれば、
あらゆるパワーが「ハラスメント認定」されてしまうか、
その反対に、
あらゆるパワーが「是認」されてハラスメントが横行するかとなり、
日本社会は文字通り崩壊することとなるでしょう。

ハラスメント報道が日々騒がれている昨今、

「現実にハラスメントで苦しんだ方が居るにも関わらず、
不当ハラスメントの議論をするなど、不謹慎だ!」

との批判の声が聞こえてきそうですが、
こうした状況だからこそあえて、
少々メディア上では言いにくい「論点2」の視点を、
提起しておく必要があるのではないかと考えた次第です。

筆者もしばしば従事するTVのニュース解説でも是非、
限られた時間の中ではありますが可能な限り、
こうした多面的視点からの解説を試みたいと思います。

追伸:より深いニュース解説、は、テレビよりもラジオの方がゆったりとできます。是非、「週刊ラジオ表現者」を、下記ホームページからご聴取ください!
https://the-criterion.jp/category/radio/

執筆者 : 

TAG : 

CATEGORY : 

啓文社書房/株式会社啓文社

本社
〒160-0022 
東京都新宿区新宿1-29-14 
パレドール新宿202
TEL
03-6709-8872
FAX
03-6709-8873