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【柴山桂太】閉塞感の正体

柴山桂太

柴山桂太 (京都大学大学院准教授)

『表現者クライテリオン』の最新号が出版されました。特集テーマは新自由主義です。今号も250頁を超える分量になっています。

先週の土曜日、フランソワ・アスリノ氏を招いたシンポジウムに出席しました。その前後にも話を伺って分かったのは、フランスも大きな閉塞感に覆われているということです。

二度の大戦による惨禍を超えて独仏が手を取り合い、欧州を一つの理想共同体に変えていこうというプロジェクトが今では、各国に緊縮財政を迫り、(ドイツなど一部の国を除いて)高失業が常態化する社会を生み出してしまった。

かつては「ディリジズム」と呼ばれた、独特の混合経済体制を指揮していたフランスのエリート層もすっかり変質し、いまでは欧州統合の美名の下に、ネオリベラル型の改革を進めることに余念が無い。

かつてはフランス文化に誇りを持っていたエリートは、みな英語を話すようになった。英語が話せるということが、エリートと庶民を区別する一つの指標になってしまったからだ。

言いようのない閉塞感が社会を覆っているが、大手メディアは「ここががんばりどころだ」とばかりに、既定の改革路線を受け入れるよう人々に迫っている。

…などの話を聞くと、状況はどの国でも変わらないのだとの思いが強まります。

もちろん日本はEUのような、国家の主権を強力に制約する国際体制に組み込まれているわけではありません。難民問題に追われているわけでも、高失業に苦しんでいるわけでもない。

ただ、グローバルな経済統合を優先する風潮の下、もとある制度を大幅に改変しなければならないという強い圧力に晒されていることには変わりありません。

しかし制度を変えて生活や労働環境が良くなるわけではない。デジタル化の影響もあって仕事はますます忙しないものになり、組織の論理への従属は深まり、言いようのない閉塞感が社会の隅々に広がっています。

欧州や米国では、既成政治に対する反発が目に見える形で現れはじめていますが、似たようなことは早晩、日本でも起きることになるのではないか。

もともと新自由主義(ネオリベラリズム)は、政府の経済への関与を減らし、人々の活動を自由にするという触れ込みのものでした。

ところが実態はどうか。新しい産業が生まれるにつれて政府の規制は減るどころか増え続けていく。民間企業もコンプライアンス(法令遵守)が求められるようになり、業界や社内で従うべき規制や手続きも増えていく。

改革が自己目的化し、成果が出ようがでまいが、一度決まった路線は修正されることなく進んで行く。そして、どの改革でも「ここががんばりどころだ」という庶民道徳が動員されるのですが、恩恵を享受できるのはごく一部の層だけ。

それ以外の層は努力が足りないと社会的な烙印を押され、そのプレッシャーに苦しむことになる。

社会秩序は表面的には良好ですが、一歩踏み込むと、行き場を失った不満や閉塞感が急激に膨らんでいる。その蓄積はいずれ、政治体制を大きく揺るがす事態をもたらすことになるでしょう。

今号の『表現者クライテリオン』の特集は新自由主義の再検証ですが、そこでの狙いは単なる経済論ではなく、時代の閉塞感を多少とも明らかにすることで、別の社会構想へとつなげていこうという意図を持っています。

多くの優れた論考を収録していますので、是非、お手に取って頂ければ幸いです。

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