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【浜崎】「勝者なき参院選」を読む――現状維持マインドと、その限界について

From 浜崎洋介(文芸批評家) 

 こんにちは、浜崎洋介です。

 今回の参院選の結果を受けて、安倍晋三首相は「築き上げた安定した政治基盤が、国民から力強い信任をいただいた」と胸を張りましたが、それは、冗談でなければ、端的に「嘘」だと言うべきです。

 理由は二つあります。

 一つは、まず、今回改選となった66議席を自民党が9議席減らしていること。そして、もう一つは何といっても、5割を下回った投票率の低さです。

 とくに、投票率の低さは、現行政治に対する「信任」ではなくて、「諦め」や、「選択肢のなさ」を示しています。実際、今回の48.8%という投票率は、「大義なき連立」によって「政治不信」が囁かれていた1995年の投票率(自・社・さ連立政権―村山富市氏首相時代の44.52%)以来の低さだとのことですが(しかも、期日前投票や、投票時間の延長などによって以前より投票しやすくなっているにも関わらずです)、
ということは、消費増税を決めた政権に対して――あるいは、移民の自由化、種子法の廃止、水道の民営化などを決めてきた政権に対して、国民は「大義のなさ」を感じていると解釈するのが自然でしょう。

 つまり、安倍自民党が特別いいわけではないが、しかし、「消費増税凍結」を言いながら、その裏で「その後の増税」に含みを残している既成野党も信用がならない、というのが多くの国民の本音ではないかということです(そもそも消費増税を決めたのは民主党政権ですし、立憲民主の中には財政均衡論者の長妻昭氏が、国民民主の中には前原誠司氏がいることも不信の原因ではなかったかと推測されます。その点、一貫して「反緊縮」の経済政策を打ち出すことのできた「れいわ新選組」が、ある種の「風」を起こしたというのは頷けます)。

 しかし、それなら、今回の政権与党の「勝利」は、何によってもたらされていたのか。もちろん、それは投票率の低さによる公明党の議席増もありますが、私の見立てでは、さらに、次のような「気分」もあったのではないかと考えています。すなわち、「何かが変わることで、これ以上悪くなるなら、このままでいい」という「デフレマインド」です。

 たとえば、その投票行動を解釈する手掛かりの一つに、「1995年~2015年にかけて、生活に不満を持つ層が自民党への支持傾向を強め」ていることが挙げられます(注1)。が、さらに言えば、今回の投票結果の統計でも改めて明らかになりましたが、安倍内閣の支持率が、
〝将来が不安定であるはずの若年世代″で一貫して高止まりをしているということがあります(――安倍政権の過去三年の支持率は、18~29歳の男性で57.5%、30代男性で52.8%、男女の全体で42.5%です。また、実際に自民党への投票率は30代以下で41%、60代以上で34%であるのに対して、野党への投票率は30代以下で18%、60代以上23%となっています)。

 これは、一見、不思議な現象ですが、しかし、考えてみれば、それこそ、デフレ世代特有の(悪い意味での)「守り」の意識の現れとでも言うべきものではないでしょうか。以前のメルマガ(「『デフレ』とは何か――それが『心』に与える影響について」)でも触れましたが、
つまり、「デフレ」に飼いならされてしまった心は、仮に、現状に不満があるのだとしても、見通しの利かない冒険(実験)によって、今、確実に手にしている〈数字=生活〉を手放すくらいなら、現状を肯定する方を選ぶのだということです。

 それこそ、自分のことで精一杯の若年層(あるいは相対的貧困層)においては、消費増税も含めて、移民の自由化、種子法の廃止、水道の民営化などが、どのように自分の生活に影響を及ぼすのかという「想像力」は育ちにくい。そこで、まず目が行くのは「天下国家」の問題ではなく、「我が身の安全」ということになる。しかも、彼らの眼の前には、そんな「我が身の安全」を測る数字として「日経平均株価」と「就職率」がある。
とすれば、それを維持している〝かのように″見える安倍政権への〝なんとなく現状肯定″の気分が消えにくいというのも分からない話ではないでしょう(ただし、これまでのアベノミクス唯一の成果と言われている経済成長も、完全に〈外需―輸出〉頼み――つまり、単にアメリカの好景気に助けられたラッキーな成長=国民の生活とは無縁の大企業中心の成長でしかなかったことは、たとえば藤井聡編集長の『令和日本・再生計画』などを読んでいただければ一目瞭然なんですが……しかし、それを知っている国民は、おそらくごく一部でしょう)。

 そして、さらに補足すれば、今現在、「いつ、自分が下層(年収200万以下)に落ちて行くかも知れない」という恐怖に怯えている非正規労働者が増え続けているのだとすれば、この「現状維持マインド」は強まることことはあっても、解消させることは難しいと言うべきなのかもしれません(総務省の調査によれば、今や非正規労働者の数は、10年前から350万人も増えて2120万人にまで――労働者の38%=約4割にまで達しているとのこと)。

 しかし、これは、逆に言えば、「外需」が冷え込み、金融緩和だけでは「株価」を粉飾しきれなくなり、「就職率」が下がりはじめたとき、安倍政権は、一気にその「裸の王様」ぶりを露わにするということでもあります。言い換えれば、その時になって、ようやく日本人は、個人消費(内需)が全く振るわず、実質賃金が下がり続けており、貧困層が拡大し続けているという、この、どうしようもない「日本の現実」に直面するのだということです。

 が、その「気づき」は、案外、早く来るのかもしれません。その予兆が、今回の投票率の異常な低さであり、また「消費税廃止」と「反緊縮」を旗印にして戦った「れいわ新選組」の躍進でした(寄付金4億円を集めた「れいわ新選組」は、さらに政党要件をみたす2%を遥かに上回る4.5%の228万の比例票を集め、
山本太郎代表は比例候補で最多の99万票を獲得したのでした)。実際、現在の中間層の54%が「自分は右でも左でもない」と答えているそうですが、そんな「無党派層」の57%までが、今回、非自民の候補に入れているのです。この数字を考えれば、今まで「我慢」していた「不満」が、いつ、どんなきっかけで表に溢れ出てくるかは分かりません。

 果たして、この予兆を敏感に感じ取って、自民党が国民政党としての自覚を取り戻すのが早いのか、それとも「れいわ新選組」その他の新生政党が、欧米並みのポピュリズム政党として支持を集め出すのが早いのか、あるいは、そのどちらも起こることなく、このまま日本が完全に沈んでいくのが早いのか…。いずれにしても、現状(安倍晋三的なるもの)からの「転換」が求められていることは明らかです。そして、それを決めるのは、大企業でも、経団連でも、財務省でもなく、私たち国民一人一人であることも忘れるわけにはいきません。

 注1―この言葉自体は「『安倍支持』の空気」という朝日新聞の一連の特集記事(https://www.asahi.com/special/matome/abe_mood/)からの引用ですが、今回のメルマガを書くに当たっては、そのほかに、藤井聡編集長の『令和日本・再生計画―前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)や、階級社会を研究する橋本健二氏(早稲田大学)の研究『アンダークラス―新たな下層階級の出現』(ちくま新書)などを参照させて頂きました。

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コメント

  1. 神奈川県skatou より:

    最低でも国民国家、民主主義勢力の日本では、多くの人々の考え方、会話する言葉がすべての要になっているはずです。でも、現在の言葉の枠組みでは、問題解決できないどころか、問題認識さえ、できない。

    枠組みから脱出できる人は限られるとすれば、現状の枠組みに依拠しつつ、沈んでいくしか、なすすべがないのは、しょうがないことなのかなと、先生の「デフレ=現状維持マインド」を拝見し、ありありと想像してしまいました。

    だからこそ、言葉の整理をして、整備をして、空虚な表象をつぶして、もっと適切なカタチを指し示さなければいけないのでは、と思いました。

    クニノシャッキンとかいう無駄で毒な言葉。
    ザイセイアカジという、関係性が削除された扇情的でしかない言葉。

    こんなゴミを少しづつ片づけるしかないのかなと。
    あるいは、言葉がゴミ化してるのならば、別の表現(図示等)も大事なのかもしれません。

  2. 拓三 より:

    依存、裏切り、そして反動…..クワバラクワバラ

    桜の討論見ました !
    パネリストのほとんどが保守ではなく ただの反共。
    そろそろあの人達、民主主義も社会主義だ、と言い出しそうw

    MMT批判の人達も同じで国家を否定し民主主義を否定し、その代わりに株価がその役割を担うロジックw
    民主主義は誰もが一票。株は資本家が大量の票を持つので金持ちほど有利。
    投票率が下がれば下がるほど民主主義は衰退し資本主義が剥き出しになる。
    いわゆる男の論理(強弱)が幅を利かす社会。

    何故、資本主義と民主主義、つまりアクセルとブレーキが必要なのか。
    そしてその先にある国家の必要性。

    今回の投票率の低さで「勝った」と喜んでいる政党は民主主義の破壊を目論む政党であります。

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