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【白川俊介】マイノリティ・ナショナリズムをどのように処遇するか?:2020年英国/ヨーロッパ政治の行方

From 白川俊介(関西学院大学准教授・エディンバラ大学客員研究員) 

本年も英国、とりわけスコットランドの政治状況などを中心に、私なりにレポートできたらと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

先月のメルマガでも書きましたが、先に行われた選挙を経て、いよいよ今月末に英国はEUを離脱することになります。それがその後にどういう具体的な影響を及ぼすことになるのかはまだよくわかりません。ただ、今後の英国政治においては、スコットランドの独立が極めて重要な問題の1つになってくるでしょう。

SNP(スコットランド国民党)が要求しているように、今年の後半に独立を問う住民投票(Indyref2)が行われるのかどうか。この点が焦点になってこようかと思います。

それとの絡みで1つ気になるのは、英国と米国の関係です。

英国はEUからの離脱をめぐる細かい交渉と並行して、米国との通商協定の締結に向けた話し合いを進めていくでしょう。

そこで議論の俎上にあがるだろうと思われるものの1つが、NHS(National Health Service:国民保健サービス)です。これは、ざっくりいえば、国民の医療費をある程度公費で賄うシステムでして、英国が誇る医療制度なのです。米国は、この医療サービスに自国の医療保険会社や製薬会社などが参入できるように市場を開放せよと求めているわけです(この点はTPPの議論の時に、我が国でも散々言われましたが、日米FTA交渉ではどうなるのでしょうか)。

テレーザ・メイ前首相の退任前の最後の大仕事が、米国のトランプ大統領との会談でした。ここで通商協定についても話し合われ、その後の共同記者会見で、トランプ大統領は「当然NHSも交渉事のなかに含まれている」と発言しました(https://www.bbc.co.uk/news/av/uk-48516196/trump-nhs-on-the-table-in-us-uk-trade-deal)。トランプ氏はのちにこのNHSについての発言を事実上訂正するのですが、この発言は、英国内で大きな波紋を呼びました(今もですが)。

労働党はもちろんNHSを断固として守るべきだとして強く反発したのですが、同じように激しく反発したのがSNPでした。

SNPは社民主義的カラーが強い政党でして、二国間協定においてあたかもNHSを売りに出すような姿勢を見せたと思われてもおかしくないメイ氏(保守党)に対して、スタージョン氏はかなり手厳しい批判をしました(たとえば、https://www.thenational.scot/news/17684026.sturgeon-tells-trump-scotlands-nhs-will-never-be-on-the-table/)。スコットランドが独立しようとする大きな理由の一つは、このNHSの維持ともかかわるのです。

先に述べたように、トランプ大統領は、NHSが通商協定の交渉のテーブルにあがることを否定はしましたが、他方で、保守党の政治家が米国の製薬会社などの幹部と頻繁に会っているという話も聞こえてきています(保守党は労働党の作り話だとして一蹴していますが)。

米国との通商協定交渉の行方も、スコットランドの独立にかなりの影響を及ぼしそうです。

また、もう少し巨視的に見れば、スコットランドの独立の問題は、カタロニアのスペインからの独立運動とも連動し、ヨーロッパにおいて大きなうねりとなってゆくかもしれません。

昨年末ごろtwitter上では、”SPEXIT”という言葉が大きなトレンドになっていたようです(https://www.elnacional.cat/en/politics/spexit-twitter-belgian-ruling-spain-puigdemont_456615_102.html?fbclid=IwAR3Pk6yzqd7T7Ptby-aDBgPp_cJU2G0gbxApT6zaXXO42jDfjKCQ9DhH-Hw)。

なかなか刺激的なワードなのですが、ただこれは、「スペインも英国にならってEUから離脱すべし!」というようなカスティリアのほうの動きではもちろんありません。

そうではなくて、実は先日、スペイン当局に反乱罪などの容疑で拘束されており、先にEU議会議員選挙に獄中から立候補し当選した、カタロニア州の前副首相ウリオル・ジャンケラス氏に対して、EU司法裁判所は、欧州議会議員に当選した日から不逮捕特権が適用されるとして、ジャンケラス氏は釈放され、議員として活動できるべきだ、という裁定を下しました。この判断を受けて、ベルギーの司法当局は、同様に逮捕状の出ていたカタロニア州自治政府の前首相カルレス・プチデモン氏らに対しても、欧州議会議員選挙で当選したことを理由に、逮捕状を一時停止する決定をしました。

これらは事実上、EUがスペインの要求を突っぱねたことを意味します。それゆえ、そうしたことを受けて、カタロニアの人々が、「スペインはEUから出ていけ!」という意味で使っているわけです。

実際にスペインがEUから離脱することはありえないと思いますが、カタロニアとスペインの亀裂がいかに深まっているのかが推し量られる1つの事象ではあるかなと思います。

今月10日には、スペイン当局は、ジャンケラス氏の釈放には応じないとし、また、プチデモン氏らの不逮捕特権を停止することもEU側に求めたようで(https://www.thenational.scot/news/18149871.catalonia-spain-defies-top-eu-top-court-junquerass-imprisonment/?ref=fbshr&fbclid=IwAR34hUrtVR9k7mTK75P9ZiYbHkxsJTPQK1pljFUtn_fPxfvyzyHqCml-NQs)、このことがますますカタロニア独立派の中央政府に対する不満に火をつけるような格好になっています。

以前にも書いたように、スコットランド独立支持派の集会に行くと必ず、EUの旗とともに、カタロニアの旗を持った人も見受けられます。スコットランドの独立運動とカタロニアの独立運動は明らかに共振しており、SNS上でも様々なコミュニティが作られたりして、お互いに支えあっています。スコットランドで仮にIndyrer2が実施され、独立賛成多数、などということになれば、カタロニアの独立運動はさらに盛り上がることでしょう(事実、カタロニアのトラ首相は住民投票の再度の実施を求めています。https://www.bbc.co.uk/news/world-europe-50077595)。さらには、ヨーロッパ各国における分離主義的な運動にもその影響は波及するかもしれません。

私自身は、こうしたある種の「ナショナリズム」の高まりをどのように理解したらよいか、少し考えあぐねています。両者のナショナルな運動は、既存の「国民国家」的な枠組みに対する挑戦でもありますし、他方でその運動は、親EU的な傾きも有しています。

ただ、いずれにせよ、「ネイションの自決」(national self-determination)というものの価値や意味についての再考を迫るような事象であることは間違いないように思いますし、こうしたナショナリズムについてどう考えるべきかという点が、英国のみならず、ヨーロッパ政治の焦点の一つになるように思います。

今日(14日)のニュースでは、ジョンソン氏がスタージョン氏に対して、2度目の住民投票は行わない意向を正式に伝えたようです(https://www.bbc.co.uk/news/uk-scotland-scotland-politics-51106796)。

スコットランド独立支持派の集会もスコットランド各地で予定されていますので、参加してきたいと思います。人々の生の声を聴いたり、場の雰囲気に触れたりしながら、ひきつづき考えていきたいと思っています。

それでは、今回はこのあたりで。
Chi mi a-rithist thu!

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コメント

  1. リグス より:

    これは全くの憶測でもない想像に過ぎないのですが、英国のシティ、タックスヘイブンなどが今後も有効に機能するためには、EUの枠内にいるより独自で動けるよう離脱したかった。ジョンソン首相はユーモラスで庶民派のような印象ですが、エスタブリッシュメントであり決めたのは英国民ですが誘導したのはそのような勢力とか?

    動機だけから推測するのは陰謀論の典型ですが、金融から見るとEUという狭いグローバリズムより、離脱して世界中を自由に動くグローバリズムの方が利得は大きい感じがします。金融から見たEU離脱はどうなのか、そこら辺の考察もしていただけると有難いです。

    白川先生のレポートは現場の空気が伝わるようで、いつも拝読しています。

  2. 重巡洋艦チクマ より:

    スコットランドやカタロニアのような地域は「帝国(連邦)」なら上手く治めることができても「王国(共和国)」ではそうはいかない。
    ということではないでしょうか。

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