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【藤井聡】「自粛+政府補償」戦略の問題と、「自粛+政府補償」戦略の「補完戦略」について

藤井 聡

藤井 聡 (表現者クライテリオン編集長・京都大学大学院教授)

コメント : 4件

皆さんこんにちは。

今政府は、感染症対策として「自粛要請」戦略をとっていますが、これでは、経済が大いに破壊され、かえって自殺者が増えるリスクがあるのみならず、人々が自粛要請に従わず、結局は感染者数が増えてしまうリスクがあります。

そうした懸念に答えるために主張されているのが「自粛要請+政府補償」戦略です。
https://youtu.be/GbTuiNnqyOI

政府補償を提示すれば、自粛要請を聞き入れる国民が増え、それを通して感染拡大を一定抑止できると共に、自粛に伴う経済被害を払拭できることになります。したがって、この戦略は「自粛要請」戦略よりも、圧倒的に秀逸な戦略だと言えます。

しかし、この「自粛要請+政府補償」戦略だけでは、残念ながら、経済被害、ならびにそれに伴う自殺者数を最小化することも、さらには、感染症による死者を最小化することもできません。しかも、そのリスクは、現時点での我が国日本では、極めて現実的に懸念されるものです。

以下、その理由を解説します。

(問題1)政府が完全補償をしないリスクがある。その場合は、自粛も中途半端となり、かつ、経済恐慌も起き、死者数が拡大する。「自粛+政府補償」論には、このリスクに対する対処が存在せず、したがってそのリスクが顕在化した時の被害のコントロールが不能であり、被害を甚大なものとさせるリスクがある。事実、現安倍内閣(あるいは、政権交代で生ずる次期内閣)においては、このリスクが現実的に想定される。

(問題2)「自粛+政府補償」論は、政府の自粛要請に、長期間にわたって国民が従うことを前提としているが、その保証はない。違反すれば重罪を課す「禁止」というアプローチがあるが、日本では採用できない。とりわけ、今日の日本の様に政府に緊縮的側面が濃密に存在する場合は、そのリスクは大きい。したがって、感染爆発のリスクはゼロにできない。

(問題3)感染リスクをゼロにする「完全自粛」をすると、産業における生産活動が停止し、政府がどれだけオカネを配っても、人々に必要な需要が満たせなくなる。その場合、インフレが必然的に生ずることになる。こうした悪政インフレを回避するためには、国民が日々の生活を続けるために必要な、医療、食糧等の生活必需品や、人々の精神衛生を保つ上で必要な最小限の文化的・社会的サービスの生産・流通・通信が必要である。したがって、日本国民の「最低限の需要」を満たす必要があるため、「自粛」の水準は、そうした需要を満たす程度以下にはできない。したがって、人々に必要な最低限の需要を満たすことを前提とした場合、感染抑止は常に不十分になる。結果、感染爆発のリスクをゼロにはできない

(問題4)「自粛+政府補償」論は、いつまで自粛すべきなのかが定められていない。いわゆる出口戦略が不在である。したがって、社会政策として、政府がそのまま採用することは大きな危険が伴う。もちろん、ワクチンが十分供給できるまでや、集団免疫ができるまで等が考えられるが、ワクチンについては現時点では、できない可能性も考えられる。すなわち、ワクチンができるまでという出口戦略を設定する場合、「永遠に自粛+政府補償」を続けるリスクが存在することになるが、それでは国益を大きく毀損する。一方、「自粛+政府補償」論は基本的に免疫獲得を想定していない。したがって、免疫獲得プロセスにおいて、死者数が最小化できなくなり、無駄に死ぬ人の数が増えることとなる。

以上より、「可能な限り激しく抑圧戦略をとり、それに伴う経済損失については政府がMMTに基づいて貨幣を国民に供給する」というシンプルな「自粛+補償戦略」は、経済被害をいたずらに拡大してしまうリスクがあるのみならず、感染症による死者数を拡大させてしまうリスクがある。したがって、「自粛+補償戦略」には、「補完的対策を併用」することが必須であると考えられる。

下記原稿にて筆者が提案する「5つの対策」は、そういう「自粛+補償戦略についての補完的対策」として活用できることが大いに期待される。

①高齢者等の徹底保護
    「コロナ弱者」を集中防護

②徹底的な換気
    3密の中でも特に「換気」を集中徹底

③飲食中の会話自粛(当該業態営業自粛含む)
    特に「宴会/会食」を集中ケア

④粘膜接触営業の自粛
    店舗の中でも特に「カラオケ/風俗」を集中自粛

⑤手洗い/顔接触回避/マスク等の徹底推進
    「口鼻→手→口鼻」ルートの感染を集中防護

詳細はこちらhttps://twitter.com/SF_SatoshiFujii/status/1251169542698528770

無論、これらを成功させるためには政府補償も、店舗や各個人の心がけや努力も必要であり、それが完璧でないリスクももちろんありますが、一定の効果を発揮する見込みも十二分以上に考えられます

①は医療崩壊リスクを低減させるために、②は空気感染リスクを低減するために、③、④、⑤は接触感染リスクを低減させるためにそれぞれ、一定の有効性があることは、何人も否定できないに違いありません。

したがって、「自粛+補償」戦略を基本としつつも、その不十分さ故に生ずる「感染拡大リスク」や、「経済破綻に伴う自殺者増リスク」、さらには、「出口戦略が求められるケースがあるリスク」のそれぞれの被害を最小化することに貢献しうるものと考えます。

一般に疫学では、「自粛+補償」戦略は「抑圧戦略」と呼ばれ、「5つの対策」戦略は「緩和戦略」と呼ばれ、一見対立するもののように言われますが、現実の感染症対策「行政」においては、両者はお互いの欠点を補完しあうものであり、適切に併用すべきものなのです。

そもそも「抑圧」や「緩和」という言葉は、「人々の社会生活への参加」を「抑圧するか緩和するか」というだけの違いであり、いずれも「感染リスクの低減」を異なるアプローチでもって達成しようとするものなのですから、決して、対立させるべきものなのではなく、併用すべきものなのです。

当方としては「緩和」という言葉に伴う無用な誤解を避けるため、疫学上の言葉はさておき、当方が今上記に主張している戦略は「重点防御」戦略あるいは「対策精緻化」戦略と呼称したいと思います。

いずれにしても、日本の限られた知性が、抑圧と緩和という言葉のニュアンスだけに基づいて無用な対立やマウントの取り合いを続ければ、コロナとの戦いにおいて我々日本国民が不利になるだけです。

対立ではなく、抑圧戦略と緩和戦略インテグレイト(統合)アウフヘーベン(止揚)を目指した建設的な対話ができれば、それを通して、パンデミックによる感染死も経済死も最小化できる筈です。

ついては当方個人としては、そうした努力を最大限に重ねたいと思っています。

国民の皆様、引きつづき、よろしくお願いいたします。

追申1
あまりにも世論が不条理な方向に流れておりますので・・・当方の主張が一人でも多くの国民に伝わることを企図して、ツイッターを始めました。ご関心の方は是非、フォローください!
https://twitter.com/SF_SatoshiFujii/

追申2
当方の感染症対策については、下記記事にて詳しく述べました。是非、ご参照ください!
https://twitter.com/SF_SatoshiFujii/status/1251169542698528770

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コメント

  1. みどり より:

    政府の補償は表向きよく考えていますが、実際いただこうと書類を提出するのには難解で、零細企業のようなところは外部に依頼するコストもなく、自分でしなくてはいけません。売り上げがなく給料を払おうと思っても一度払ってからしか国からはでません。小学校の休みも途中で延長になりその子供さんのいるパートさんのお給料計算は有給あつかいで、補償の書類は別のところへ提出しないといけません。このようなときになぜ一元化できないのでしょうか。
    書類を提出申し込みして再度、実際に給料を払った証拠を提出しないと、補償のお金はいただけません。その提出も、できるだけ1社に1度でとなっています。そうなると、コロナの収縮がないと補償のお金があたらないことになり、雇用を守るための補償政策なのに零細の会社は、人材をきっていかねばならなくなります。何かが間違っているのではないのでしょうか。藤井先生のおしゃっているように目の前に薬の必要な人がいて求めていたらその時に薬を出せる町医者がいるのです。重病になってからや、死んでしまってから遅いのです。政府のかた特に書類などをつくる役人のかた、自分のミスをおそれてはいませんか。ユダヤの人の命を救った杉原さんのように、もっとしもじもの現場を想像してください。と訴えたいです。

  2. 拓三 より:

    そうなのよ。

    MMTが広まったのは良いんやけど、インフレ、デフレを理解出来ない人達がMMTを理解した「つもり」になると「カネさえあれば何でも出来る」になっちゃうんよね。この危機は国力の勝負やのに…

    困った事です…

    日本人ってジンバブエとかわらんかも…

  3. 長谷川一恵 より:

    先日の宮沢さんとの会談により、このお話はよく理解できます。
    そして、正しく怖がることの大切さがよくわかりました。
    政府に提言するべき内容ですね。

  4. 増村賢二(北陸朝日放送) より:

    京都大学教授 藤井 聡 様
     今月上旬に先生の研究室に突然メールしてしまった増村賢二と申します。
    藤井先生の新型コロナウイルスに対する「緩和戦略」大賛成です。
    先日、小さな話ではありますが、「すこやか検診」や「集団検診」が、今回の
    新型コロナウイルス感染拡大防止のため延期と発表されました。
    先生、これってどうなのでしょうか。「すこやか検診」や「集団検診」で
    早期の癌や他の病が発見され助かる人々もいます。すべてが犠牲にされてしまう
    今の社会状況は後に大きな不幸を招くような気がします。

    世の中すでに、恐怖で正しい判断ができなくなっているのではないでしょうか?

    私は思います。新型コロナウイルスは「ちょっとタチの悪い風邪」だと・・・
    もちろん亡くなられた方や、今も苦しんでいる方に対してこんなことは言えませんが、私の友人も以前、風邪をこじらせて亡くなりました。
    また、どうでもいいことですが、今年1月中旬、私もこれまでにない倦怠感を
    伴う風邪をひき、小林製薬の「のどぬ~るスプレー」で対処し、悪化せずに
    治りました。ちなみに、2018年4月「日本防菌防黴学会誌」に掲載された小林
    製薬の「殺菌消毒成分のヨウ素に、のどから感染するウイルスを幅広く殺菌
    できる効果を確認」の研究結果では、ヨウ素が旧型コロナに効果があるとか…
    つまり、藤井先生の言うように、私たちは今回のウイルスに対し正しく恐れ
    今後もうまく付き合っていくしかないと思います。正しい予防と対処方法を学び
    封じ込むのではなく、感染してもいいから悪化しないようにしたいものです。
    「風邪」はだれでもひくものであり、ひかない人は「バカ」というのですから
    一刻も早く普通の生活を取り戻すべきだと思います。長くなってすみません。

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