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【藤井聡×堤未果】第二回「農」を語る(1)

啓文社(編集用)

啓文社(編集用)

こんにちは。
『表現者クライテリオン』編集部です。

 

今回から3回に分けて、『表現者クライテリオン』2023年1月号に掲載された連載記事『第二回 藤井 聡×堤未果「農」を語る』をお届けします。

 

『第一回 藤井 聡×堤未果「農」を語る』は下記よりお読みいただけます。
『表現者クライテリオン』2022年11月号

 

「農」を語る

農は国の本なり。
その姿を立体的に示すことを通じて保守思想を語る。

堤未果×藤井聡
第2回 地方の「農」は日本の最後の砦

 

かつて、政府が進める農業の自由化路線に国民は怒っていた

藤井▼日本では農業に対するリスペクトの念もとても低いですし、子供たちも含めて農業というのが何かという体験もほとんど誰もしていない……農業がここまで酷く日本人から疎遠になってしまったのはやっぱり戦後のことなんでしょうね。

ただし、戦後においても特に、九〇年代以降、農業の社会的な地位の凋落が激しいように思います。それまでは例えば六〇~八〇年代くらいでは「全国総合開発計画」、いわゆる政府主導の「国土計画」があって、その中に農業の活性化もしっかり位置づけられていた。

当時は、全国各地を豊かにしなければ自民党も、選挙で国民の多くから支持されず、政権がもたないという認識があった。国土計画を立て、農業振興と地方活性化のためにインフラ整備と防災を全国で進める。

そういう議論の中で田中角栄の「列島改造論」が出てきた。「列島改造論」というとコンクリの箱物を大量に作るかのようなイメージがあるかもしれませんが、田中角栄の本を読めば分かりますが、彼は新潟の県民として「うさぎ追いしかの山」を残すために、最適なインフラ政策は何かを考えて壮大な国土レベルのプランをぶち上げたわけです。

 

▼私も最初工業のイメージが強かったんですが、雪が少ない太平洋側を農業地帯にして、雪の多い北海道や東北北陸側を工業地帯にして、情報ネットワークで教育と医療も都市と地方の格差をなくしてという、巨大な計画なんですよね。今では驚きの、政治家本で九〇万部の大ベストセラー、『日本列島改造論』は一九七二年でしたね。

 

藤井▼そうです。こうした政治理念を国民は強烈に後押しした。その後、ロッキード事件を皮切りに金脈政治批判が角栄に注がれるようになっていきますが、それでも七〇年代から八〇年代にかけては、都市と農村のバランスある発展が国民の基本的なコンセンサスとしてあった。

例えばオレンジの貿易における自由化論争が起こるのが八〇年代半ば頃ですが、当時の日本人は、和歌山や愛媛のみかん農家を守るのが当然のことであり、オレンジ自由化なんて、みかん農家を潰し、日本のみかん産業を潰すなんて不道徳で理不尽な政府方針なんだという感覚が濃密にあったんです。

例えば今でもよく覚えていますが、漫才師のやっさんこと横山やすしさんと久米宏さんが、ニュースバラエティ番組の走りとなったテレビスクランブルっていうゴールデンタイムの番組があって、やっさんが「農家の皆さん守ったらなアカンに決まってるやんけ!」とやってるわけですよ。今ではあり得ませんが酒飲んであから顔しながら。

「和歌山の農家が食えなくなるのはおかしいやないか!」とか息巻いて。それで久米さんも「そうですね。皆さん農家を守りましょう」とかやってたわけです。

 

 でも、そういう農家を守れ! という空気が九〇年代に入ってからさーっと消えて無くなっていって、二十一世紀に入ればもうTPPだとかなんだとかになって「はい、日本に農業なんて別に大事じゃないから、全部潰していきましょう」みたいな空気になっていく。

だから僕は「やっさん、もっかいこの世に戻ってきて”怒るでしかし!”やってくれ!」っていう気分ですね(苦笑)。

 

▼時系列で見ると、アメリカでアグリビジネスが台頭して家族農業を薙ぎ倒し、戦略物資になった食糧を買えと日本に圧力がどんどんかかっていった頃ですよね。その最終ステージのTPPが出てきた時、本当にまずいと思いました。

でも一番びっくりしたのが、あの時反対論客が本当に居なかったことです。中野剛志先生とか、藤井先生は数少ない反対派でらっしゃいましたよね。

 

藤井▼本当そうなんですよ。その時の僕の気分は、やっさんのその気分と全く同じだったんだと思います。でも当時はやっさんだけじゃなくて久米宏もそうだったし、インテリのど真ん中が「農家を守る」ってハッキリ言ってたんです。

 

▼政府、官僚、学者、マスコミ、一丸となってメリットばかり強調して推進していたTPPの時と真逆の光景ですねぇ。やっさんが国民の声を代弁して?

 

藤井▼やっさん、っていうのはある意味庶民の代表みたいな人でしたから、やっさんが怒ってるっちゅうことは日本中のおっさんが怒ってたんだと思いますし、そんな気分をインテリたちも共有してた。

 

▼インテリ層が公益について、おかしいことをおかしいと言わなくなったら社会に赤ランプが点滅しているサインですよね。放っておくと、ナチスドイツ政権下のニーメラー牧師の詩みたいに、見えないところからじわじわ蝕まれてゆく。ましてや「農」という、私たち国民の命に関わる最大資産なのに。

 

藤井▼コメ農家なんてもっと規模がデカいでしょう。昔は米価審議会があって米価を守り、農家を守り、農村を守り、そして地方を守っていた。小学校でも教師がそんなふうに教えていた。米は大事なんだから「米の価格をマーケットで決めるなんてバカかお前」みたいな雰囲気もあった。

 

▼確かにあった。今やホリエモンが、棚田なんて観光客用の飾りでしかない、なんて平気で言うんですよ。冗談じゃない、棚田が持つ多くの価値を全く分かっていません。でも今の子供たちの多くはYouTube でそれを見て「ああそうなんだ」と思ってしまう。

かつてたくさん存在した、日本の資産である農業を潰す自由化に怒れる大人たちの姿を知らないからです。やっさんの映像なんて残ってないでしょう? だから今、最後のチャンスですよ。私たち大人が声を上げていく、まだまだ日本中にたくさんいるだろう、心ある大人たちと連帯して、やっていきましょう。

 

藤井▼きっと僕らぐらいが最後の世代なのかもしれませんね。

 

▼そもそも真の保守ならば、何よりもこの国の農業を守ることが一番大事だと、理解してくれてるはずですよね?

 

藤井▼そうです! そもそも皇室の勢い、弥栄というのは、日本の「農」が豊かであることが大前提なはずです。つまり日本の国体は農業が強ければ強いほど勢いづくわけです。

 

▼農業=国体。なのに、霞ヶ関ではTPPあたりから経産省がすごく威張りだして、農水省を吸収しろなんていう暴言まで吐いていたでしょう? 自民党の先生たちも選挙で大票田だった農家票を、だんだん当てにしなくなって、農協を株式会社化しろ、全農の政治力を弱めよ、自由貿易万歳と、アメリカの要求を代弁するように改革を進めてきてしまいました。

農水族の先生たちの声が聞こえてきません。特に今、コロナとウクライナ危機、気候変動で世界的な食と農の危機でしょう? 食料価格高騰だけじゃなく、全国でものすごい悲鳴が上がっていて、自殺者がどんどん出て、日本は大変な緊急事態下ですけど、農水族の先生たちの声がいまひとつ聞こえてこないんですよ。

農協や農水省出身の先生もいるのに、政府は焼け石に水のような対策しか出してこないし。あろうことかこのタイミングで米国産牛肉をもっと輸入するルール変更に野党まで賛成して、駐日大使が大喜びのコメントを出す始末です。全く一体何をやってるんでしょうか。

 

藤井▼永田町にはホントにそういう危機感がないですね……いわば“脳死”の状態にあるんでしょうね……。

 

▼脳死!

 

藤井▼心があるように思えない方は霞ヶ関や永田町にはたくさんおられましたね……ひょっとしてロボットかなんかじゃないかって思ってしまいますよね。

 

▼後ろにスイッチついているんじゃないかって?

 

藤井▼そうですそうです(笑)。

 

 

今回はここまで。次回配信は2/9(木)の予定です。

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