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【藤井聡×堤未果】 第二回 藤井 聡×堤未果「農」を語る(2)

啓文社(編集用)

啓文社(編集用)

こんにちは。
『表現者クライテリオン』編集部です。

 

前回に引き続き、『表現者クライテリオン』2023年1月号に掲載された連載記事『第二回 藤井 聡×堤未果「農」を語る』をお届けします。

 

『第一回 藤井 聡×堤未果「農」を語る』は下記よりお読みいただけます。
『表現者クライテリオン』2022年11月号

 

前回配信はこちらから↓
『第二回 藤井 聡×堤未果「農」を語る(1)』

 

「農」を語る

農は国の本なり。
その姿を立体的に示すことを通じて保守思想を語る。

堤未果×藤井聡
第2回 地方の「農」は日本の最後の砦

 

地方から生まれ変わる、私たちの森羅万象のDNA

▼まあでも、中央はおっしゃるように、今そういう状況ではありますが……私は、日本にはまだ救いが残っていると思っているんです。日本がもともと持っている多様性と自給力、共生力を取り戻して、もう一度幸せな未来を作る最後の砦はズバリ「地方」にあります。地方自治、地方政府、地方メディア、そういったものが最後の砦になって、この国を再び蘇らせる力が。

 

藤井▼なるほど。やはり地方は中央より全然マシなわけでしょうか?

 

▼そのままでまし、というよりも、危機を脱するための潜在的な力がまだまだたくさん眠っているということです。先ほど(前回)の議論に出てきた、無駄なものを全て切り捨てていく「最適化」の対極にあるのが、地方が持つ多様性の力ですね。

ここで重要なポイントが、小さくやること。そうするとまさに急がば回れ、で世間も着実に変わっていくんですね。今、欧州やインドなどを中心に国際的な「ローカル化ムーブメント」が拡大しているのをご存知ですか? 

実は私も数年前から登壇してるんですが、毎年国を変えて大きな国際イベントをやっていて、去年はオーストラリア、今年は韓国、来年は英国で開催します。今年の夏にはイギリスでドキュメンタリー映画も出来ました。私もこないだ、デジタル技術の進化の中で、日本の地方自治や協同組合が持つ力についてプレゼンしました。実は日本にはこの分野ですごい可能性があるんです。

最適化、グローバル資本主義の対極にある地方自治では、画一化でなく分散です。みんながそれぞれの役割を持って多様化することで、強くなっていくでしょう?

 

藤井▼強靱になるわけですね。

 

▼そうです。で、ポイントは「大きくやる」と駄目なんです。そうすると「最適化」側の土俵に乗ってしまうことになるからです。小さくやっていくこと。これが大切です。最適化すると地域への愛はなくなっていきますから。

 

藤井▼そうですね、なくなっていきますよね……。

 

▼無駄だから、と切り捨てられてしまう。

 

藤井▼そうですね、最適化をめざす人たちは、そこの地域に固執するというのは単なる不合理な偏見だっていうふうに見なしますからね。地域への愛なんて、最適化の敵なんです。

 

▼地域を愛するという当たり前のことが、否定されてしまうんですね。

 

藤井▼そうですね。愛する、っていうのは別の角度から見れば徹底的な区別であり差別ですからね。ちなみにいうと、女性への思いとかも差別、ですよね。愛は区別であり差別なんですから。

 

▼愛が区別であり差別……。今は生殖もバイオ技術でできる時代になったことを考えると、その先を想像するだけで怖いです。

 

藤井▼結局、近代化していくと、恋愛だとかなんだとかっていうのが全部無用の長物だってことになって、その時々の最適解を探し続けることだけが正解だっていうことになる。だからそうなれば歴史は確実に終焉する。男女関係ですらこの世から蒸発してしまって、人間はもう人間ではない猿未満の存在になってしまう。今まさにそうなりつつあるんですよね。

 

▼厄介な心も要らなくなりますね、悲しみもない代わりに喜びもない、生きてて楽しくないです。世界と「私」の境界線が見えなくなってしまう。

 

藤井▼ホントそうですね。ただ処理しているだけの肉体になりますから。

 

▼『デジタル・ファシズム』という本を去年書いたんですが、デジタル化でもっと最適化して効率がよくなるという一環で、じゃあ農業もデジタル化しましょう、食もデジタル化しましょう、というのが進んでいます。ただこれは今ちょっと一旦立ち止まってその根底にあるものをよく見ないと、かなり怖い世界になる。

文明を根こそぎ変えてしまう。そう感じて、それを問題提起するために三年かけて書いた『食が壊れる』という本が十二月に出ます。だって藤井先生、そもそも、高速で最適化が進められるこの流れ、その先を想像すると怖くないですか?

 

藤井▼怖いですよね。今、世の中メタバース化してる。恋愛関係だってメタバース化して、前まではスマホいじってるだけだったけど、最近はVRとかARとかになって仮想空間で生きていくという世界になってきているわけですけど……先日、宮台真司さんと一緒に本を出したんですが(『神なき時代の日本蘇生プラン』ビジネス社、二〇二二年九月発売)、その時に申し上げてたんですが「どれだけメタバースが進んでも、身体だけはバーチャルリアリティー側じゃなくてリアリティー側に属さざるを得ない」っていう点からは、我々は逃げられない。

で、この身体というものは、森羅万象の水循環の一部を構成している。雨が降って流れて、その途中で動物が水を飲んで排泄をしてという形で、水循環の一部を構成するのが、私たちの血管で構成される循環器系です。

ですから、仮に「農」というものを自然の生態系の中に自分自身を埋め込み、その生態系を含む自然から恵みをいただくという過程なのだとすると、リアルな我々自身という存在は必ず「農」を必要としている。バーチャルで何をやってもいいとしても、その頭脳を内包する身体というものは「農」を一〇〇パーセント必要とするわけです。

だから、ここで「農」をどんどんデジタル化していくと、どこかで必ず逆襲に遭う。デジタル化というのは、一面においてこのリアルな自然から対象を分離させていく行為だからです。だから人間はどこまでいっても、アナログな「農」からは逃れられないんです。

 

▼逃れられない、とてもよく分かります。本来、最適化に最もなじまない「農」を、デジタルとバイオで支配しようとしていることで、今もうすでに世界のあちこちで歪みが吹き出していますよ。おっしゃるように身体と脳が切り離されたら私たち人間は必ず壊れますよね、牛にVRのヘッドセットをつけるのも同じ、土からどんどん切り離されて、生命はおかしくなる。

今、人間はとても奢った事をしようとしていると思います。

 

藤井▼だから、「農」はきちんとやって、残余の時間でVRやARをどれだけ使ってもいいでしょうけど、今やもうVR、ARをやった後に最低限の「農」だけやろうみたいな感じに……。

 

▼そうなんですよ、順番が完全に逆なんです。ダメダメです!

 

藤井▼ホント、そういう事を続けてると、皆死にますよね。やっさんに「お前らそのままやったら、死んでしまうんやぞー!」なんてパーンと言ってもらいたいですね(笑)。

 

▼やっさんがいっぱい必要ですね(笑)。あ、私たちがみんなやっさんになればいいのか。世の中全部そっちに行っていますからね。ハラリさんなんか、はっきりと「もう今後は脳までハッキングされますから、脳は要りません」なんて、信じられないようなことを言うんですよ。

 

藤井▼それはもうメチャクチャですね。

 

▼あの方、剃刀みたいに頭が切れますが、サラッととんでもないことを言うんです。命を見ていないの。

 

藤井▼そういうことですね。そして命というのは、この体躯そのものです。

 

▼はい、そう思います。大いなる生態系の一部としての命ですね。

 

藤井▼ミクロにいうと命、マクロにいうと自然、天然、あるいは道教だったら道(タオ)とも言われる森羅万象がある。それを受け入れなかったら、そんな存在は生きていく資格を失うことになる。

 

▼間違いなく滅びに向かいますね。この森羅万象という発想がそもそもあるかどうかも重要ですが。

 

藤井▼例えば西洋人にはありますか?

 

▼キリスト教の世界観では、自然は人間と別物で、むしろそれを制する役目を唯一神から委託されてるという考え方ですから違いますね。天地を創造した神の下に人間、そしてその下に自然という順番ですから、自然は支配するもの。森羅万象に神々を重ねる私たち日本人とは全く異なります。

 

藤井▼例えば彼らの精神の真ん中にあるキリスト教は、砂漠の宗教、ですよね。砂漠には森がなく、限りなく並び連なる森羅がなく、砂漠だとほとんど多様性がなく万象というより真空のような世界。でも、日本には森と岩清水があって、まさに森羅万象を感じ続けることができる。

 

今回はここまで。次回配信は2/10(金)の予定です。

前回配信はこちらから↓
『第二回 藤井 聡×堤未果「農」を語る(1)』

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