2018.09.10ON AIR
戦前の広島、呉での日常、そして、原爆、敗戦までを、「すずさん」の生活を中心にして描き出したアニメ『この世界の片隅に』(こうの史代の漫画のアニメ版/片渕須直監督)のテーマソング。クラウドファンディングで3,374名の一般市民(サポーター)から39,121,920円の制作資金を集めて作られた『世界の片隅に』は、大きな宣伝が打てなかったものの、評判が評判を呼ぶ形で2016年末から2017年にかけてに大ヒットした。
「悲しくてやりやれない」の原曲は、「世界中の民謡を紹介する」ということをコンセプトにしたザ・フォーク・クルセターズ(1960年代後半にデビューした関西のバンド)によって1968年に作られた。ザ・フォーク・クルセターズの代表作には「帰ってきた酔っ払い」や「イムジン河」があるが、朝鮮分断の悲しみを歌った民謡「イムジン河」が、「政治的配慮」によって発売が見送られ、その代わりに作られたのが、この「悲しくてやりきれない」だった。メンバーの加藤和彦が「イムジン河」のメロディを逆に辿っていたら15分ほどできたというが、そのぶんモダンなメロディのなかにも民謡調の悲しみが残っているように感じられる。作詞は、『リンゴの唄』を作詞したことでも有名なサトウハチロー。ちなみに、サトウハチロー自身も広島の原爆で、弟を失くしている。
2018.08.14ON AIR
1990年8月、当時の「いか天」から始まったバンドブームの中でリリースされたヒット曲。2000年8月にはWhiteberryがカヴァーし、再度ヒットし、夏の定番曲となった。現代のSHISHAMOにも繋がる「素直女性ヴォーカル」を全面に押し出したスリーピースバンドが繰り出す疾走感ある2ビートが「祭り囃子」を連想させ、今では「太鼓の達人」の定番曲でもある。「さみゅー」や「May J.」など繰り返し様々なアーティストにカヴァーされ、祭りと和太鼓が身体に染み込んだ日本の庶民の心をとらえ続けている。
2018.07.31ON AIR
ジョン・デンバーが1971年に発表した有名な一曲を、オランダのHermes House Bandというバンドが2001年にカバーしたものです。原曲の歌詞は、「田舎道よ 私を故郷まで連れて行っておくれ あの私の街へ ウェストバージニアの母なる山々 田舎道よ 私を連れて行っておくれ」といった、アメリカ人の郷愁を歌ったものです。しかしこの曲は世界中で歌われていて、今回ご紹介したHermes House Bandによるカバーは2001年にイギリス、ドイツ、オーストリア、アイルランド、デンマークなどヨーロッパ各国でヒットチャートの上位にランクインしました。日本でも、映画『耳をすませば』の主題歌に使われるなどして有名ですよね。「自分が本当の意味で属している、あの故郷に帰りたい」という気持ちはある種の普遍性を持っていて、この曲のメロディーや詩がその感情を揺さぶるのでしょう。「私はどこでも行きていける」と構えるエリートの人たちが、そういう感情を持ち続けてさえいれば、「どこかの地元に属して生きる」人々との間のわだかまりも深刻化することはないように思うのですが・・・。
2018.07.16ON AIR
1975年リリースのアルバム『オペラ座の夜』に収録された、クイーンの代表曲。
クラシックの「ラプソディ」(狂詩曲)の形式で構成された楽曲で、アカペラからはじまり、バラード、オペラ、そしてハードロックへと展開し、最後に再びバラードで修了する壮大な展開の一曲。英国では、ビートルズやレッド・ツェッペリン、エルトン・ジョンなどを抑えて、「イギリスで最も売れた曲」でありかつ、人気投票で「最高の曲」に選ばれている。人殺しをしてしまった若者が、途方に暮れて「ママ、どうしよう――」と泣きつくところから始まり、様々な葛藤を経て、最終的に「僕は大丈夫さ、何も問題ないさ(nothing really matter)」と哀れにも自分に言い聞かせながら終わる。神からの罰を免れ得ぬ犯罪者の精神を描いたこの一曲は、ヒットした途端に社会現象を巻き起こし、多くの若者の自殺を誘発してしまったという。まさに映画を一本見るかの様な展開が、多くの若者の精神に響いたわけだ。罪を犯したにも関わらずのうのうと生きる輩ども全員に届けたい一曲。
2018.07.10ON AIR
ハードロックバンド Led Zeppelin が、1975年にプログレッシブロックを強烈に意識しつつリリースした名曲「Kashmir」を、ヒップホップシンガーのパフダディがアレンジした一曲。1998年のアメリカ版ゴジラ映画のテーマ曲としてリリースされた。その基調となるギターリフは日本版ゴジラのオリジナルテーマ曲と似て、ゴジラという途轍もない危機がまさに今、迫っている様子を彷彿とさせる。今の日本は、そんな危機を敏感に感じ取る動物的感覚を未だ保持し得ているのか―――?
2018.07.03ON AIR
哲学的とも言える前衛的な楽曲で70年代に世界の音楽シーンの帝王の座についた、プログレッシブロックバンド、ピンクフロイドの代表曲の一つ。ピンクフロイドで最大のヒットアルバムは、マイケルジャクソンの「スリラー」に次ぐ歴代第二位の記録を打ち立てた「狂気」だが、この原題「One of these days」は1971年リリースの『おせっかい』に収められている。これはインスツゥルメンタル曲だが、まさに「嵐」が猛威をふるい始める直前に「One of these days, I’m going to cut you into little pieces!」(その内、お前を細切れに切り刻んでやる!)という、地獄から響き渡るような声で叫ぶ「超巨大地震」の様な破局が、「これからの何日かの内の一日おこるんだ」ということを不気味に暗示する曲だ。日本では、日本中のプロレスファンを恐怖のどん底に突き落とした希代の悪役プロレスラー、アブドーラザブッチャーの入場テーマ曲としてよく知られた一曲だ。