今回は『表現者クライテリオン』2022年1月号の掲載されている対談の冒頭を特別に一部公開いたします。
公開するのは、「岸田内閣、成功の条件―「新しい日本型資本主義」とは何か」特集掲載、
高市早苗氏×藤井聡 編集長 の対談です。
以下内容です。
藤井聡(以下藤井)▼
総裁選は残念ながら、あと一歩のところでしたが、岸田新総裁の下、政調会長に就任され、自民党の政権公約をまとめられ、選挙後もその内容実現に向けて様々に差配しておられる様にはまさに破竹の勢い、を感じてございます。
総裁選後はすぐに総選挙となり、政調会長就任後の高市さんにすぐに連絡を入れたら「これから公約を書かなあかんから、しばらく缶詰ですよ」とおっしゃっていました。
高市早苗(以下高市)▼
総裁選では皆様のご期待に沿えず、申し訳ない思いでいっぱいでした。おかげさまで総選挙では絶対安定多数の議席を確保できました。ただ、公約づくりは地獄でしたが(笑)。
藤井▼一週間くらいで書き上げられたんでしたっけ。
高市▼一週間どころか、五日しかなかったんです。総裁選後、十月一日に政調会長に就任して、すぐ岸田総裁から「投票日を十月三十一日に早めます」と連絡がありました。
となると、公示日の十月十九日までには、公約集を印刷物にして、全候補予定者の事務所に送付し終えていなければなりません。
しかも、選挙を迎える衆院議員は、ほとんどの方が地元に帰ってしまっていましたから。とにかく一人で一冊分、書かなければならない。執筆で三日は完全に徹夜、修正に二日。政調の職員も一緒に頑張ってくださいました。
でもこれだけは誤解を解いておきたいのですが、政権公約は最初に岸田総裁にお読みいただき、ご指摘をいただいたところは修正し、部会長会議、政調審議会、総務会とすべての党内手続きを経て決定したものです。
「高市公約だ」なんて悪口を言う人もいますが、岸田総裁の政策や既に党内で積み上げていた政策を組み込んだ公約です。
藤井▼政調会長は政策やその叩き台を決めるポジションですから、我々は外から見ていて「岸田総裁が最終決定されたものであることは間違いないとして、『サナエノミクス』をはじめとする高市さん色が大きく反映された公約になった」なんて喜んでいたのですが(笑)。
高市▼ただ一つ言えるのは総裁選をやったことで、確かに自民党の政策が分厚くなったという実感はあります。今回の政権公約には、岸田総裁はもちろん、総裁選候補者の河野先生、野田先生が訴えておられた政策もしっかり入れ込んでいますから。
藤井▼十一月二十六日に補正予算の議論が終わりました。これからいよいよ、政調会長として政策を具体化していこうという時期ですね。現在の経済状況をどうご覧になっていますか。
高市▼まず、七─九月期の経済指数が非常に悪かったので、残念に思っているところです。
コロナの影響でアジア諸国の工場が操業停止し、部品が輸入できなかったことや、半導体不足で、設備投資や輸出が減ったことが響きました。
一方、コロナで深く傷ついた業界と、巣ごもり需要やデジタル需要で業績を伸ばした業界とで明暗が分かれました。
特に観光関連産業をはじめ幅広いサプライチェーンに影響が出た地方経済は深刻です。コロナで傷んだ日本経済をしっかり立て直す、今がその最も重要な時期だと考えています。
藤井▼十一月二十六日の臨時閣議で、政府が決定した補正予算案の一般会計の歳出は三五兆九八九五億円、過去最大だと報じられています。
高市▼はい。その一般会計が大事なのです。補正予算案の議論に入る前の十一月十日、選挙後に新体制となった政調会の全部会長に集まっていただき、以下のようなことをお話ししました。
「これからいよいよ、経済対策と補正予算案の議論に入ってもらいます。そこで一つ注意していただきたいのは、『財政支出』という言葉に惑わされないこと。『財政支出』とは、国の歳出のほか、地方の歳出、さらに財政投融資まで加わった額です。
しかし、大事なのは『真水』です。あくまでも各部会長の皆様にチェックしていただきたいのは、『真水』の部分、つまり『一般会計』の規模をきっちり各省庁にご確認の上、議論を進めてください」と。
藤井▼それは素晴らしい。役人の中には数字を膨らませて政治家の目をごまかそうとするものもいますからね(笑)。
高市▼まぁまぁ(笑)。今回は真水の部分だけでいうと約三一・六兆円規模になりましたから、部会長の皆様がチェックしてくださったことで、適切な規模の予算案になりました。
昨年、コロナ禍において三回の経済対策が打ち出されました。安倍政権下で二回、その時は「真水」で、一回目の四月対策が二五・七兆円、二回目の五月対策が三一・九兆円と、それなりの規模でした。
しかし、菅政権下で行われた三回目の十二月対策は、二次補正で既成立の予備費と次年度予算分の予備費も入れ込んで一九・二兆円。最終歳出は一五・四兆円に過ぎませんでした。私はこれに非常に強い問題意識を持っていたんです。
それゆえに今回は、本当によかったです。また、意外なことに税収が思ったよりも増えていたのも吉報でした。特に地方交付税の原資となる税収が増えていたので、地方は助かります。
藤井▼総務大臣を経験されていますから、その重要性もよくご存じで。
高市▼はい。皆さん、「経済が悪い、経済が悪い」と言っていましたから、地方財政は大変なことになるだろうと思っていたのですが、地方交付税の原資となる国税四税(所得税、法人税、酒税、消費税)のうち、かなり下がった酒税以外はかなりいい税収が上がっています。これは救いでした。
藤井▼予算を決めたら、後は可能な限り早く執行し、コロナ後の経済の「V字回復」につなげてほしいという期待があります。
高市▼そうですね。十二月の国会でいち早く補正予算を成立させ、お金が動き出せば少し明るい光が見えてくるのではないかと思います。
藤井▼その後はすぐに次年度の当初予算の議論が始まりますが、そこで伺っておかなければならないのが「プライマリーバランス」の問題です。
高市さんは月刊『文藝春秋』九月号(八月十日発売)に「総裁選出馬宣言」として、「日本経済強靭化計画」を発表していますが、この記事の冒頭でプライマリーバランスについて論じておられました。
少なくとも経済立て直しが成るまでは、プライマリーバランス規律はいったん脇に置いて考えるべきではないか。
プライマリーバランス達成を単年度で考えていると、経済が伸びなくなるリスクがある。経済の立て直しができてから、財政健全化を図るべきだ、と。私もそう思いますが、高市さんは、今も同じお考えですか。
高市▼もちろん、私は総裁選でも、総選挙でもそう演説していましたし、今も考え方は変わっていません。
岸田総裁は「成長と分配の好循環」とおっしゃっていますが、やはり分配をするためには経済成長が必要です。事業主体、事業者を守らなければ、雇用は失われます。そうなれば所得税も、法人税、法人事業税も入ってきませんから、経済をきっちり立て直し、成長軌道に乗せるまでは、単年度の基礎的財政収支にこだわるべきではありません。
藤井▼岸田総理も、山際経済再生担当相も、「経済再生なくして、財政健全化なし」とおっしゃってはいます。これも高市さんと考えは一致していますね。
高市▼そうですね。「順番を間違えてはいけない、まずは成長だ」と岸田総理がおっしゃってくださったので、かなり安心しています。
ただ、やはり「財政健全化論者」と呼ばれる方々が、総裁の周りを固めておられますし、政調会長に対する“風圧”の強さは感じています。
藤井▼ここは国家の政策理念の根幹ですから、しっかり議論していただきたい。
高市▼そう、議論することが大事。そう思って、私は政調会長直轄の「財政政策検討本部」を設置しました。緊縮財政派の方も、積極財政派の方もお呼びして、広く議論しようという考えからです。
ところが前政調会長の時までは、この会の名称が「財政再建本部」だったんです。
私は何の悪意もなく名前を変えたのですが、これが何らかの意図があると勘繰られたようで。官邸の耳に入ったらしく、政調とは別の「総裁直轄」の組織として「財政再建本部」なるものが設置されました。 ……なかなかこれは、自民党は面白くなるぞと(笑)…(続く)
(『表現者クライテリオン』2022年1号より)
他の連載などは『表現者クライテリオン』2022年1号にて
『表現者クライテリオン』2022年1月号 「岸田内閣成功の条件」
https://the-criterion.jp/backnumber/100_202201/
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