今回は、『表現者クライテリオン』で毎号掲載しているコラム【鳥兜】を公開します。
2022年11月号の2つ目のタイトルは「滅び去る他なき、政治への関心を失った国民国家」。
興味がありましたら、ぜひ本誌を手に取ってみてください。
以下内容です。
ワシントンDC のシンクタンク、ピュー研究所がこの度、日本人にとって大変衝撃的なレポートを公表した。タイトルは
「世界中でインフレ率が上昇:そして米国が最大のインフレ率上昇国家の一つである」。
その内容は、今、世界中で物価が上昇し始めている、それが今年二〇二一年の第3四半期(七~九月期)の、前年同期と比較した最新の物価上昇率(インフレ率)の数すからだ。
そしてこのレポートが日本人にとって「衝撃的」だったのは、その各国のインフレ率を示した世界地図において、文字通り唯一日本「だけ」がその最悪の経済状態であるデフレに陥っていることがクッキリと示されたという点だ。
今多くの国民は、経済が低迷しているがこれはコロナのせいだから「しょうがない」という諦め気分を共有している。飲み会も旅行もコンサートも観劇も皆「コロナだからしょうがない」と呟きながら諦めてきたそのマインドで、現下の経済低迷も「コロナだからしょうがない」と諦めているのだ。
しかしそのレポートは、現下の経済低迷はしょうがない話でも何でもないということを雄弁に物語っている。
確かに、世界中の国々はコロナによる経済被害を受けた。しかし、諸外国は消費税をしっかり減税し、十分な規模の経済対策に迅速に取り組み、その帰結としてコロナ禍から雄々しく「復活」し始めたのである。
つまりコロナ禍による経済低迷はしょうがない話でも何でもなく、政府の力によって克服しうるものなのであり、日本以外の国々は全てそれを実現させているのだ。
しかし我が国日本だけは、そうした経済対策を怠り続け、未だデフレ状況に陥ったまま、立ち直れずにいるのである。
しかもそもそも、我が国日本と同じく、コロナによる健康被害が「さざ波」程度である中国や韓国や台湾の東アジア諸国は、日本の様に激しい自粛をやらず、激しく経済低迷をしていなかったのだ。にも関わらず、日本だけがやらなくてもいい無駄とすら言い得る過剰な自粛を繰り返し、激しく経済を低迷させてしまったのだ。
さらにおまけに、コロナが襲いかかる直前にはやらなくてもよい消費税の増税を多くの反対の声を撥ね除けて断行し、あまつさえ諸外国が当たり前の様にやっている消費減税を行わず増税状況を持続値に現れている、というものだ。すなわち、今コロナ禍で低迷していた世界経済が復活しつつある、という話だ。
もちろんインフレ率が高すぎるのは問題だが低すぎるのはもっと問題だ。しかもマイナスを記録するデフレという状態はさらに深刻だ。なぜなら、物価が持続的に下落していけば各法人の売り上げは必然的に下落し、それは確実に我々国民の賃金の下落、すなわち貧困化をもたらさせ続けているわけだ。
つまり我が国政府の無能ぶりが遺憾なく発揮された挙げ句、世界で唯一日本だけがデフレとなるという「恥曝しな帰結」がもたらされたのだ。
ただしこうした「恥曝しな帰結」を導いている最大の原因は、日本政府の無能ぶりに本格的関心を示さず、ただ「しょうがない」と言って諦め、飲み会のみならずあるべき政治のあり方を考えることすら「自粛」してしまった日本人の無気力ぶりにあると言う他ない。
政治に対して本格的関心を失った国民国家は滅び去る他ない。そしてその真実をコロナウイルスが今、明白にあぶり出している。だから今回の衝撃的とすら言いうるピュー研究所のレポートは、その意味において至極当然の必然的なものなのである。
誠にもって、遺憾と言う他ない。
(『表現者クライテリオン』2022年1月号より)
他の連載などは『表現者クライテリオン』2022年1号にて
『表現者クライテリオン』2022年1月号 「岸田内閣成功の条件」
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