「対中最前線」から国民に向けたメッセージ
藤原 昌樹
中国の沖縄侵奪計画が進んでいる。
この衝撃的な一文を冒頭に記すのは、仲新城誠氏(『沖縄八重山日報』論説主幹)の最新著『紅い沖縄認知戦 中国の行動原理を暴く』(以下、『紅い沖縄認知戦』)です。
同書は、以前に拙稿でも紹介した仲新城氏の前著『オール沖縄崩壊の真実-反日・反米・親中権力』(以下、『オール沖縄崩壊の真実』)の続編と位置づけられる著作であり、章立ては下記の通りとなっています。
「沖縄は中国の領土である」とする中国によるプロパガンダ(第1章)や「沖縄県民は先住民族である」とする国連勧告(第2章)、沖縄県議会の「自衛隊及び隊員とその家族に対する差別的な風潮を改め、県民に理解と協力を求める決議」に繋がる「沖縄全島エイサーまつり」から自衛隊を排除しようとした騒動や「陸自隊長が市民を恫喝した」と活動家達から難癖をつけられた騒動など県内における「反自衛隊活動」(第6章)、沖縄の最前線で取材を続けている『産経新聞』の大竹直樹那覇支局長の視点から見た「辺野古転覆事故」や「安和桟橋死傷事故」を巡る玉城デニー知事の言動や抗議活動家達の醜悪な振る舞い(第7章)など、同書で取り上げられている事例のいくつかは、これまでに私自身が拙稿で論じた事例と重なるものであり、より詳細に論じてくれています。
その一方で、「台湾有事」が発生した際に想定される中国軍の「与那国島」電撃占領シナリオや「ハイブリット戦」の脅威(第3章)、中国漁船団100隻の来襲(1978年4月12日)に始まる中国の「尖閣侵略史」と「尖閣侵奪」ロジック(第4章)、仲間均氏(石垣市議会議員、「尖閣諸島を守る会」代表世話人)による尖閣を守る活動(第5章)、長年の取材を通して著者自身が組み立てた「オール沖縄」の正体に関する仮説(第8章)など、私自身にとって、同書を読むことで初めて得られた知見も少なくありません。
恐らく、「中国の沖縄侵奪計画」と言われても、日本国民の多くが「危機感を煽るための大袈裟な妄想」「嫌中派による中国を貶めるための陰謀論」などと認識して全く信じようとしないか、仮に「信憑性がある」と受けとめたとしても、「平和主義」に基づく楽観論を信じて「対話を通して解決すればよい」などと主張するか、「中国を仮想敵と看做して防衛力強化を図る日本が悪い」「台湾有事に関する発言で中国を怒らせ、撤回しようとしない高市総理が悪い」などというように日本側に責任があるものとして論ずる。もしくは、日本本土から遠い辺境の地のこととして当事者意識を持つことができず、あたかも他人事であるかのようにしか受けとめることができないのではないかと思えてなりません。
しかしながら、著者の仲新城氏は「中国の沖縄侵奪計画が進んでいる」ことは「『対中最前線』とも呼ばれる八重山諸島で27年間、地元紙『沖縄八重山日報』の記者として活動してきた私の偽らざる実感だ」と述べ、切迫した危機感をもって「沖縄は今、外からも内からも攻撃にさらされている」「日本にとって沖縄は、中国の進出に対する防波堤の役割を果たしている。中国の情報戦は沖縄だけの局地戦にとどまらない。防波堤が決壊すれば、日本全体が怒涛のような侵略の濁流に吞み込まれるだろう」と語っています。
同書では、沖縄をターゲットとする中国の「認知戦(情報戦)」の実態を明らかにするとともに「中国の脅威が目前に迫る中、なぜ県政を牛耳る『オール沖縄』勢力が、中国に反論も反撃もしないどころか、中国を利するように見える行動を取るのか」という疑問を検証することを通して、中国の「沖縄侵奪計画」が根拠のない陰謀論などではなく、まさに我が国にとって「今そこにある危機」であることを明らかにしています。
昨年11月7日の衆議院予算委員会で、立憲民主党の岡田克也衆院議員(当時)から「台湾有事」が勃発した場合の対応を問われ、高市首相が「それが戦艦を使って、そして武力の行使を伴うものであれば、これはどう考えても(日本が集団的自衛権を行使できる)存立危機事態になり得るケースである」と答弁したことによって国内外で大きな波紋が拡がったことは記憶に新しいところです。
高市首相の答弁に対して、台湾を自国領であると主張する中国政府が、日本が「台湾有事」に介入する意志を示したものだと解釈して猛反発し、日本への渡航自粛呼びかけなどの対抗措置を次々と打ち出し、中国国営新華社通信が高市首相の名前をもじって「高市『毒苗』」と罵倒したことをはじめとして、SNSを主たる舞台に首相への個人攻撃も繰り広げられました。その一方で、日本国内でも「中国を怒らせた」などといった声が拡がり、いまだに高市首相の発言への批判が後を絶たない状況が続いています。
しかしながら、『紅い沖縄認知戦』では、「台湾有事」が「住民の人生を左右する」ことになる「対中最前線」(八重山諸島)では、高市首相を厳しく批判する人々とは全く異なる受けとめ方をしていることを教えてくれています。
八重山諸島の石垣市、竹富町、与那国町住民から見ると、首相答弁の何が問題なのか分からない。首相が言っていることは当たり前過ぎる。中国のご機嫌をうかがい、これをことさら問題化する野党やメディアは「我々離島住民の気持ちを分かっているのか」と呆れざるを得ない。
(中略)
八重山では新聞やテレビで「台湾有事」という言葉を見ない日はないほどだ。住民の有事に対する切迫感は本土とはまるで違うし、沖縄本島ですら離島とは温度差がある。
(中略)
首相答弁の撤回を求める野党やメディアなどの国内勢力に対しては、最前線である八重山住民の立場から「撤回は必要ないどころか、すべきではない。中国に同調する人たちは、離島住民を見捨てるも同じだ」と訴えたい。離島住民の命を守るためにも、政府は毅然とした態度を貫くべきなのだ。
戦後80年、中国は全くぶれておらず、「沖縄は日本の領土ではない」という主張は、既に中華人民共和国の建国時から始まっているのであり、高市首相の国会答弁に対する一連の化学反応で明らかになったのは、中国が台湾侵攻を本気で目論んでいることだけでない、と指摘しています。その先の尖閣、先島諸島、そして沖縄全体に自国の版図を拡大しようとする意図が浮き彫りになったのであり、日本国民、特に沖縄県民は、私たちや私たちの子供達が差し迫った危機にさらされていることを自覚しなくてはならない、と言います。その上で、21世紀の侵略国家・中国の本質をあぶり出したという点で、高市首相の国会答弁は軽率どころか、歴史に残る「名答弁」だったかもしれないと高く評価しています。
高市首相の国会答弁に対する評価の違いは、中国が仕掛ける「認知戦(情報戦)」や「沖縄侵奪計画」について「自分事」として捉えて「当事者意識」を持って対峙しているのか、遠い辺境の地で起こる「他人事」としてしか認識することができていないのかという違いによってもたらされているのだと思わされます。
同書では、玉城知事が「沖縄県民は先住民族である」とする国連勧告や中国による「沖縄が日本であること」を疑問視するプロパガンダに対して曖昧な態度に終始し、尖閣海域の中国艦船が地元漁船の操業を妨害し、漁業者に不安が広がっている尖閣問題について極めて冷淡な態度を取り、中国政府に抗議することを頑なに拒否し続けていることを厳しく批判していますが、尖閣問題をめぐっては、その批判の矛先は日本政府にも向けられています。
中国の「尖閣侵略史」とは、裏を返せば日本の「弱腰外交史」でもある。
(中略)
尖閣問題で50年にわたる日本の無策は、中国に絶好の時間稼ぎを許した。これほど長期間、日本はひたすら中国に忖度し、尖閣諸島の実効支配強化を放棄し、ことなかれ主義を通した。だがその結果として今、尖閣諸島はどうなっているだろうか。尖閣問題で中国は国際規範にのっとり、礼儀正しく日本に接しているだろうか。中国に対する気遣いは結局、全くの無意味だったのではないか。
前著『オール沖縄崩壊の真実』では、沖縄本島と離島の関係について「本島による離島軽視という『構造的差別』が歴然と存在している…(中略)…その象徴が現在の尖閣問題である」と指摘し、沖縄本島住民の尖閣問題軽視(=沖縄本島と石垣島との間にある尖閣問題に対する危機意識のギャップ)の背景にあるのが「抑止力」を否定的に捉える「オール沖縄」県政の姿勢と沖縄本島住民の「離島への差別意識」であると論じていました。
沖縄本島住民の一人である私自身にとって耳が痛い話であるのですが、仲新城氏が指摘する「尖閣問題に対する危機意識のギャップ」と、その背景に「沖縄本島住民の離島への差別意識」が存在することを一概に否定することはできません。
さらに言えば、沖縄本島よりも遠く隔たった本土在住の日本国民と離島住民との間には、より大きな「尖閣問題に対する危機意識のギャップ」が存在し、その背景には「離島への差別意識」とまでは言えなくとも、離島(辺境の地)に対する無関心や当事者意識のなさが存在することは否定できないのではないでしょうか。
例えば、『沖縄八重山日報』がほぼ毎日、尖閣周辺で中国艦船の航行や領海侵入、日本漁船への威嚇が常態化している現状を伝えてくれており、この記事を執筆している2026年7月6日には「尖閣周辺の領海外側にある接続水域では6日、(いずれも機関砲を搭載している)中国海警局の艦船4隻が航行している。尖閣周辺で中国艦船が航行するのは234日連続。海保の巡視船が領海に侵入しないよう警告し、監視警戒を続けている」と報じています。
しかしながら、仲新城氏が「現在のメディアはおろか沖縄県民すら、尖閣問題にほとんど関心を寄せようとせず、あたかも米軍基地問題だけが直面する外交課題であるかのような態度で、尖閣情勢は見て見ぬふりを決め込んでいる」と厳しく指摘しているように、八重山諸島の住民を除く日本国民の中で、危機感と関心を持って尖閣諸島周辺の動向を日々注視している人はほとんどいないと言わざるを得ないのです。
同書からは、中国が仕掛ける「認知戦(情報戦)」の実態と、それに呼応する沖縄県内における「オール沖縄」勢力の動向などについて多くのことを学ぶことができます。それと同時に伝わってくるのは、「対中最前線」とも言われる八重山諸島で暮らす住民の間に拡がる、中国による沖縄侵奪に対する危機感であり、沖縄本島在住の県民を含む日本国民に対して向けられた「同胞として私たちの危機感を共有して欲しい」「他人事ではなく、自分事として認識して欲しい」という切実なメッセージです。
同書では、中国の「沖縄侵奪計画」に向けた情報工作は、既に仕上げ段階に入っており、中国が仕掛ける「認知戦(情報戦)」は今後、間違いなく激化の一途をたどると断言しています。
そして、沖縄に「オール沖縄」県政が存在している時点で、日本も中国の「認知戦(情報戦)」に土台を切り崩されつつあると自覚すべきであり、日本は今後、中国のあらゆる「認知戦(情報戦)」への対応を強化し、時には戦略的無視、時には断固として反論しながら、国際社会で「沖縄は日本の領土ではない」という荒唐無稽な主張が広がることを阻止しなくてはならないと強調します。それと同時に、物理的にも国境の島々をはじめとする南西諸島での自衛隊配備を強化し、抑止力を充実させる必要があり、特に自衛隊の地位向上を図って「自分の国は自分で守る」体制の確立を急ぐべきであると提言しています。
中国の沖縄侵奪に対抗するためには、まずは国民の一人一人が当事者意識と関心を持ち、現状を正しく認識することが求められます。
『紅い沖縄認知戦』と『オール沖縄崩壊の真実』の2冊は、そのための最適な手引書であり、沖縄県民のみならず、一人でも多くの日本国民に手に取って頂きたく思います。
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