こんにちは。『表現者クライテリオン』事務局です。
本日は12/16発売の最新号『表現者クライテリオン2026年1月号 「高市現象」の正体ーここから始まる大転換ー』より「特集座談会」をお送りいたします。
藤井▼十月二十一日に高市早苗さんが総理に就任し、それまで三〇%から四〇%あたりで低迷していた内閣支持率が八〇%を超えるほどにまで高まっています。戦後の歴代総理の中でもここまで高い支持率を記録した方は数えるほどしかいません。
では、積極財政派の保守政権に国民の熱狂的と言ってもいいような支持が集まっているこの現象とは一体何なのだろうか、ということを読み解こうというのが今回の特集のねらいです。そこで、高市政権はどういう政権でどんな政策を掲げているのかといった政権の内容について議論するとともに、この現象自体を読み解くという意味での社会科学的、社会思想的な議論も展開していこうと考えています。
この現象を考える際には、まずは戦後日本の中で自由民主党が誕生し、安倍政権や緊縮リベラル派の政権などがあって今に至るという日本国内の流れを押さえる必要があります。同時に、この日本の流れはトランプ政権の誕生やブレグジット、あるいはドイツでのAfD(ドイツのための選択肢) の躍進やフランスでのマリーヌ・ル・ペンの躍進といった世界的な潮流も関係しており、その背後にはグローバリズムに対する「疲れ」があります。これは我々が十数年前からずっと議論してきた世界史的な流れであり、高市現象とはこうした大きな流れの中での日本の「転換」を直接的に意味しているのではないか、というのが我々の基本的な考えです。
今日はこのあたりを議論していきたいと思いますが、まずは柴山さんからお話しいただけますか。
柴山▼皆さん同じ印象を持ったと思いますが、内閣がパリッとしましたね。石破内閣はリベラルとか保守とか言う以前に、とにかくだらしない雰囲気があった (笑) 。高市さんは就任時の写真を見ても凜としているし、国会論戦も引き締まっていますよね。中国との外交問題が起きたりしていますが、それも含めて、緩んだ議会政治が変わりつつあるし、そこが国民の注目や支持を集めている理由なのだと思います。
それはともかく、私は今回の高市現象を、世界全体の流れの中から読み解くべきだと思っています。今はまさに、歴史上何度もあったような大きな転換期にあります。過去には一九三〇年代のニューディールや社会主義の盛り上がり、一九八〇年代のサッチャー、レーガンに代表される新自由主義改革がありましたが、今は、冷戦後に広まったグローバル化や新自由主義への反動が始まっていて、イギリスがEUを離脱したりトランプが大統領になったりする時代になっています。この流れが世界中で広まっていき、ついに日本にも到達した。日本はだいたい十年遅れで英米を追いかけますので、二〇一五年ぐらいから始まった新たな波が、十年後の二〇二五年になって日本にも到来したわけです。
さすがにトランプほど極端な保護主義は唱えていませんが、国内産業の強化やグローバリズム政策の見直しを唱えている点で、トランプ寄りと言えます。そういう意味では世界全体の流れに沿っている部分があるし、国民も潜在的にそれを感じているからこそ、期待が高まっているのではないかと思います。
柴山▼問題は、今の言論人が高市現象をうまく捉えられていないのではないかということです。私の一番の危惧はそこですね。一部のリベラル派は「アメリカや欧州のように、日本でもいよいよ高市早苗という極右が政権を取った」みたいな話をしていますが、思想史を学んできた身からすると、「極右」という言葉をそんな安易に使ってほしくない (笑)。
藤井▼ 「これで極右ってどういうことやねん!」という話ですよね。
柴山▼一方で、最近出てきたマムダニというニューヨーク市長は「極左」と言われていますが、これもおかしい。極左は資本主義や自由民主主義を根本から否定する立場です。これは極右も同じで、単なる右派左派ではなく「極右」、「極左」という場合は、経済における資本主義体制や政治における民主主義体制のような、現代世界において中心的とみなされる価値観を根本からひっくり返そうとする運動であって、それが左から出れば極左になる。資本主義から共産主義へ、自由民主主義から民主集中制への移行を目指すわけですが、マムダニは普通に美濃部都政のニューヨーク版みたいなものでしょう。
極左と同様に極右も、通常の保守とは異なり、議会制民主主義や自由主義的価値を否定し、強い国家権力による秩序維持を正当化する立場ですね。トランプであれ、欧州で極右と呼ばれるような諸政党であれ、排外主義に流れる危険はあるにせよ、資本主義や民主主義の枠組みそのものを否定しているわけではありません。それにトランプと比較すれば、主張内容も政治手法も高市早苗の方がはるかに穏健です。
藤井▼ 「私の地元の鹿が蹴られていて嫌やわ」と言うことのどこが極右やねんという話ですよね。
柴山▼それに「極右」などというレッテルを貼るのは思想の混乱以外の何ものでもない。今起こっている現象を間違えて捉えると、その後の処方箋も全部間違えるので、やはり言論人の責任は大きいと思いますね。
藤井▼そうですね。浜崎さんはいかがですか。
浜崎▼今、柴山さんが指摘された通り、高市政権を「極右」とか言っている「リベラル」のセンスのなさ、その思考停止ぶりは、本当にひどいと思います。
まず、私の高市政権に対する感想から述べさせてもらうと、安倍政権を含めて、これまでの政権とは比べものにならないくらいの信頼感がありますね。これまでの政権に対しては常にイライラ感があり、不信感を募らせてきましたが、今のところ高市さんにはそういう感じがない。まだ政権発足から一カ月も経っていませんが、すでに、「石破政権の一年間」以上の成果を出しています。そこにはもちろん、筋を曲げることがむしろ苦手な「高市早苗」という特異なキャラクターが大きく関わっているとは思いますが、これまで、「資本」 (グローバリズム) や、「アメリカ」や、「中国」の方に過剰に気を遣いながら政策を打ち出していた日本国政府が、ようやく「日本国民」の方に目を向けて政策を打ち出してくれたということが、今の安心感のようなものを生み出している理由だろうと思っています。
また、もう一つ重要なのが、戦後日本の「大転換」の視点です。詳しくは拙稿 (巻末オピニオン) を読んでいただければと思いますが、すでにアメリカの「力の体系」に依存できなくなっている日本は、「自力」をつけなければならない状況にある。そうなれば、それに合わせて「利益の体系」と「価値の体系」も組み替えなければならない。つまり、外需に頼るのではなく、国内の経済的基盤を強化した上で、皇室や靖国などの「伝統」の問題にも取り組まなければならなくなるということですが、高市さんは、それをやろうとしているように見えるわけです。
そこから考えると、このたびのトランプ大統領とのディールも筋が通っていた。GDPの二%以上の国防費増額というアメリカからの要求に率先して従うふりをしながら、こっちの「自力」を高めるという目的を実現させ、さらに、ロシアの天然ガスの禁輸要求はしっかりと退ける「交渉」ができたというのは、すごいことですよ。
藤井▼しかも、押し返したのに険悪になっていないですからね。これは立派だと思いました。
浜崎▼そこですよね。でも、それを見たリベラル左翼たちは、「現地妻」だとか言っているわけですよね。何も見えていない「差別主義者」はお前たちではないかと (笑)。
藤井▼保守の奴にならどんな言い方をしても構わないと思っているわけですよね。
浜崎▼ 「社会を作っているのは私たちだ」という傲慢が、こういうところに出るんです。
柴山▼しかも、トランプ会談の後すぐに習近平に会いに行っていますから。
浜崎▼そうなんですよ。当初は、会談の開催まで危ぶまれていた日中首脳会談を実現させただけでなく、習近平との間にも一定程度の「交渉」のパイプを作っていますからね。
ただ、もちろん始まったばかりの政権ですから、本当の試練と評価はこれからということになるのでしょうが、まずは、目を見張るようなスタートダッシュが切れたことだけは確かだと思います。グローバリズムからの世界史的な「大転換」に、戦後史的な「大転換」を重ね合わせながら、ネオ・リベラリズム (緊縮) のイデオロギーを退け、どのように国民と国家との紐帯を形成し、その結果として中間共同体の習慣・倫理を甦らせることができるのか、それがこれから現実的、思想的に問われる高市早苗政権の真価だと言えるかと思います。
藤井▼本当にそうですね。柴山さんと浜崎さんのお話をつなげると、世界は大きくうねりを打って変わっており、戦後のレジームもこれから変わらないといけない。ところが、大局を読むには「思想」が必須ですから、思想がなかったらそんな世界の大転換の流れなんて何も分からないわけです。残念ながら現代のリベラルには思想の力がなく、全然大局を読めていないから見てくれだけで高市さんを「現地妻」だとかなんだとか言って口汚く批判する奴も出てくるわけです。
でも、高市さんには思想の力があって全体が見えているから、その全体に棹を差すように適切に差配しようとしている。逆に言えば、全体の潮流が見えるほどの思想性を携えた政治家は残念ながらこれまでいなかったということです (笑) 。そんなんで日本もよくここまでやってきたなと思います。
もう一ついうと、別に信じているわけではないのですが、聞くところによると昨年十一月から西洋占星術では二百四十年ぶりに「土の時代」から「風の時代」に転換したとのこと、さらに東洋の暦で言えば六十年に一回の十二支における龍蛇かつ十干における 甲乙(きのえきのと) の年でもあります。この龍蛇、甲乙の年は東京五輪や日露戦争、江戸時代最初の開国要求等、日本が六十年ごとに重大な転機となる年となってきました。大化の改新も龍蛇、甲乙の年。そんな占星術的に特殊な年に高市早苗という政治家が出てきて、それを支持する国民世論が生まれてきたわけです。思想的にも現実の政策的にも、かつ暦的にも占星術的にもそう言えるというのは面白い話じゃないかと密かに感じています(笑) 。川端さんはいかがでしょうか。
川 端 ▼ 僕 は そ の 占 星 術 と 暦 の 話 が 一 番 し っ く り き ま す(笑) 。というのも、高市総理の能力云々というよりも、何か新しい巡り合わせが来たという感じがするからです。僕も今回の高市さんの支持のされ方は、トランプ現象やル・ペン現象をマイルドにしたものと感じているのですが、政策の方向性、つまり外国人に厳しく反グローバリズム的である点で似ているということ以上に、ブームが急激に来たというか、「高市さんってこんなに支持されるんや」ということに驚きました。
もちろん右派っぽい人たちはずっと前から強く支持していましたが、去年の総裁選の時点で、一年後にここまで来るとは想像できなかったですよね。思ったよりもはるかに広く厚く、いろんな人から支持されているわけです。失礼ながら、昔からのイメージで言えば、「高市はネトウヨ政治家だ」みたいなリベラルの批判の方が、最終的には勝ってしまうんじゃないかと思っていたのですが、この半年ぐらいで急にそれが覆されて、普通の人も結構高市さんが好きということが分かった。
『クライテリオン』は二〇一八年に「ポピュリズム肯定論」という特集を組んでいて、ポピュリズムにはいろんな悪いところがあるが、歴史の流れとして、それが必要とされる局面もあるのだという話をしていました。主流派の知識人の目には見えない水面下で、社会の不満の蓄積や価値観のシフトがずっと進んでいて、ある時それが噴出するというのが、トランプ現象やル・ペン現象、そしてブレグジットだったわけですが、それがついに日本でも起きたのかなと。
積極財政に関しても同じイメージがあります。もちろん積極財政派というのは昔から熱心に活動されているわけですけど、何だかんだで去年あたりまでは「一部の人たちのややマニアックな主張」という扱いだったように思います。「消費税をなくそう」という主張も、多くの一般人の心を動かしていたかというと、そうでもない。ところが、ついに首相が堂々と「責任ある積極財政」を掲げるようになった。時代の空気がこんな急に変わるとは思ってなくて、僕自身も全然世の中が見えていなかったことに気づいたという意味で、すごく面白い現象です。
柴山▼私の印象では、冷戦終結後も長く続いていた「冷戦思考」が、だんだん通用しなくなってきた感があります。実際、立憲民主党の国会質疑は、昔の社会党を見ているようで「いい加減にしてくれよ」というのが大方の世論の反応になってきている。一番の問題は存立危機事態をめぐる質疑で、外国に利用されてしまう可能性があるのに、まだそんな言質を取るような詰め方をしているのか、と呆れてしまった。
積極財政に関しても、国民民主などの野党は、積極財政の前提を受け入れた上で「何に使うのがいいのか」という議論をしているのに、立憲民主だけは「財政規律が心配だ」という従来型の論点を引きずっている。与党に反対するのが野党の基本的な役割であるとはいえ、冷戦時代のように正反対でなければならないわけではなく、少しだけ反対とか斜めからの反対とか、やり方はいろいろあるはずです。高市さんの登場は、昔の自民党と社会党のような冷戦的な対立図式から、政治が次のフェーズへ移ろうとしていることを象徴しているように思います。
積極財政について言えば、今は財政の緊縮か拡張かという議論はもう終わりにすべきです。国際的な政策論議でも、名目成長率が金利を上回る状況であれば債務負担は安定するという考え方が主流になってきていて、必要な分野に予算をどう振り向けるかという、より前向きの議論に軸足が移ってきています。例えば日本の防衛予算に関して、日本の総合的な安全保障を強化するという前提の下で、自衛隊の軍備充実が先か、それとも経済安全保障の方を優先するのかといった議論になってきましたね。与野党一致で知恵を絞るという時代にようやく変わってきたように思います。
藤井▼今まで国会の議論では「ご飯論法」であったり、質問されてもまともに答えなかったり引き延ばして時間だけ使ったりということをずっとやってきたために、「政治はそんなものだ、それが当たり前のことなんだ」と皆、かなり深い諦めの境地にあったと思うんです。
そんな国民が諦めきってしまう、言論あらざる見せかけのフェイク言論空間の中に「野党」の方々も未だに留まっているということなわけですが、「石破茂」こそがそんなフェイク言論の最も典型的な存在でした。石破茂によって言葉の意味というものが完全に失われ、結局は「既得権者たち」に日本の政治が好き勝手に弄られるという実態を糊塗するためだけに彼の言葉があったわけです。そんな見せかけのフェイクの塊の人物が総理をやっていた「途轍もなく暗い時代」としての石破現象があったからこそ、普通に議論する人が総理になったことで時代が一気に明るくなったわけです。だから、石破総理という存在が高市現象が高市現象になり得た条件の一つだったと言えると思います。
普段国会の議論なんて全く聞こうとしなかった市井の方々から、今の国会が面白くてしょうがないなんていう話もよく耳にします。
柴山▼若い人も国会が面白いと言っていますね。政策論争をやっているからでしょうね。
藤井▼それは単なる記号だけを操作していた小泉現象だとか大阪での橋下徹現象とは全く違っていて、「ポピュラリズム」 (人気主義) ではなく庶民的言語に基づいた「ポピュリズム」 (人民主義) と呼ぶべき現象なのだろうと思います。
今まで「土の時代」の中で「ご飯論法」で固められた言論空間が開放されて、普通の言葉が精神を取り戻して羽ばたくような「風の時代」になったと言えるかもしれませんね。
浜崎▼そうですよね。「ポピュラリズム」 (人気主義) が、一種の「空気」 (同調圧力)によるものなのだとしたら、今回の総裁選の「空気」は、むしろ小泉進次郎の方にありましたよ。
もちろん、その一方で「参政党現象」などを見ると、ピープル (人民) が変化を求めていたことは確かですが、しかしそれでも、「空気」を作り出す主体である権力者たち──財務省、自民党の重鎮、主流派経済学者、大手メディアなど──は、未だに「小泉進次郎的なもの」への同調を強く打ち出していましたからね。しかし、だからこそ、その「空気」を壊すには膨大なエネルギーと覚悟が必要だったわけですが、その点、「要領が悪い」、「仲間づくりが苦手」、「何でも一人で抱え込んでしまうタイプ」と言われながらも、よく高市さんは「政治」を諦めずに闘ったと思いますよ。その「ひたむき」さが、まさに同調圧力を跳ね除け、国民の心を捉えたのでしょう。
そして、もう一つ、今回の高市政権誕生で特筆すべき点は、高市さんが確信犯的に、…続きは本誌にて
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