東京の屋根に

吉田真澄(65歳・東京支部)

 

 おいおい正気か?と叫びたくなる。10年以上前ならともかく、現在では中国当局によるウイグル族の強制収容とその管理下における無償、あるいは極端な低賃金労働によって、世界市場における70%(発電容量(kW)ベース 2019年実績)もの太陽光パネル用多結晶シリコンが製造されていることが国際的に問題視されはじめている。そして、米国政府は一連の非人道的な強制労働に関与した制裁として、中国の関連企業5社の製品に輸入禁止措置を講じたと報道(2022年6月26日 アゴラ)される。一方、日本における太陽光パネルの中国製品依存度は高く、輸入総額の79%が中国へと支払われている(2020年度貿易統計)現状に対し、一部の識者から度々、警鐘が鳴らされている。

 しかし、そんな国際世論もどこ吹く風。この5月、東京都では、新築戸建てや小規模建物を対象とした太陽光発電の設置義務化を含んだ条例案が提出され、令和7年4月の施行を目指した準備が進められている。そして中央政界では、父子相伝の環境利権の近くにいる世襲議員たちが素知らぬ顔をして、太陽光発電推進を擁護する発言を繰り返している。これら周回遅れのトレンドちゃん(欧米発の概念やキーワードを輸入して、吟味することなく日本に紹介する人々。輸入元が撤回したり、方向転換したりすると慌てふためき、外された梯子を掛け直そうとしているうちに周回遅れとなる。電力問題についての輸入元は、さしづめドイツあたりか?)たちは、無責任な横文字スローガンを振り回した挙句、都民や国民を舐めきった施策を実行に移そうとしているのだ。

 そもそも再生可能エネルギーとして期待を集めた太陽光発電は、この日本においては、ベースロード電源(コストが安く、季節や昼夜問わず安定的に発電できる電力源)になり得ないことが明らかになっている。鳴り物入りで進められたエネルギー·シフト政策は、再生可能エネルギー発電促進賦課金等の導入により、今や電気料金の高騰要因となるばかりでなく、夏冬の最大電力需要期における停電リスクの回避にほとんど役立たないことが判明している。そして、経済成長の原動力でもある電力政策を長年にわたって誤った結果が、今夏の「節電ポイント」(参加協力家庭に一律2000円相当のポイントを付与)という、まるで「一人ボケ、ツッコミ」のような愚策なのである。

 そのうえ、新疆ウィグル地区で、ふんだんに石炭火力を使って、つまりCO2を出しまくって生産された太陽光パネルは、大量にこの国に輸入され、地方の丘陵部の斜面を丸裸にし、土砂災害や緑域環境破壊の元凶となっている。さらに、パネルの原材料として使用される鉛、セレン、カドミウム等の有害重金属類は、地下水汚染を引き起こしている。

 一体、こんな政策のどこが持続可能社会なのだろう?にもかかわらず、大バカヤローどもは東京の屋根に「民族の血と汗と涙の代償」ともいえる、板っ切れを搭載させようとしているのだ。そんな不埒で禍々しいものを載っけたら、夢見が悪くて、夜もオチオチ眠ることができないだろう。

 まさかとは思うが、我がトレンドちゃん系首長が得意げに使っていた「アウフ·へーベン(止揚)」という言葉は、屋根の上にシリコンパネルを揚げる、という極めて形而下的な意味合いだったのかもしれない。自分の頭で考えず、トレンドばかり追っているうちに、真も善も美も喪失し、ライトアップされた虚飾の美ばかりが妖しく揺らめくメガロポリス東京。今、東京都民は(私も含めて)まず、都民であることを恥じ入ることから、再出発すべきではないだろうか。