改題第7号(通巻第85号) 読者からの手紙

カオスから生まれる新秩序の「国柄」とは

 本年五月一日めでたく令和の御代を迎えました。上皇陛下へは深い感謝と、今上陛下には心からの慶びとお祝いを、僭越ながら一国民として謹んで申し上げたいと思います。

 一方今巷間では御代替わりにつれて、にわかに「女系天皇」論が巻き起こっているようです。しかしその議論の様子を見ているとどうにも違和感が拭えませんでした。彼らのその主張する議論は、「女系天皇への待望」という結論ありきであり、そこから遡及した理屈の組み上げ方にしか思えませんでした。歴史的な正当性の経緯など種々の細かな論点があるのは承知していますが、今回そのすべてを論じられないため、いくつか要点を絞って、彼らの議論の歪な問題を指摘したいと思います。

■名乗り出ることの「政治的」な意味

 「女系天皇」論を主張する彼らのその要諦にあるは『旧宮家の方々に復籍の意志がないため』というもののようです。おおよそ要約すると『昨今これほどにも議論が持ち上がっているにもかかわらず、旧宮家の方々から名乗り出ることや、あるいは男系天皇護持を主張する人々から具体的な復籍をしてもいいという旧宮家の方のお名前が挙がらない以上、(自分たちの主張する正当性による)「女系天皇」を戴く事で皇統を維持すべきだ』、という議論を展開しているようでした。

 しかし、そこには極めて重大な見落とし(あるいは意図的な無視?)がある点を指摘せねばなりません。皇位継承順位は現在の皇室内において確定しています。この現状で、そういった名乗りを上げたり、あるいはどなたかのお名前を挙げたりするというのは、何か政治的な「ある特定の意図」があると受け取られかねません。(極めて不敬な意味合いを持ちかねないので、敢えてその詳細を言及するのは避けたいと思います。)

 我が国の歴史を見れば、皇室の権威を政治的に利用しようとした人物は、これまでも沢山存在してきました。旧宮家の方々が、あるいはこういった意味を持ちかねない発言を軽々にされるとはとても思えません。いわゆる「女系天皇」を主張する人々には、この視点を欠いて(あるいは意図的に無視して?)『復籍を望んでいる旧宮家はいない』と結論付けているようにしか思えず、これは非常に軽率と言わざるを得ません。

 特定の誰かとの結びつきや政治的な意図や色がつかないよう、粛々とした議論と手続きを積み重ねて行けば、穿った見方のされることのない、正当で真っ当で円満な復籍をしていただく事も、成熟した民主主義と長い皇統の歴史を併せ持つ我が国ならば必ず可能なことです。この点を無視して「女系天皇」という結論ありきの議論を進めているとしか見られない主張は、一国民として到底納得できるものではありません。

 また上記の「政治的」な意味を含意しかねない可能性の発言については、軽々な発言を行ってしまうと、意図した以上にこの論点にばかりフォーカスされてしまうという危険性があるため、(本来私のこの発言までも含めてではありますが)そもそもあまり口にする事が好ましい発言ではないようにも感じます。しかし彼らの主張には事あるごとに『旧宮家にその意志がない』という発言が相当頻繁に見られました。政治家・評論家・言論人等々相当多くの人が、あまりに軽々しく口にしています。これらは非常に悪質な政治的意図を持ちかねません。くれぐれも皇統を継がれる方々の心中を軽々しく口にするのは是非とも辞めて頂きたいと思います。

 加えて旧宮家の方々の皇籍離脱は、戦後のGHQによる圧力の一貫であったことはよく知られています。我が国の自主独立を謳うのならば、旧宮家の方々に皇室にお戻りいただけるよう整える事こそ真っ当な我が国の在りようであり、またそれが皇室の安定的な維持にもつながるという、非常に重要な意味を持つものだと考えます。

■「人権」論という矮小化

 また彼らは『皇室に入るということは基本的人権を剥奪されるという事であり、誰も好き好んでやりたいわけがない』という趣旨の発言も見かけましたが、これも極めて不敬なものだと思います。皇統を引く方々はそれを高い誇りとされ、なにか事があればその使命を全うされる意志を必ずお持ちであり、そう子々孫々伝えておられると私は信じています。それが私の皇室に対する敬意です。人権云々という矮小化した議論は非常に不適切で、皇統を継ぐ方々の矜持を軽んじ、その志を侮辱するものでしかないと私は考えます。

■極めて不適切な「馬の骨」発言

 そしてとある「女系天皇」論者の発言に、そういった旧宮家の方々に復籍いただくことを『国民からすれば「どこの馬の骨だ」となるだろう』などという趣旨の発言も見かけました。私はこの発言をとても許すことはできません。今現在、敗戦やGHQによる圧力などの経緯を経た上で止む無く皇籍を離れられているとはいえ、皇統を継ぐ方々を、どうして『馬の骨』などと口にできるのでしょうか。「女系天皇」論を主張する人物の見識などこんなものなのか、と看做さざるを得ません。

 その旧宮家の方々は今上陛下とおよそ600年前に分家された宮様であらせられるそうです。かの「女系天皇」論者は、そういった600年の血筋をさかのぼり皇統を継ぐという事を『馬の骨』と言いたいのでしょう。あるいはそこまで醜い言葉遣いではなくとも、その600年前の分家を理由に正当性に疑問を投げかける主張をする人物もしばしばみかけました。

 しかしその宮家の方々は600年の間も現在の皇室と深い関係を築いてこられたものであり、そもそも皇籍を離脱されている事のほうが異常事態であるはずです。にも関わらずその正当性を批判し、あまつさえ『馬の骨』と呼ぶのは、全く度し難く不適切極まりません。彼らは我が国の歴史において一例たりとも存在していない「女系天皇」論を主張しながら、一方で600年間皇族として務められておられた旧宮家の方々を『馬の骨』などと侮辱する、ダブルスタンダードで詭弁的発言は、とても許しがたいものです。

 また別の発言では上皇后陛下がかつて民間から皇室へ入られた事を例にあげ、『当時は民間から皇后陛下として迎えることに反対があったが、今は誰も違和感を持っていない』という発言もありました。ゆえに『「女系天皇」もいずれ誰も問題に思うことなどなくなるだろう』という趣旨です。しかしこれも非常に詭弁的な主張です。民間人であった上皇后陛下が嫁がれた事を問題ないと言うのならば、旧宮家の方々に皇室にお戻りいただくことに、さらに誰も違和感を抱くことなどないでしょう。もともと皇統につながる方々ならなおの事です。こういった皇統に対する敬意を、自分の主張に合わせて恣意的に出し入れする態度は、不敬極まりなく私は決して許すことができません。

 彼らのこの議論には「女系天皇を実現したい」という(その意図が一体どこから来ているのかと疑いたくなるような)結論ありきで、そこから遡及し組み上げられた無茶苦茶な議論なのだとしか私には思えませんでした。

■皇統を「論じる」という事

 しかもその「女系論」を主導しているある特定の人物は、かつて年端もいかない某女性アイドルグループに熱中しており、その彼女たちのことを『日本の国柄がぎっしり詰まっている』などとした発言がネット上に残っていました。彼女たちが『日本の国柄』であるとは一体何なのでしょうか。そのグループが我が国の「文化」や「国体」だというのでしょうか。彼女たちのある商行為が社会問題となっている事に対して彼は『政治的な現象としてカオスの中に新秩序がどのように形成されていくか見たかった』などという、私には理解しがたい意図のもとに擁護してきたそうです。

 つまり『日本の国柄』と彼が解釈するアイドルグループが混沌の中から秩序を形成する様子を見たがったように、同様に「国柄」であり「国体」そのもである皇室を、「女系論」という混沌に放り込み、破壊し、そこから新秩序を見出したいという極めて愚劣な意図によるものではないのか、という疑いすら持たざるを得ません。この手のいわゆる「スクラップ・アンド・ビルド」という類の「既存のものを破壊し目新しいものを一から作り直す」という愚かな行為を、我々は既にその誤ちを散々繰り返してきた事は、この表現者クライテリオンにおいても批判され尽くしてきたように、もはや言を俟たないでしょう。

 皇統の議論は本来皇族の方々に委ねられるべきだと考えますが、それが皇室典範や憲法の制限上難しいのであれば、極めて慎重かつ(本当の意味での)保守的な態度を維持できる人たちによる、冷静な議論の積み重ねが必要なものだと思います。軽薄で愚劣で破壊的な思想を持つ人物が闖入しかき乱していい議論では決してありません。

■「歴史」に根ざした議論を

 私には皇室や歴史について専門的な知識もなく、今般御代替わりの際に改めて古事記を改めて読んでみたという程度のものでしかありません。つまらない身の上ではありますが、しかしこの「女系天皇」を主張する人々の意見には、一国民として到底賛同できない歪な主張であるとしか受け止めようがありませんでした。

 昨今の新聞社による世論調査では、女性や女系天皇への容認が多数を占めているというものがありました。しかし、事この皇統というものは、国民の人気投票のような世論調査など、そもそもが全く相応しく無いものです。大きな可謬性を孕んだ現代の我々の判断などではなく、我が国の深い歴史に根ざしたその上で、静謐で厳かで慎重な議論が積み重ね行かれる事を、一国民として願ってやみません。

投稿者 : 

  • 多田乃等(大阪府、会社員)

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