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ドラマ「G線」と虚妄の未来型思考

七里正昭(福岡県、33歳、団体職員)

 

仕事を終えて帰宅すると、身体だけでなく脳も疲れきっている。私が、自分の脳を休ませる方法は2つある。1つは、『表現者クライテリオン』のように、現代日本の本質に鋭く斬りこむ本を読むこと。世間にあふれる的外れな言説とは異なる、「その通り!よくぞ言ってくれた!」と感じさせる言葉に触れると、脳は喜ぶ。もう1つは、テレビドラマを観ることだ。

テレビドラマ「G線上のあなたと私」(TBS)。昨年末、最終回を観た後の感動は、季節外れの新緑の風のように、私の胸を爽やかに吹いた。
舞台は「大人のバイオリン教室」。寿退社前に婚約破棄され、仕事も結婚も失った主人公・也映子[やえこ](波瑠さん)と大学生・理人[りひと](中川大志さん)が出会い、次第に恋に落ちていく。

2人との友情を育むのは、夫との不和、同居する義母の介護などを抱える主婦・幸恵[ゆきえ](松下由樹さん)。幸恵をはじめ多彩な登場人物たちが周囲を固め、単なる「恋愛ドラマ」に収まらない、社会への豊かなまなざしを作品に与えている。
やがて2人は互いに想いを確かめ合うが、也映子は理人が8歳下であることに戸惑い、「あなたには未来がある」と告げ、関係を絶とうとする。
理人は「オレ、あなたのためなら何とかするから、全部」と也映子を強く抱擁。也映子は「未来より、いま目の前にいる人を大事にしたい」と決心し、向かい合った2人はついにキ…(つづきは作品をご覧いただきたい)。

突飛な連想だが、也映子の決心は、いま目の前に広がる日本社会を一顧だにせず「より良い未来のために、いまは消費税増税と緊縮財政と新自由主義とグローバリズムと対米従属の痛みに耐えよ」といった未来型思考が総じて誤りであることを教えてくれる、気がする。
いま目の前にいる大切な人を、いま愛し、いま抱きしめるのだ。それが、これまでの過去をやさしく肯定し、より良い未来へとつながっていくのだ、きっと。

財務省よ。消費税廃止と、大規模な財政出動による社会保障と公共事業の大幅な拡充で、いま苦しむ国民を救え。
空腹に泣く子どもたちを、ダブルワーク、トリプルワークで疲れはてたシングルマザーを、非正規雇用で将来が見えない現役世代を、低年金にうなだれる高齢者を、学費が払えない学生たちを、障害者を、ホームレスを、公務員を、いま救え。
その道こそが、ひどい傷を負った、いまの日本社会を力強くよみがえらせる。その道こそが、悠久の歴史のなかの先人たちも、これから生まれてくる未来の子どもたちも、ともに抱きしめる道なのだ。

激しい怒りも、深いかなしみも、脳を疲れさせる。「G線上のあなたと私」の録画をもう1度観て、脳を休めて、眠ろう。
そして、明日も、1人の生活者として、閉塞した時代とたたかいたい。