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【柴山桂太】ナショナリズムとの向き合い方

柴山桂太

柴山桂太 (京都大学大学院准教授)

以前、私が書いた記事(「オリンピックとナショナリズム」2月27日)に質問を頂きましたので、ここでお答えします。

まず、「近隣国の欠点」をあげつらうことが、ナショナリズムや愛国心の正しい表明になりうるかについて、私の答えはもちろん「否」です。

ただし、表現の仕方の問題もあります。国境を接する国同士に紛争はつきものです。相手国に非が認められる場合に、それを批判するのは当然のことです。

その場合でも、居丈高に批判するのではなく、どこかにユーモアを交えるのが理想的な隣国関係だと思います。自分の国にだって欠点がある以上、お互い様という感覚を表現の中に忍ばせた方がいいと思うからです。

欧州には、お国柄をユーモラスにけなし合う文化がありますね。イギリス人は堅物、フランス人は気障、ドイツ人は融通がきかない、イタリア人は女好き…といった設定で語られるパーティ・ジョークです。

「あの国の国民性は〜だ」というのは、たいていの場合、偏見です。公の場で偏見を堂々と語るのは間違いですが、私的な会話では違います。ユーモアで包んだ偏見で互いの国民性をけなし合うのは、時に関係の成熟をあらわします。

残念ながらアジア諸国でそのような冗談はあまり語られません。いつの日か、日本人と近隣諸国の人々が、忌憚なく、互いの国民性を冗談めかしてけなし合うことができるようになれば、それは素晴らしいことでしょう。

ナショナリズム(国民主義)は、インターナショナリズム(国際主義)によって裏打ちされたとき、真に意味あるものになります。そして私の考えるインターナショナリズムは、国民性を消去したところでは成り立つものではなく、国民性の相互批評の上に成り立つべきものです。

「長老Q」さんが、いわゆる「日本スゴイ」番組に感じる違和感はよくわかります。外国人観光客がインタビュー(つまり公の場)で日本を褒めるのは、当たり前のことですね。社交辞令ですから、そこに真の批評はない。隣国を紋切り型で貶めるだけの言説に、真摯な批評がないのと同じです。

そのような疑問を持つということは、日本や隣国についての納得のいく批評を求めているのだと思います。批評には、知識と経験が不可欠です。相手国を批評するにも自国を批評するにも、豊富な知識と自分なりの経験が必要になります。

テレビの娯楽番組や「ナショナリズム・愛国心を肯定する」よくある言説に納得がいかないというのは、大切な出発点だと思います。あとは、ご自身で本を読むなり旅をするなりして、日本や近隣諸国についての、その関係のあるべき姿についての納得のいく像を探していけばよいのではないでしょうか。

【ペンネーム「長老Q」さん(大学生、22歳)】

先生の仰るような「自らの帰属する国家への愛着や忠誠」という意味でのナショナリズムは、私も問題無いと思いますし、国民一人一人が抱いていて然るべき自然な感情だと思います。

しかし、ナショナリズム・愛国心を肯定する論者の多くが、近隣国の欠点をあげつらった上で「それに比べて日本は〜」といった形で論を展開しているように思えます。

また、最近テレビで、日本に来た外国人に日本の伝統文化や技術を見せ「日本スゴイ」と言わせるような番組が多く見られるような気がします。

どちらも結局、他国と比較する形で日本の良さを語っているという意味で、単なる自虐史観の裏返しのようにしか思えません(比較すること自体が問題ということではないとは思いますが。例えば施光恒先生が『表現者』等で展開されていた主張などは、とても論理的で説得力のあるものだと思います)。そうしたものを見るにつけ、気持ち悪さというか、貧相だなぁと思ってしまいます。

このように感じてしまう私は、果たして「ナショナリズムが足りない」のでしょうか。時折不安になります。

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