米中関係に変化の兆しが生まれています。トランプ大統領は、米企業の知的財産や技術が盗まれているとして対中貿易制裁の発動を宣言。中国も対抗措置として、アメリカ製品の輸入関税引き上げを決めました。
ただし、中国の対米関税はまだ様子見の段階です。今後のトランプ政権の動向次第で、報復措置は激しくなるか、撤回されるかが決まります。
(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180402/k10011387821000.html)
今の時点では、この対立があるところで収まるのか、それとも「貿易戦争(trade war)」にまで発展するのかは分かりません。ただ、アメリカの中国への態度が、トランプ政権になって明らかに変わってきました。
今月の『フォーリン・アフェアーズ』に興味深い論文が出ていました。タイトルは「「対中幻想に決別した新アプローチを ー中国の変化に期待するのは止めよ」です。
(https://www.foreignaffairsj.co.jp/theme/201804_campbell/)
この巻頭論文(著者の一人は、カート・キャンベル前国務次官補です)には、次のようなことが書いてあります。
アメリカはこれまで、中国を国際社会に迎え入れれば、その行動を(アメリカにとって好ましい)方向に変化させられると考えてきた。しかし、それは完全な誤りだったと認めなければならない。
例えばアメリカは、中国をグローバル経済に引きこめば経済自由化が進んでいくと考えて、WTO加盟も後押しした。しかし、中国は豊かになった今でも、その体制を変えていない。中国経済をさらなる開放に向かわせようとする歴代政権の試みは全て失敗に終わった。
中国が次世代の基幹産業(航空宇宙、バイオ、ロボット工学など)と定める分野への国有企業の管理体制は強化される一方である。外国企業に国内企業と対等の競争環境を提供すべしという国際ルールを守る気配もない。今や、中国に進出した米企業の八割が「これまでより中国に歓迎されていない」と回答している。
政治に至っては、民主化に向かう気配は少しもない。情報技術革命による海外情報の流入は、インターネット空間にファイアーウォールを張り巡らせるなど、監視体制強化によって抑え込まれている。その上、経済成長の鈍化で、政治的自由化への控えめな期待さえ打ち砕かれてしまった。
中国を多国間機構に参加させれば、ルールに則して行動するようになるという期待も幻想だったことが明らかになった。北京政府は、米主導の既存秩序に参加することより、AIIBや「一帯一路」など独自の国際秩序を新たに構築する方向に進もうとしている。
本当は、もっと以前に対中戦略を見直すべきだったが、アメリカの政策担当者はイスラム過激派の問題に目を奪われてしまったため、そのタイミングが遅くなってしまった。しかしもう潮時だ。中国に対する、根拠のない希望的観測を捨て去らなければならない…というのが論文の趣旨です。
中国がいわゆる「国家資本主義」や「権威主義」体制をあらためるはずがないことくらい、常識で分かるはずでした。だから、何をいまさらの感が否めないのですが、それでも、トランプが対中貿易制裁を準備しつつある時期にこういう論文が出てきたことの意味は、重いというべきでしょう。
米中貿易戦争が勃発すると、日本にも影響が出てきます。中国の対米輸出には、日本のサプライヤーもかなり入っている(日本企業が中国に工場をつくり、アメリカ向けに輸出している)ので、対中制裁関税は回り回って日本企業にも打撃を与えるからです。
世界の二大経済大国が貿易戦争に入ると世界貿易が縮小するため、グローバル企業も予期せぬ混乱に見舞われるでしょう。しかし、それでもアメリカが、対中貿易制裁に向かう可能性は決して小さくないと思います。トランプの支持基盤へのアピールもありますが、それ以上にアメリカ中枢部の世界認識に変化の兆しが見られるからです。
WTOが出来たのが1995年。それから約四半世紀が経過し、世界経済の秩序はふたたび再編の時期を迎えた。そのように考えるべきでしょう。
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