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【柴山桂太】米中貿易戦争の狭間で

From 柴山桂太(京都大学大学院准教授) 

米中の貿易戦争が本格化してきました。トランプ政権は、7月に予定通り関税引き上げを実施。中国も「なりふり構わず反撃する覚悟を決めた」と報じられています。(参考記事

上記記事(WSJ)によると中国は、「米企業による合併・買収の阻害や許認可の先延ばし、立ち入り検査の強化などに加え、10億人余りの中国消費者を米国製品の不買運動に導く」などの手段を準備しているとのことです。

一方、EUもアメリカ向けの対抗措置を発表。ハーレー・ダヴィッドソンのオートバイや、食料品、衣料品などで大幅な関税引き上げを実施するもようです。

トランプ大統領は、ツイッターでさらなる報復措置として自動車関税の引き上げを示唆。アメリカとEUの貿易戦争も、いまのところ妥協点が見いだせていません。

アメリカの鉄鋼関税を引き上げ、EUがハーレーダビットソンなど二輪車の輸入関税引き上げを示唆して対抗する、という構図は2003年にも見られました。このときはブッシュJr.政権でしたが、最終的にはアメリカが折れて貿易戦争には発展しませんでした。

しかし現在は様子が違います。トランプ大統領は、EUへのさらなる報復として自動車関税の引き上げを匂わせる発言をしています。しかも今回は、NAFTAの枠組にあるカナダ、メキシコともやり合っています。2003年と現在では、アメリカの保護貿易への熱量が明らかに違うのです。

中国は当初、アメリカの農産物や工業・エネルギー製品を700億ドル近く購入する案を示して、トランプ政権を懐柔しようとしました。しかし、今回はアメリカに折れる気配は(いまのところ)ありません。それどころか、中国にさらなる制裁関税をちらつかせることで、対立をエスカレートさせています。

アメリカの強硬路線の背景には、政策担当者の中国観の変更があるという話を以前、紹介しました(4月3日のメルマガ)。2015年に中国が発表した「メイド・イン・チャイナ2025」は、航空・宇宙産業や医療産業、ハイテク産業など、現在アメリカが優位にある産業分野に中国が追いつくと宣言しています。このあたりから、アメリカの対中姿勢は明らかに変化してきました。

ピーター・ナバロ大統領補佐官と通商代表部のロバート・ライトハイザーは、「中国は米国の根本的な脅威であり、米経済への打撃という代償を払っても立ち向かう必要がある」と考えています。(参考記事

そのような考えに基づいて行われようとしている貿易戦争は、したがって、単なる経済合理性の問題ではないのです。

もちろん、関税引き上げはアメリカの企業や消費者にも影響を与えます。トランプ政権は中国の対米貿易黒字を問題視していますが、輸入される中国製品の中にはアメリカ企業が生産しているものも多く含まれます。

アメリカ企業だけではありません。ピーターソン国際経済研究所の報告によると、中国からアメリカへ輸出されるハイテク製品の87%(コンピューターや電子製品)から32%(化学製品)は、中国企業ではなく多国籍企業の生産物です。(参考記事

もちろん、その中には日本企業も含まれます。米中間の貿易戦争は、グローバルな供給網全体に影響を与えるという意味で、世界中の国々を巻き込むことになるでしょう。

今後、貿易戦争がどのような展開を見せるかは分かりません。ただ一つ言えるのは、これから中国が、日本に接近してくるだろうということ。アメリカとの「喧嘩」を続けるには、EUと日本を味方につける必要が出てくるからです。

フランスに対しては、以前揉めていた、エアバス製の航空機購入に前向きな姿勢を示したと報じられています(参考記事)。他にも中国は、欧州との協調路線を打ち出してくるでしょう。同じように日本にも、誘い水をかけてくると思います。

日本には財界を中心に、中国の「一帯一路」に食い込むべきだとする意見が多くあります。今後、中国市場からアメリカ企業が閉め出されることになれば、その分、シェアを拡大できると考える日本企業も増えてくることでしょう。しかし、中国向け投資をさらに増やすことが、長期的な日本の国益につながるかどうかは、冷静に判断すべき問題です。

日本の世論には、海外市場に打って出なければ生き残れないという強迫観念がいまなお根強くありますが、見ての通り、歴史の潮流は様変わりしている。国家が前面に出て、国際経済秩序を自国有利に作り変えようとする動きは(それが成功裡に終わるか失敗に終わるかにかかわらず)簡単に止まりそうにありません。

これから米中の貿易戦争がさらに激しくなれば、「アメリカにつくか中国につくか」という浅ましい論争がまたぞろ出てくることになるでしょう。しかし、トランプ政権に追随しようが中国市場に食い込もうが、海外進出のみに目を向けている限り、日本は大国の政策変更に振り回されるだけです。

混沌化する世界で、日本が独自の経済外交を貫くためにも、まずは国内経済の足場をしっかり固めることが不可欠なはずです。

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