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【鳥兜】「統一教会に恨みを持った人物による元総理暗殺」は何を意味するのか/政治改革の無残な失敗

啓文社(編集用)

啓文社(編集用)

本日は8/16日に発売された『表現者クライテリオン』2022年9月号より「巻頭コラム【鳥兜】」を公開します!

今号の特集テーマは「岸田文雄は、安倍晋三の思いを引き継げるのか?」。興味を持ちましたら、ぜひ本誌をお手に取ってお読みください。

「統一教会に恨みを持った人物による元総理暗殺」は何を意味するのか……

 統一教会に深刻な問題があることは誰もが理解できる話だ。だから、その統一教会に恨みを持つ人物がいたとしても、誰もが共感し得るものであるし、したがって良識と常識を持つ人々がその深刻な問題の改善・解消を希求することもまた事実だ。

 一方で宗教の自由なる概念はもちろん重要である。

 したがって我々は、統一教会の社会的問題と宗教の自由の問題の双方を見据えながら、統一教会問題を語らざるを得ない。

ただしその総合的な判断の基準=クライテリオンはどこにあるのかといえば、万人が所有するであろう(プラトンが描写した)理性が朧気に長期間にわたって安定的に共感しあえるコモンセンス=常識しかない。しかし、それがどこにあるのかについては個別具体的な状況において判断する他ない。したがって、以上のように定型的に語ったとしても結局は論者一人一人が「私はこう思う」と発言する他ない。

かくして本鳥兜著者は本件について次のように考える
──「現代日本の世間にはおぞましき腐敗が横行しており、したがって反世間的行為は全て否定されねばならぬとは全く思わないし、そういう世間の腐敗を糺すためにも宗教の自由が重要であるとしても、どうやら統一教会なる運動体はそういう誠実性以外のおぞましき俗情がその活動の重要な原動力となっているやに思われる。したがって統一教会はいかがなものかと重大な懐疑の念を持つべきであり、それによって深刻な不利益を被る者を『犠牲者』と呼称し救済することは必要である」。

 しかし、だからといってその「犠牲者」による安倍暗殺は法治国家の視点から正当化し得ない。

ただし、民主国家における内閣総理大臣経験者は、当該国家の万人の利益不利益を民主的に左右する政治的権力を所持していることから、日本国内のあらゆる人物から何らかの恨みを買ったとしても致し方ない存在でもある。とりわけ日本国内では哀しきかな、連日多様な犯罪が繰り返されている以上、安倍氏ほどの政治的影響力を持つ人物はいつ何時暗殺の対象となったとしても何も不思議ではない。

かくして本鳥兜著者は次のように考える
──「政治家の暗殺が起こったのなら法治国家として正規の手続きを経てその暗殺者を適切かつ徹底的に処罰せねばならない。ただし民主国家における重要政治家はいつ何時暗殺の対象となるか分からないとの緊張感は絶対必要だ。したがって、政治家暗殺リスクは常に警戒し徹底警護することが必須であり、かくして今回の暗殺は日本の平和ボケの哀しき帰結と言わざるを得ない。まさに国家の恥である。一方で政治家は宗教団体の関わりを含めたあらゆる政治的活動が国民一人一人の生命と財産、幸福に直結しており、したがって民主主義国家の政治家は落選リスクのみならず暗殺リスクに対しても緊張感を持たねばならぬ。政治は『ままごと』ではないのだ。本件はそうした緊張感と覚悟があらゆる政治家に必要であることを明らかにするものだった」。

 ──にも拘わらず各種論点のごく一部だけを取り上げ、特定の人物を神聖視するような輩が一部において横行しているようだ。しかしそれは馬鹿としか言いようがない。人間一人の精神の内にも多様な思いがある以上、夥しい人間が相まみえるこの社会には天文学的な数の思いがひしめいている。

我々の発言、実践においては、それらを可能な限り認識し、解釈し、その上で、我々の次の個別具体的な一歩を毅然かつ果敢に決然と踏み出し続ける他ないのである。

政治改革の無残な失敗……

 平成の政治改革は、選挙による政権交代を実現するという触れ込みで始まった。

昭和の終わり、リクルート事件などの汚職事件が多発したことで、自民党の長期単独政権は良くないと考えられるようになった。中選挙区制は派閥政治の温床になると目の敵にされ、代わりに政権交代のダイナミズムが起きやすい小選挙区制が導入された。政党間の競争が活発になれば、自民党に規律がもたらされるし、野党も「万年野党」の地位を脱して現実的な政策立案に身を入れるだろう。競争こそが社会に規律を与えるという新自由主義の政治版、それが平成の政治改革だった。

 結果はどうなったか。英国型の二大政党制は、日本では実現しなかった。

選挙による政権交代は二〇〇九年の一度だけ。失政続きの民主党政権に嫌気がさした有権者は、結局、「強い自民」の復活を望むようになった。二〇一二年の総選挙で、安倍晋三率いる自民党が歴史的な大勝を収めて以後、国政選挙のたびに自民党が多数の議席を確保・維持する構図が続いている。今回の参院選でも、自民党が議席を積み増し、公明党と併せて過半数を維持。岸田政権は向こう三年間の安定期間を楽々と手にすることになった。

 「強い自民」で良いなら、この間の政治改革に費やした膨大な時間はいったい何だったのか。しかも、状況は昔より確実に悪くなっている。中選挙区制の時代には、自民党内に派閥争いがあったおかげで、疑似的な政権交代も起きていた。今は違う。小泉政権期の刺客騒動以後、選挙の公認取り消しを恐れて、自民党員は政権の意向に表だって逆らわなくなった。野党は民主党の失敗で勢力を失うのみならず、「政策中心」のイデオロギーが徒となって、野党共闘さえできない状況にまで追い込まれている。立憲民主党と共産党では政策が違うのに選挙協力するのは野合ではないか、という批判をかわしきれなくなったのだ。

 新自由主義は、勝者をますます太らせ、敗者を破滅へと追い込む。経済の世界で起きていることが、今や政治の世界でも起きている。敗者となった民主党はその後、分裂を繰り返して凋落の一途を辿っている。この状況で野党が少しでも存在感を出そうとすると、与党でも野党でもない「ゆ党」というニッチを狙うか、既存の野党が言わないような極端な政策を掲げて有権者の新たな取り込みを図るしかない。日本維新の会が勢力を伸ばしたり、選挙のたびに諸派が現れては消えるのも、政治に新自由主義を導入したことの必然的な結果なのだ。

 これが平成の政治改革の帰結である。野党は自民党に対抗できる勢力を失い、自民党内部からは派閥争いによる政策競争が消えた。今や、与野党の緊張感ある論争も、自民党内部の疑似政権交代もない。かくして官邸主導のトップダウン政治のみが残ることになった。行政府たる政府が決めたことに、野党はおろか与党でさえ逆らえなくなっている。競争原理を導入すると称する改革が、政治の場から本来の競争を奪う結果になったのだから、なんとも皮肉な話である。

 平成改革後に出現した、この新たな体制をなんと名づけるべきかまだ分からない。ただ一つ言えるのは、政党政治の意義とはいったい何なのか、根本から問い直す必要があるということだ。本来、政策を考えるのは行政官の役目であって、政党の役目ではない。では、政党はいったい何のために存在するのか。代表制の本質とはいったい何なのか。日本の政治改革の失敗は、そうした政治哲学の不在に起因するところが大きいのではないか。

 

 

『表現者クライテリオン』2022年9月号 『岸田文雄は、安倍晋三の思いを引き継げるのか?』
https://the-criterion.jp/backnumber/104_202209/

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