今回は、以前公開した岡本先生と本誌編集長である藤井聡の対談の第2弾を特別公開いたします。
→前回の記事も読みたい方はこちらから
前回同様、歴史的観点から「抗中論」を展開しています。
今回の内容では前回の記事で出てきた「冊封体制」についてより深く触れていきます。
以下内容です。
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藤井聡(以下藤井)▼
いわゆる保守論壇、さらにはそれを中心としたいわゆる「ネトウヨ」と呼ばれる言論空間では、とにかく中国や韓国が「嫌い」だという嫌韓、嫌中の論調ばかりが横行しています。
岡本隆司(以下岡本)▼
ホント、それでこちらは商売あがったりです(笑)。
藤井▼なるほど(笑)。
その嫌中論調ですが、一気に加速したのはやはり安倍政権期。そしてそんな単なる表層的な気分やムードだけの論調が横行する中で、中国の実態がどんどん隠蔽されていきました。
最大の問題は、中国の本当の実力を過小評価している点。そもそもああいう嫌中ムードは、自分たちの自尊心をお手軽に保つために、「中国は崩壊する」だとかなんだとか言って、中国なんてたいしたことはない、やっぱり俺たちニホンジンは凄いんだってことにしたいという、陳腐な社会心理学的動機だけに基づくもの。そんな共同イメージで中国の真の実力が認識できなくなっているわけです。
ですが実態はもはや、あの大国アメリカですら抑え込もうにも抑え込めないと諦めかけるほどに中国は強大になっています。台湾を本気で取りにくるリスクは年々高まってますし、台湾の一部であると彼らが言って憚らない尖閣も取られるリスクが現実化しつつある。その中で、日本は世論に「尖閣くらいいいじゃないか」という気分すら漂いつつある体たらく。
歴史的に考えますと、前近代期に中国がアジアに確立させたいわゆる「冊封体制」から、日本が「日出処の天子」という書簡を聖徳太子から皇帝に出したところから、「独立」したとしばしば言われます。
その「独立」において日本は地政学的に日本海、さらに朝鮮半島という緩衝帯で中国から守られつつ、独自に発展し、近代になってから日清戦争、日露戦争、日中戦争に勝つことを通して東アジアにて日本が中国に代わって覇権を獲得していった。
ところが、尖閣がもし中国に取られるようなことがあると、東アジアにおける覇権国の地位が日本から中国に移ることになる。立場が逆転するわけです。これは我々の目には大変な異常事態に映る。
でもよくよく考えれば、それは意外と異常事態でも何でもないとも言える。そもそも産業革命以前の千年、二千年の歴史を見据えると、中国は世界のGDPの相当な割合を長期にわたって独占していた。日欧米が強く中国が弱かったのは産業革命以降のわずか二百年余りの期間だけで、長い歴史でいうと中国が強いというのはかなり安定的な状況だったのかなと。
岡本▼そうです、そうです。
藤井▼そんな中で日本はなんとかその大国中国の影響から逃れてきたのは、先にも指摘した地政学的な幸運があったからだと言えるわけですが、運輸通信技術が発展した今、そのラッキーな要因もなくなりつつある。 (中略)
岡本▼まず、日本の論壇、ないし意識の現状というのは、確かに嫌中、嫌韓ムードです。
ところが昔ですと、「中国好き」というか、日中友好があるべきだという考え方が、一般的でした。中国に対する好感度も、我々が子供の時代には、とても高かった。私もどちらかというと、中国にシンパシーを持ったような気分でたぶん、この業界に入ったような気がします。
藤井▼「パンダ外交」とか言われていた頃ですよね。
岡本▼はい。でもそれが数十年経つうちに、逆転してしまった。私自身は、世上の好き嫌いはどちらでもいいのですが、こんなふうにガラッと変わるのが、日本人の短絡的な中国観、中国に対する確乎たるスタンスを持っていないことの証左なのだろうと思いますし、その点がより重要です。
日本人の中国に対する意識、認識の甘く、そして浅いことが、そこにも表れてまして、そういう浅い認識で中国を論じているのが、一番気にかかるというか、非常に危ない、という危惧を持っています。(中略)
中国って毛沢東の文革の時代もそれ以前もそうですが、リアルタイムにはなかなか見えない国なんです。それが、情報技術の進展などで、かつてよりは幾分いろんな部分が見えるようになって、それを見て皆嫌いになり出したのですが、昔の「盲目的に中国が好き」な時よりは、マシな気はしています。つまり浅い認識で見えないまま、はあまり変わっていないんですが、なりふり構わず好きよりは、まだ嫌いで遠ざける方がマシかと。
ただ、いずれにしても「よくわからないまま」というのは、ご指摘のように憂慮すべき状況です。幾分情報が入るようになってきたとはいえ、やっぱり中国にはよくわからない部分がたくさん残っている。なのにわからないままに、いろいろなことを論じていること自体が非常に問題だと感じます。
岡本▼なぜ「わからない」のか、というあたりが、実はポイントで、そこにアプローチするのに歴史も少し役に立つかもしれない、と思います。もちろん歴史だけではわからない部分もありますが、歴史を知れば少しわかりやすくなったり、あるいはわからないことを自覚できると思います。
そんな前提で考えると、いくつか論点があります。一つは外交的なところで、尖閣の話とか、アメリカとかとの関係、おっしゃっていた「冊封体制」の論点。
とりわけいわゆる「冊封体制」は、一体どういうもので、日本はそれとどう関わったのか、あるいは今現在は、それがどうなっているのか。そうしたところがポイントになると思います。
一口に「冊封体制」といっても、人によって解釈が異なっています。最近の「中国が大国化」している中で国防的な観点から議論する方は、「冊封体制」というと、要するに中国が上に立ち、周りの国々を属国と見るというイメージで語ることが多い。
でも中国の方々に言わせれば、「冊封体制」はヨーロッパ的な植民地主義や従属化を伴って主権を奪うような、支配―被支配体制とは全然違って、もっと緩やかに各国の主権を尊重するような理想的な体制なんだという議論も一方であるんですね。
「冊封体制」は中国にもともとあった儒教的な考えに則っているものです。儒教的にいうと、人と人の関係も、集団同士の関係、国と国との関係も皆、要するに、結局は上下関係なんですね。我々ですと、「人類皆平等」とか「基本的人権を誰もが持っている」と思うんですが、これはとても西洋的な考え方です。よく考えてみると、「平等」な関係や全く対等な関係なんて現実にはありえない。
我々の人間関係だって必ず上下関係を設定するところから始めて、相手と関係を円滑にしようと思うと、必ず相手を持ち上げて自分はへりくだる。組織の中でも上司と部下がいて、普通の家族においても父親がいて子供がいて、というのがごく普通で、上下関係で成り立っている。
でも議論するとか、学問的に考えると、平等とか対等ということになって。それは西洋的なキリスト教の「神の前の平等」というところから始まっているもので、それは非常に西洋的な考え方。でも儒教は神の存在を認めない考え方で、人間関係のリアルなところから始まりますから、上下関係を設定する。
そうすると、国際関係というものも、大きいところが上に立って、小さいところが下に付く。でもそういう上下関係というのは、上のものがしたいようにすれば関係が破綻するので、上のものは、上に立つだけの節度があって、下の方は下で分をわきまえて、というのが理想的な形です。そういうところから「冊封体制」というのも始まっていて、下の方は上をちゃんとリスペクトする、上の方は下の方をきちんとかわいがるというのが、理想的なフィクションで、そこから成り立っているわけです。
ただ、理想だけ語ればそうではありますが、現実はなかなか理想通りいかないので、現代的な大国の横暴みたいなのが出てくるわけです。
とはいえ、その関係は本来的に儀礼的なもので、「儀礼」とはそもそも単なる形式です。我々も頭を下げて形式的に謝ったりしても、本心から悪いと思っている場合はあまりなかったりする(笑)。…(続く)
(『表現者クライテリオン』2021年3月号より)
続きは『表現者クライテリオン』にて
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『表現者クライテリオン』2020年3月号
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