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【鈴木傾城】”自粛強要”で経済を壊すなー緊急事態に陥る”社会の底辺”

鈴木傾城

鈴木傾城

コメント : 1件

緊急事態宣言,自粛,経済

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2021年3月号の特集は「抗中論」に加え、「コロナが導く社会崩壊」

今回はそのコロナが導く社会崩壊特集に掲載されている鈴木傾城先生の記事を一部特別公開します。

以下が内容です。

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社会の底辺は、コロナ禍における情勢の悪化で打ちのめされている。(中略)

ネットカフェが消えた

 二〇二〇年三月はコロナが全国に広がり始め、非正規雇用者の雇い止めが目立つようになっていた。私は何人かのネットカフェ難民の人たちが「最近、仕事がまったく決まらない」と話をするのを聞いており、底辺がひどい状況になってしまっていることを確認していた。

 緊急事態宣言の後、彼らはそのネットカフェすらも追い出されていた。今はもう、 この時の彼らはひとりもいない。そして、 その頃に私が取材していた劇場通りのあるネットカフェも、緊急事態宣言の中で経営が悪化して潰れて建物はもぬけの殻になっていた。

 新しいテナントはまだ決まっていないので、今もそこは寒々しい空間になっている。 日本を代表する歓楽街である新宿・歌舞伎町なのに、次のテナントが決まらない店舗が空っぽのまま放置されているのだ。かつては満員電車並みの混雑ぶりだった歌舞伎町だが、人通りもまばらとなっている。

 年末のかき入れ時もコロナ感染拡大が重なって、ほぼすべての店の売上は悲惨なことになっているはずだ。こんな状況の中で「飲食店での酒類の提供は午後七時までとし、 閉店時間を午後八時とする」などが要請されているのだから、 店はやっていけるはずがない。 すでに実体経済はめちゃくちゃに傷ついている。

緊急事態宣言の傷痕

 日本政府は二〇二〇年四月七日に緊急事態宣言という「過剰な自粛強制」を出して、これを五月三十一日まで続けた。その結果どうなったのかを、私たちはよく知っておく必要がある。              

 二〇二〇年四月から六月までの実質成長率・全産業設備投資・全産業営業利益を見れば、緊急事態宣言が経済に与えた「傷痕」がどうだったのかをまざまざと見ることができる。

実質成長率: 前期比マイナス二七・八%
全産業設備投資: 前期比マイナス一〇・四%
全産業営業利益: 前期比マイナス六四・八%

緊急事態宣言の中で、日本企業全体で営業利益の三分の二が吹き飛んだ。それは、まさに「強度の経済ショック」であったとも言える。通常、株価は企業の決算や成長率に収斂していくので、日本の株式市場もコロナショックから戻らず、本当は今も低迷していておかしくなかった。

 しかしながら、株式市場は空前の高値圏となっている。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)だけでなく、日銀までもが上場投資信託(ETF)を四五兆円超規模で買い上げて、死に物狂いで株価を買い支えているからだ。いまや株式市場全体の時価総額の七%は日銀が保有するほどになっている。

 さらに政府は中小企業を救うために、「金融機関による返済猶予等の条件変更対応」「不渡り報告や銀行取引停止処 分も猶予対応」「持続化給付金の支給」「民間金融機関による実質無利子・無担保での融資」「企業の資金繰り支援の総枠を七五兆円から一一〇兆円規模に拡大」「家賃支援給付金」……等々、多くの支援策を打ち出して、何とか中小企業の大量死を防ごうと尽力した。

 これを見ると、日本経済は緊急事態宣言の中で「何となく」生きながらえたのではなく、政府と日銀が死にもの狂いで経済の崩壊を防いだというのが分かる。もし政府や日銀の買い支えがなければ「大恐慌」になっていたと断言できる。

 二〇二〇年の四月から五月に行われた緊急事態宣言は、私たちが想像している以上に経済に甚大な傷痕を与えていたのだ。

財政健全化を唱えている場合か

 二〇二〇年の十一月に政府が外国人の入国緩和をするよ うになってからコロナの新規感染者数は再び増え始め、ここから強硬に「自粛」や「緊急事態宣言の発令」を主張する人の声が強くなった。東京・埼玉・千葉・神奈川の一都三県の知事もそうだ。彼らは政府に対して緊急事態宣言の発令を要請し、これを受けて政府は二〇二一年一月八日からの再発令に舵を切った。

 しかし、今回は政府や日銀が前回と同じような徹底的な経済支援ができるのかどうかは分からない。

 政府の経済対策のための財源確保で、新規国債発行額が膨張していることに懸念を示す官僚も多い。さらに日銀がETFを莫大に買って買い支えをしていることに激しい批判もある。「日本政府はもっと財政赤字を拡大すべき」というMMT(現代貨幣理論)は主流ではなく、財政健全化を求める声は依然として大きい。

 このような中では、緊急事態宣言が発令されるたびに政 府や日銀が経済支援を行うとしても、その対応には限界がある。

 つまり、再度の「最大限の自粛」や「不用意な緊急事態宣言」では、二〇二〇年の時のような断固とした対応が取れない可能性もある。そうなれば、薄氷の上を歩いている日本経済は一気に大崩壊していく。

 そもそも人の流れが制限されて実体経済がボロボロになっている中では、いくら企業に金を流し込んでも「コロナ禍では利益が出せない」のだから再び危機に陥るのは誰でも予測できる事態でもある。

休廃業は増えている

 緊急事態宣言を出さなくても、自粛ムードの中ですでに多くの企業は傷ついている。

 二〇二〇年十二月、東京商工リサーチは企業の倒産件数が「前年同月比二二%減だった」と報告した。これで「実態は悪くないのではないか?」と勘違いする人も多いのだが、現実は「政府や銀行の金融支援で倒産が抑えられている」だけである。

 それよりも、二〇二〇年の一月から十月に全国で休廃業・解散した企業は四万三八〇二件もあって、前年同期比   二一・五%増、二〇〇〇年の調査開始以降で最多だったという方に着目しなければならない。

 経営者はコロナ禍の中で、「倒産」ではなく「休廃業・解散」を選んだのだ。

 「事業を止めたくない。粘れるだけ粘りたい」というマインドの中で力尽きて倒産するのではなく、「もう事業なんか継続したくない。どうせ無駄だ」という絶望やあきらめ のマインドがあって事業を止めてしまっている。

(中略)

そして自殺が増えた

 そもそも、特別定額給付金一〇万円は十分だったのか。   いや、まったく足りなかった。東京都の最低賃金は約 一〇〇〇円なので、これで計算すると「一〇〇〇円×八時間×二〇日」で一カ月一六万円が最低賃金であることが分かる。

 一六万円でギリギリの生活をしていたのに、給付金は一〇万円でしかなかった。しかも緊急事態宣言は約二カ月だったが給付は一回だけだった。本来は「一六万円の二カ月分」で三二万円が必要だったので、まったく足りない。

それでどうなったのか。

 二〇二〇年七月から失業率の悪化も重なって、いよいよ   自殺者数が前年同月比で増加に転じ始めたのだ。七月末時 点で休業していた女性の比率は男性の三・九倍だった。七   月は女性の自殺が前年同月比で一六%も増えていた。八月 は男女合わせて自殺者が四〇%増加、九月は二八%増加、 十月も四〇%増加……となってひどい状況になっている。    

(中略)

コロナ収束が生活再生ではない

日本経済だけでなく、底辺で苦境に落ちている人たちも、これ以上の自粛強要や緊急事態宣言に耐えられるようには見えない。そうであれば、本来は「ワクチン接種が広まるまで、必要最小限の自粛で国民と経済の両方を守る」しかないことが分かる。

 自粛に力点を置くのではなく、コロナ弱者(高齢者・基礎疾患者・妊婦)を守りつつ、経済をできるだけ正常化させ続 けるのが政治の力ではないのか?

 どうしても国民に自粛を要請するにしても、「八十代以 上は、ステイホームを徹底する」「七十代やコロナ弱者は、なるべくステイホームをする」「六十代は、出かける時は強めの防護を心がける」「五十代以下の年代は、通常の日常生活をして構わない」等々の、きめ細かい要請を行う必要がある。

 その上で、五十代以下の年代には「マスク・手洗いを徹 底する」「なるべく集まらない・なるべく近寄らない・なるべく密閉された空間を避ける」を徹底させ、医療崩壊リスクを見据えながら段階的に行動制限を厳しくかけたり緩和したりするのが「きめ細かい対応」である。

 十把一絡げの全国民への自粛要請ではなく、「ワクチン接種が広まるまで、きめ細かい自粛で国民と経済の両方を守る」しか道はない。一方的で全体的な「荒っぽい自粛」では日本社会の傷口は広がる一方である。いったん廃業してしまった…(続く)

(『表現者クライテリオン』2021年3月号より)

 

続きは『表現者クライテリオン』にて

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コメント

  1. 大和魂 より:

    わたくしは直面しているコロナ禍についての実感が、実は二通りあって一つ目は、鈴木先生の心境と同じで広範囲な取り組みで共同体を維持しつつ、これからに備えること。

    二つ目が、亡くなられた西部邁先生が口酸っぱくおっしゃられていた、単なる人民如きの平和ボケに堕落した国民の覚醒についての切望ですが、現実的には大変厳しい状況にあると捉えているところです。

    そして先生が前半部分で述べられていた政府関係者による中小企業の緊急支援政策は、実はレトリックが存在していると考えていて、恐らくは広域一元化条例とセットで進められていると解釈しており背後の国際金融都市計画の一環だと捉えているところです。

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