今回は『表現者クライテリオン』2021年9月号の掲載されている対談を特別に一部公開いたします。
公開するのは、前回に引き続き「日本人の死生観を問う」特集掲載、
森田洋之先生×本誌編集長 藤井聡の対談です。
〇前回記事も読む
以下内容です。
興味がありましたら、ぜひ『表現者クライテリオン』2021年9月号を手に取ってみてください。
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藤井聡(以下藤井)▼
でも、医者たちのカネ儲け主義が死生観を歪めているっていう話がありましたが、そもそも医術は「仁術」なんですから、それでカネ儲けしようと考えるのは本来なら許されてはいけない話ですよね。
そうなのに現代は─もちろん例外はあるんでしょうけど─
口ではなんだかんだ言いながら、腹の中ではお金儲けのために姑息に医療基準を歪める風潮が医療業界を席巻しているわけですね。
森田洋之(以下森田)▼
そうです。これも、また医者の世間知らずなところが結構影響してるんですよ。
多くの医者が開業するんですが、そんな時、さっきも申し上げましたが、二、三億円借金して開業するのが当たり前なんですよ。
藤井▼なるほど、そこでルビコン川を渡ってしまうんですね(笑)。
森田▼そうです。で、なんでそうなるのかっていうと、そうさせるコンサルがいるんです。
コンサルタント業者はその開業にかかった資金全体の何パーセントを受け取るんですよ。だから業者は必死になってできるだけでかい借金をするように仕向ける。
で、開業する医者の方は、世間知らずが多いので、それに乗っかるわけです。
でも、別に何億もかけなくても開業なんてできるんです。例えば僕の開業資金は七万円です(笑)。
申請を自分でやるのはもちろん面倒ではありましたけど、自分でやろうと思えばできるんです。
藤井▼なるほど。
それでもやっぱり、多くのお医者さんが、超高額なコンサルに依頼して何億もかけて開業するのは、動くキャッシュがでかいから、なんですよね。
そもそも、患者という「客」が払う金の三倍以上のカネが医者という「ビジネスマン」の懐に入るのが、医療ビジネスですから。
なんといっても、医療費の患者負担は三割で、残りの七割は政府が払うわけですから。
森田▼そうです。しかも、高齢者の場合は政府負担は九割です。
藤井▼だから高齢者の場合は、客が払う十倍のカネが医者の懐に入るわけですよね。
しかも、病院に来る人の大半が高齢者。そりゃ医療ビジネスは儲かりますよね。
逆にいうと、患者は安いから気安く病院に行く。自己負担がもっと少ない高齢者ならもっと病院に行く。
その上、日本にはゼロリスクを目指す風潮もあるし、ちょっと風邪引いたら病院に行くような風潮もある。
森田▼しかも、病院に行っていれば世間体はいいわけです。
パチンコ行くより病院行った方が、世間体がいいから行っちゃうんですね。
藤井▼つまり日本の医療界で上手く立ち回れば体裁良く大儲けできる社会的構造が厳然と存在しているわけですね。
森田▼でも本来は医療はビジネスにはならないはずなんです。
純然たる民間ビジネスだったら、つまり、患者の十割負担だったら、もうほとんど患者は来ないです。
藤井▼もちろん、国民皆保険のメリットがあることは間違いないと思いますが。
森田▼それはもちろんそうです、メリットはめちゃめちゃあると思いますよ。僕は、国民皆保険に反対じゃないです。
藤井▼それこそアメリカじゃ、盲腸の手術に一〇〇万円も二〇〇万円もかかってしまう、だから、手術を受けられなくて盲腸で死ぬ人が出てくる、っていう状況なわけで、それがないっていうのは、日本の国民皆保険の素晴らしいところですよね。
だけど、国民皆保険の「デメリット」が今、深刻なものになってしまってるってことを我々は見過ごし過ぎたんでしょうね。
結果、国民皆保険のせいで、
「カネ儲けのために健康な国民を病院のベッドに送り続けるような犯罪者紛いの腐りきったマインド」
が医療界で蔓延ってしまっている、っていう真実が世間に全く認識されてない。
森田▼そうです。そもそも僕はもう医療費はただでいいと思ってるんです。
もう〇割負担。ただしその代わり、医者たちがちゃんと損得勘定抜きで医療を提供するようにする。
そうすれば無理矢理病院の患者を増やそうなんて誰も考えなくなる。
藤井▼そのためには今、医師の報酬は「出来高制」、つまり「歩合制」になってるわけですけど、そうじゃなくて「固定給制度」にしなきゃいけないんでしょうね。
そもそも普通の公務員の方って皆固定給なんですから。
しかもそもそも医者の給料の大半、つまりその七から九割は政府支出なんですから、彼らは七から九割方は「公務員」だと見なすべきなんですよ。
森田▼そうですね。定義上、ほぼ公務員です。
藤井▼そしたら公務員っていうのは、歩合制じゃないんだから、例えば学校の先生のように固定給にすればいいんですよね。
森田▼それでいいんですよ。アメリカや韓国など一部の国は歩合制を取り入れていますが、イギリスもフランスも、ヨーロッパはみんな基本は固定給なんですよ。
藤井▼あ、そうなんですか!?
森田▼日本は歩合でやってるから、医者たちは結局、患者を増やすことしか考えないようになっていくんですよ。
藤井▼口ではもちろん患者様のために、なんて言うでしょうし、心の中でも表層ではそう思ってることはあるでしょうけど、腹の底では結局、カネ儲けのことをメッチャ考えてるわけですよね。
さもなければ、無理矢理患者を増やして病院が常にいっぱいだなんてことは絶対に起こらないんですから。
ちなみに、こういう批判をしているお医者様って、森田先生以外におられるんでしょうか?
森田▼いやぁ、見たことないですねぇ……。
藤井▼やっぱりそうなんですね……。
以前一度、まさにその問題を本の中で指摘したことがあるんです。
「過剰医療を避けるべきだ」、
「診療頻度を引き下げられる限り引き下げるべきだ」
って書いたら、医師たちから猛烈な抗議が来たことがあるんです。
俺たちはそんなことは絶対にしていない、私たちの医療は適正な医療行為なんだ、っていう主張でした。
森田▼その抗議は不当ですね。
例えばイギリスもドイツもフランスも、血圧の薬はみんな箱入りで出すんですよ。
こんな袋じゃなくて、もう百粒単位の箱でドーンと渡す。それが当たり前なんですよ。
だって血圧なんて、そんな変わらないんだもん。どうせずーっと、十年も二十年も飲むんでしょ。それでいいんです。
藤井▼聞けば聞くほど酷い話ですが……。
結局それも、逆にいうと、日本人の死生観がそれなりに常識的、伝統的なものがしっかり残っていたら、そういう医師たちにおけるカネ儲け主義の暴走にも一定の歯止めがきくってことはあり得るんでしょうか。
森田▼それは現実的には難しいように思います。
繰り返しますが、鹿児島だって川辺以外は酷い状況になってるわけですから。
だからやっぱり、医療のビジネス化っていうのは、やっちゃいけないわけです。
教育と同じで医療も市場原理じゃなくて、パブリックな仕事として位置づけなきゃだめです。
藤井▼それこそ売春が禁止されてるように、値段を付けて売りさばくようなマネをしちゃイカンものってのがあって、その典型の一つが医療だ、ってことですよね。
美容関係とかの生命に直接関わるものでないものについてはビジネスでもよいかもしれませんが、基本はやっぱり医者はちゃんと公務員化すべきってことですね。
森田▼そうですよ。それが世界標準なんですよ…(続く)
(『表現者クライテリオン』2021年9月号より)
続きは『表現者クライテリオン』2021年9月号にて
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『表現者クライテリオン』2021年9月号
「日本人の死生観を問う」
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