藤本 龍児 著 『「ポスト・アメリカニズム」の世紀 転換期のキリスト教文明』 筑摩書房/2021年5月刊 の書評です。
書評者:田中孝太郎
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この書評は『表現者クライテリオン』2021年9月号に掲載されています。
『表現者クライテリオン』では、毎号、様々な特集や連載を掲載しています。
ご興味ありましたら、ぜひ本誌を手に取ってみてください。
以下内容です。
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一般に、近代社会では宗教は衰退すると考えられている。
合理的・科学的な思考が広まるにつれ、人知を超えた存在や現象は疑われるようになるからだ。いわゆる「世俗化」である。
しかし、「近代化=宗教の衰退=世俗化」という図式は正しいのか。現代社会の底流には、宗教的精神が横たわっているのではないか。
このような問題意識のもと、本書では宗教的な観点から「世俗化」について問い直していく。
著者が特に注目するのは「アメリカニズム」である。
アメリカニズムとは、現象面から言えば、大量生産と大量消費を可能にする産業構造と、それを機能させるデモクラシーの結合だと言える。
だがより深い次元では、キリスト教の精神を土台としている。
植民地時代のアメリカは、「明白な天命」という宗教的使命感のもと、キリスト教文明の先導者たらんとした。人も歴史も文明も新たに創ることができるという、キリスト教的創造論が背後にあったのである。
アメリカニズムの本質を深く考察した思想家として、著者はハイデガーを取り上げる。
ハイデガーは、現代を「魔術化」の時代と見る。
「魔術」とは、言い換えれば「技術」のことである。技術はあらゆる存在を「役立つもの」に仕立て上げるが、このとき存在の固有性は失われる。
人間も例外ではない。何らかの目的に「役立つ」存在になるよう常にかり立てられる。
ハイデガーはこうした事態を「総かり立て体制」と呼ぶ。その極北に位置するものこそアメリカニズムである。
恐ろしいことに、総かり立て体制は生産活動や「モノ」の消費のみならず、目的とは無縁に見える「体験」=「コト消費」をも飲み込むという。
ハイデガーは具体例として映画や旅行などを挙げているが、これらは総かり立て体制からの脱却を意味するものではない。
それどころか、「騒がしい体験への酩酊の内にこそ」ニヒリズムが宿るのである。
トランプ現象について考察した後半部も興味深い。二〇一六年のトランプ勝利の背景には、経済格差やグローバル化への反発だけでなく、「文化戦争」が大きく関わっているという。
多文化主義や「ポリコレ」といったリベラルな価値観の進展に懐疑的な宗教保守層の支持を、トランプは取り込んだ。
トランプ現象は一時的な反動などではなく、文化や宗教に関わる根深い対立に端を発しているのである。
この対立を和らげる方策はあるのか。
著者は「公共宗教」の再編に期待を寄せる。それは特定の宗教とは異なる、人々のアイデンティティの拠りどころとなりうる価値体系のことである。
これまで見過ごされてきた儀礼や慣習などの中に、多様な文化を包摂し、人々の連帯を促す力を見出す試みとも言える。
それはまた、総かり立て体制からはみ出たものをすくい取る契機ともなる。
分断や対立を解消する第一歩は、「かり立てられる」日々への違和感を正面から受け止め、落ち着きを取り戻すことから始まるのではないだろうか。そんなことを考えさせてくれる良書である。
(『表現者クライテリオン』2021年9月号より)
他の連載は『表現者クライテリオン』2021年9号にて
本誌はその他、人と社会のあらゆる問題を様々なテーマに沿ってお届け。
毎回読み応え抜群です!
『表現者クライテリオン』2021年9月号
「日本人の死生観を問う」
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