【書評】『第三の精神医学 人間学が癒やす身体・魂・霊』ー篠崎奏平

篠崎奏平

篠崎奏平

濱田 秀伯 著 『第三の精神医学 人間学が癒やす身体・魂・霊』 講談社/2021年6月刊 の書評です。

書評者:篠崎奏平

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この書評は『表現者クライテリオン』2021年9月号に掲載されています。

 

表現者クライテリオン』では、毎号、様々な特集や連載を掲載しています。

ご興味ありましたら、ぜひ本誌を手に取ってみてください。

以下内容です。

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人間は霊によって統合されている

精神病とは何か。

これまで様々な精神科医によってこの問いを巡る議論が展開され、数多の治療法が提唱されてきた。

本書ではまず二つの潮流が紹介されている。

一つは精神病によって発症する身体的症状に着目しつつ、薬物療法などを通じて治療を試みる身体療法である。
対するはフロイトに代表される精神分析的治療法であり、これは精神病患者の心理の働きに焦点を当て、カウンセリングや行動療法に重きを置く。

 実際に臨床に立ってきた著者によれば、この二つの療法だけでは限界があるのだという。

精神病とは、根本的にいえば、身体と心(=魂)を統合するモノのレベルで生じる病気だからである

この統合するモノが、本書における「霊」に他ならない。身体や心が個人の一部である一方、霊はそうではない。

霊とは、世俗的存在者の支配する水平軸の世界を超越した存在(=神)との繋がりのことを指すのであり、超越者による垂直軸の愛(=アガペー)を受容することを抜きに心身の統合は果たせないのだという。

数々の哲学が心身を統合する存在が何であるかを明かしえなかったのは、彼らが存在者の中にそれを見出そうとしていたからだということになるだろう。

 人間は世俗的世界において生きるための様々な能力や機能を備えており、普段それらは霊によって統合されている。

精神病が発症すると、各機能は統合から脱落し、断片化していく。脱落した機能の一部は不全を起こし、他の機能がそれを補うようにして過剰な生産行動を取り始める。

これが精神病であり、他者を信頼する能力の不全を起こした患者が、しばしば自分にとって都合の良い妄想を生産するのはそのためである。

精神病を巡る霊的問題

 濱田は薬物療法や行動療法に異論を唱えているわけではない。精神病によって身体機能が異常を起こしたならば、適切な薬物療法を施すべきであることは明らかだ。

霊性のレベルでの問題が著しい場合、並行してスピリチュアル・ケアを導入すべきだというのが本書の指針である。スピリチュアル・ケアの内容に関しては様々な方法が紹介されているが、そのほとんどはキリスト教と密接な関係にある。

西欧ほどにはキリスト教の根付かない日本において親しみやすいのは森田療法であろう。森田療法は患者を世俗から隔離し、排泄や食事などの生命維持に必要不可欠な行動以外を抑制させることによってその治療を開始する。患者はあらゆる生産行動が制限された状態で、それにしても私を私として統合せしめる存在を受容するに至るのである。

 人間は他の動植物のように高度に特殊化した器官を持たないために、環境世界とは異なった世界(=Welt)を持つ。その領域との繋がりを支えるものが霊なのである。

人間が霊的な存在である限り、人は永遠に精神病と付き合い続けることになるのだろう。
人間はある種の聖なるものと関わり続けない限り、生きてはいけないのである

果たして現代にあって人は聖性を見出しうるだろうか。

この問いが現代を生きる我々に鋭く突きつけられていることを忘れてはならない。

(『表現者クライテリオン』2021年9月号より)

 

 

他の連載は表現者クライテリオン2021年9号にて

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『表現者クライテリオン』2021年9月号
「日本人の死生観を問う」
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