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【書評】『日本的思考の原型 民俗学の視角』ー篠崎奏平

From 篠崎奏平 

高取 正男 著 『日本的思考の原型 民俗学の視角』 筑摩書房/2021年7月刊 の書評です。

書評者:篠崎奏平

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この書評は『表現者クライテリオン』2021年11月号に掲載されています。

以下内容です。

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日本人の主体性

 民族学とは言うまでもなく民族に固有な歴史を取り扱う学問である。

しかしその実、民族学を駆動する問いは、現在を生きる人間自身の内に見出されたものに他ならない。

和服を棄却して洋装に身を包み、それでいて西洋人ではない我々とは一体何者であるのか。

こうした問いに向きあうならば、我々の内に残存するであろう日本的精神に目を向けざるを得なくなる。

普段は自らをグローバル・スタンダードな現代的個人であると信じてやまない我々の内から、時折ふと顔を出す日本民族に固有な精神・行動の出自を見定めること。本書の主題はそこにかけられている。

 過去、日本人は自分たちが西洋的な主体性を持たないことを恥と考えた。

確かに家の中で鍵のかかった自室を持つことに強いこだわりを持たない日本人は、希薄な自我・主体性しか持ち合わせていないように思われなくはない。

しかし実際には、日本人の主体性は西洋のそれと異なった性質のものであったに過ぎない。西洋人と違って自分専用の箸やコップを所有してこだわる日本人は、自分の帰属する領域全体を自らと捉えて生きようとする固有な主体性を持つのである。

 こうした主体性のもとに生きていれば、西洋とは異なった生き方も生じてくるというものだろう。

ことよせの論理とは何か

集合的な主体としてあった多くの村では寄合によって大事な決め事を決定していた

この独特な形態の会議では、参加する各々がそれぞれ議題を持ち寄り、何日もかけて話し合われたのだという。

度々話は脱線し、昔話などに花を咲かせながら、簡単なことを決める際にも数日が費やされた。議論に参加するのが苦手な人であっても、昔話を共有することで、村の全員で議論し決めたことであるという実感を村員全員が抱けるようなシステムが出来上がっていた。話題自体は自然の流れるままに任せておき、適当な頃合いを見て長が手を打ち、決定するのである。

本書に登場する証言によれば、昔はこの方法でどんなに難解な議論でも、自然に答えへとたどり着くことができたそうである。

このように集合的な主体が自らを支える自然へと身を寄せ、解体しないように生きていく作法を、高取は「ことよせ」の論理と呼ぶ。

 ある時、日本は近代化を使命として自らに課した。

人間理性によって結論を導き出そうとする西洋的な主体性が近代的善とされ、ことによせて結論が発生してくるのを待つ主体性は前近代的悪として退けられるような風潮が形成される。

「決められない政治」という文句のもとに小選挙区制が採用されたことはいまだ記憶に新しい。今に至るまで、ことよせの理論はその悪しき面ばかりが強調され、解体されてきたのである。

 現在を生きる我々が、ことによせる生き方を完璧に取り戻すことは不可能に等しい。この状況における処方箋を高取自身が提示しているわけではない。

しかしながら、今の我々が、日本人として育て上げてきた生き方や作法を解体し尽くしてきた上に立っているという事実は自覚されなければならないのだろう。

(『表現者クライテリオン』2021年11月号より)

 

 

 

他の連載は『表現者クライテリオン』2021年11月号にて

『表現者クライテリオン』2021年11月号
「日本人の「強さ」とは何か
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