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【続・特別寄稿】所功 帝王学の真髄

啓文社(編集用)

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表現者クライテリオンメールマガジン読者の皆様、こんにちは。

先日発売された表現者クライテリオン最新号。

そこでは所功先生の皇室にまつわる極めて重要な論考を”特別寄稿”として掲載しております。

この特別寄稿「帝王学の真髄」は、クライテリオン編集長はじめ、編集部一同として是非、より多くの方に読んでいただきたいものです。

今回は所先生ご承諾のもと、全文公開いたします!(本日は後半部分を)

是非ご一読ください!

 

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帝王学の真髄

『誡太子書』に学ぶ

所 功

(前回の続き)<『誡太子書』の書き下し通釈の続き>
 (5)今の時は、いまだ大乱になっていないけれども、乱の勢いが萌してからすでに久しい。一朝一夕に進んだことではない。ゆえに聖主が位に居られるなら、無為にして治まるであろう。また賢主がいつも国政に当るならば、乱はないであろう。ところが、もし君主か賢聖でなければ、恐らく乱が数年後に起きるであろう。そして一たん乱に及べば、たとえ賢哲の英主であっても、朞月(一ヶ月ほど)で治まるはずがなく、必ず数年を待たねばならない。いわんや庸主がこのような時運に当れば、国が日々衰え政も日々乱れて、勢い必ず士崩瓦解に至るであろう。愚かな人々は、時の変化に思い至らず、昔年の泰平に慣れて今日の衰乱を計ろうとしているが、甚だ謬った考えなのだ。
 近代の君主は、いまだこのような時期に際会しておられないが、恐らく太子が登極(即位)されるころ、この衰乱の時運に当たるであろう。だから、内に哲明の叡聡(明快な英知)があり、外に通方の神策(有効な政策)があるのでなければ、乱世の国に立つことができない。それゆえに自分は強く学問することを勧めているのだ。今時の庸人は、いまだこの機運を知らない。どうか神襟(太子の叡慮)を、このような弊風の世に廻らせられたい。
 (6)詩経・書経や礼楽によらなければ、世を治めることができない。それゆえ、寸陰を惜しみ、夜も昼も続けてよろしく研精されなければならない。たとえ学問が諸子百家に渉り、口で六藝(士大夫が修行すべき学芸の礼儀・奏楽・弓射・駅馬・書道・算学)を読誦しても、儒教の奥旨を習得することはできない。いわんや学問を深く究めない凡庸な者が国家を治める方策を求めるのは、蚊や虻が遠く千里も飛ぼうと思ったり、鷦鷯が高く九天に登ろうと望むよりも愚かなことだ。
 それゆえに、思って学び、学んで思う(『論語』には「学びて思はざれば則ち罔し。思ひて学ばざれば則ち殆ふし」)という儒教の経書に精通して、日々吾が身を省みるならば、学の本旨を得ることができるであろう。
 およそ学問の要諦は、周ねき物の智を備え、未だ萌さない先を知り、天命の終始(すべて)に達し、時運の窮通(困窮と栄達)を弁え、古の在り方を稽えて、先代の廃興した迹をよく考えれば窮り無いものである。あの諸子百家の名文を諳誦し、巧みに詩賦を作り、よく議論をするようなことは、多くの官僚などに掌るところである。君王たる者は、自らこれを労する必要がない。
 それゆえ、寛平聖主(宇多天皇)の御遺誡にも、「天子、雑文に入りて日を消すべからず云々」とある。近ごろ愚かで凡庸な儒者が学ぶ所は、いたずらに仁義の名だけ守り、いまだ儒教の本質を知らない。労するばかりで功が無い。司馬遷が『史記』列伝の太史公自序で「儒者は博くして要寡く労して功少し。これをもってその事尽くは従ひ難し」というとおりである。
 (7)また近ごろ、一群の学徒が、僅かに聖人の一言を聞いて、自ら程々の説や、仏老(仏教と老子の教え)の詞を借りて、みだりに折中の義を立て、湛然★寂の(そらぞらしい)理を以て儒教の本質となすが、何ら仁義忠孝の道を知らない。法度に協わないし、礼儀も弁えていない。無欲清浄ということは取るべきものであるが、ただこれは老荘(老子・荘子)の道であって、孔孟(孔子・孟子)の教えではない。これは並びに儒教の本質を知らないもので、取るべきではない。
 たとえ学問の道に入っても、なおこのような失が多い。深く自らこれを慎み、よろしく益友(正直で誠実な見識の高い友人)をえて切磋(勉め励むこと)されるべきだ。学ぶこと自体に誤りがあれば、道(正しい道理)から遠くなってしまう。いわんや他の事においてをや。深く誡めて必ずこれを防がなければならない。
 しかるに、近ごろ(太子が)少人(徳の少い人)から習い染まっている所は、ただ俗事のみにとらわれており、性は相近くみえるが、本質の習得には遠い。たとえ生来の徳を備えていても、なお陶染(良くない考えがしみこむこと)を恐れる。いわんや上智(すぐれた知恵)に及ぶことはできない。徳を立て学を成すの道には、かつて由る所がない。ああ悲しいことだ。これでは先皇の緒業(先帝たちの始めた事業)も、この時にたちまち墜ちてしまうであろう。
 (8)自分は性拙く智が浅い。けれども、あらあら典籍を学び、徳義を成し、王道を興そうと思うのは、ひたすら宗廟(祖霊を祀る所)の祭祀を絶やしてはならないからである。その宗廟祭祀を絶やさないためには、よろしく太子の徳があることに懸っている。しかるに今(太子が)徳を疎かにして修めなければ、学ぶ所の道も、一たん溝壑(谷間)に填めて、また用の立たないようにしてしまう。これにより、胸を撃たれて哭泣し、天に叫んで大息(慨嘆)せざるをえない。五刑の属(笞・杖・徒・流・死のような重罪)がさまざまあるけれども、不孝の罪より大きいものはない。不孝の最も甚しいのは、祖先祭祀を途絶えさせることだと、畏れ慎まなければならない。
 もし学功が立ち、徳義が成るならば、ただに帝業を今の世で盛んにするだけでなく、また美名を来世に残し上は大孝を代々の先祖に致し、下は厚徳を多くの人々に与えることになろう。そうなれば、高くして危くなく、満ちて溢れないから、楽しいではないか。一時的に屈(行き詰まり)を受けても、長期的に栄(名誉)を保つことができるならば、そのような屈も受け入れることができる。
 いわんや墳典(盛り沢山の古典)に心を楽しませれば、塵累の纏索(世俗の積もる煩い)がなく、書中に故人に遇い、聖賢と交わりを結ぶことができる。一窓(部屋)を出なくても遠い千里の外まで観たり、短時間で遙か万古を経ることもできる。楽しみの最も甚しいのは、これに過ぎるものがない。道を楽しむのと乱に遇うことの憂いと喜びの異るのは、同日に語ることができない。
 どうか自身で、そのどちらを択ぶべきか、よろしく審かに考えてみられたい。

『誡太子書』の伝来と今上陛下
 以上のごとく、『誡太子書』は花園上皇が「太子」(量仁親王)のために書かれたものである。その主要な眼目は、「諂諛の愚人」が「吾が朝は皇胤一統」だから「徳は微なりと雖も、隣国窺覦の危き無く、政は乱ると雖も、異姓簒奪の恐れも無し」と思い込んでいることを「謬り」と退けたうえで、「余」自身が「典籍を学び、徳義を成し、王道を興さんと欲するは、ただ宗廟の祀を絶たざらん為めのみ」であるが、「宗廟の祀を絶たざるは、宜しく太子の徳に在る」のだから、「もし学功立ち、徳義成らば……上は大孝を累祖に致し、下は厚徳を百姓に加へん」ことができるよう、真剣な学徳の修得を強く勧められたのである。
 この貴重な帝王学の教訓書は、その後どのように伝えられてきたのだろうか。それを確められる史料はほとんど公表されていない。
 ただ、わずかに貞成親王=後崇光院(一三七二~一四五六)の『看聞御記』永享六年(一四三四)三月二十四日条に「誡太子書一帖〔花園院御作。光厳院春宮(皇太子)の時、御学問の事を進めらるなり〕……これを進む」とみえる。
 これによれば、本書は「太子」光厳天皇(一三一三~六四、在位一三三一~三三)の曾孫にあたる貞成親王(一三七二~一四五六)の手もとにあったが、それをその子の彦仁王=後花園天皇から求められて、おそらく自ら書写して進献されたのである。
 ちなみに、この「太子」は花園天皇から譲位された後醍醐天皇の後の皇太子と定められていたが、政変のため足利氏によって擁立された1光厳天皇である。しかし、病弱のため二年弱で退位(隠岐から都へ戻られた後醍醐天皇により廃位)された。しかも、その後は同母弟の豊仁親王=2光明天皇(在位一三三六~四八)が北条氏によって擁立された。さらに、その後も光厳天皇の皇子兄弟が3崇光天皇・4後光厳天皇──その後は後光厳天皇の子と孫が5後円融天皇・6後小松天皇として継承された。
 その後小松天皇は、明徳三年(一三九二)南北朝の合体が実現して第一〇〇代となられ、次の第一〇一代を皇子=称光天皇が継がれた。しかし、称光天皇は病弱のため皇子に恵まれないので、父君の後小松上皇が再従兄弟にあたる貞成親王を推す動きもあった。
 ところが、後小松天皇の崩御された正長元年(一四二八)、親王は既に五十七歳で伏見宮家三代目を継ぎ、出家もしていたから、その第一王子彦仁王が上皇の猶子とされ、第一〇二代の後花園天皇(一四一九~七一)として立てられた。この即位から六年後、後花園天皇(十六歳)は、父君の貞成親王(五十七歳)が書写された本書を受贈されたのである。
 しかも注目すべきことに、この永享六年(一四三四)、貞成親王は本書を書写して進呈されたのみならず、自ら纏め上げた一書を後花園天皇の「見参に入れ」「悦び思し召され」ている(『看聞御記』同年八月二十七日・九月一日条)。それは既に二年前『正統興廃記』と名付けて完成され、その後手を加えて『椿葉記』と改名して献上されたのである。
 この『椿葉記』は、伏見宮家の来歴と盛衰を述べた後、僅か十歳の若さで即位した我が子に立派な天皇となってほしいという願いをこめて、何より学問を修められるべきこと、とりわけ和漢の文学と才芸を嗜み、群書に通じ和歌を詠むこと、雑訴などは有能な臣下に任せるか先例や故実に従って沙汰すべきこと、が具体的に示されている。これは『誡太子書』を受け継ぐ実践的な指南書といえよう。
 それを承けて、後花園天皇は、和漢の古典を熱心に勉学され、四十六歳で譲位する際、皇太子成仁親王に「御文」を贈り「御学文を先づ本とせられ……能★御稽古候べく候。その外に公事から詩歌・管絃・御手跡(習字)など」に励むよう勧めておられる。
 このような学問を尊重する伝統は、その後の歴代に引き継がれてきた。それは第一二六代の今上陛下も例外ではない。その概要は、小田部雄次氏の近著『皇室と学問』(星海社新書)第五章「令和の天皇と水の研究」にも記されているが、そこに触れられていない重要な一点を紹介して本稿の結びとしよう。
 薗部英一氏編『新天皇家の自画像』(文春文庫、平成元年刊)は、現上皇陛下の皇太子時代における「記者会見全記録」であるが、その中に今上陛下の皇孫浩宮時代における会見記録も含められている。
 これによれば、昭和五十一年(一九七六)六月、浩宮殿下(十六歳)の教育(いわゆる帝王学)について美智子妃殿下(四十一歳)が「(昭和の天皇)陛下、(皇太子)殿下に触れて(ほとんど毎週参内し)学んでいます」と答えられた。
 また翌年十二月には、皇太子殿下(四十三歳)が「天皇の歴史というのは、今度も(学習院大学の)児玉幸多学長(六十八歳)に話を伺いました」「そういったもの(史実)を知ることによって、自分自身の中に、皇族はどうあるべきかということが、次第に形作られてくるのではないかと期待している」と述べておられる。
 それから五年後の昭和五十七年(一九八二)三月、学習院大学の文学部史学科を卒えて大学院へ進まれた浩宮殿下(二十二歳)は、数年来の御進講を受けて「感じることは、歴代天皇が文化を大切にしてこられたということです」と振り返られ、また「次の機会にお話を伺うことになっている花園天皇」について予習するため、「その時の皇太子である量仁親王(のち光厳天皇)……にあてて書き残したもの……誡太子書」を読まれ、「この中で花園天皇は、まず徳を積むことの重要性、その徳を積むためには学問をしなければならないことを説いておられる」ことを知って「非常に深い感銘を覚えます」と語られている。
 今日とは事情が異なるから容易に比較できないが、皇位継承の危機に直面して後継者のために書かれた『誡太子書』は、六百年近く経っても確実に学び継がれているのである。
 最後に、畏れ多いことながら、このような帝王学の真髄は、第一二六代の今上陛下から皇嗣の秋篠宮殿下をへて、甥にあたる悠仁親王(現在十五歳)へと受け継がれていくようなことを念じてやまない。

(『表現者クライテリオン』2022年5月号より)

 

 

他の連載などは『表現者クライテリオン』2022年5号にて

『表現者クライテリオン』2022年5月号 「日本を蝕む「無気力」と「鬱」」
https://the-criterion.jp/backnumber/102_202205/

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