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【書評】「現実」に立脚した政治論――前田龍之祐

啓文社(編集用)

啓文社(編集用)

皆さん、こんにちは。
「表現者クライテリオン」編集部です。

本日は『表現者クライテリオン』11月号より書評をお届けします。

「現実」に立脚した政治論
前田龍之祐

 

カール・シュミット 著
権左武志 訳

『政治的なものの概念』
岩波書店/2022年8月刊

 

 ヒトラー率いるナチ党が第一党に躍進し、ワイマール憲法が脅かされる危機に陥った一九三二年に刊行された初版をはじめ、『政治的なものの概念』は計四度の再版(加筆修正)がなされている。その新訳である本書は改訂の過程を詳しくたどりながら、シュミットの思考の変遷を跡づけているが、しかしそこで語られる「政治的なもの」の本質は、版を問わず揺らいでいないと見ていいだろう。

たとえば一九三三年版は「本来の政治的な区別とは味方と敵の区別である」との一文で始まるが、本書の議論は、冒頭に掲げられたこのテーゼをめぐって基本的に深められていくからだ。

 

 ただし、この区別が必ずしも政治の領域だけに限られた話ではない点には注意したい。シュミットが「政治」の問題を「政党政治」のそれと混同しないよう述べているように、〈味方と敵の区別=共同体の画定〉とは、あらゆる人間活動に見られる普遍的な行為にほかならない。「政治的なものの概念」としてのこの区別は、狭義の「政治」に還元できない広い射程を持つ、「ずっと深い対立」なのである。

 

 その上で重要なのは、こうした対立はつねに具体的な状況下において発生するという指摘だ。「物理的殺戮の現実的可能性」を孕む戦争はその究極の形態だが、味方と敵を分ける主体としての国家は、人間の生殺与奪を司る「交戦権」(主権)を持つ点で他の共同体の上位に立つのであり、そこでは端的に死ぬ可能性が前提とされているだろう。

真の政治闘争はただ「参加のみに基づいている」のだとすれば、個々の生活や実存を賭けない運動とは、何と闘っているのかさえ定かではない「形而上学的対立」に過ぎない。

 

 しかし、逆に言えば、現在見られる政治的対立のほとんどは、実際はこの「形而上学的対立」に陥ってはいないだろうか。たとえば安倍政権の内実を何ら顧慮することなくただ“反安倍”(あるいは、“反国葬”)を唱え続けるリベラルはその典型だが、他方で自粛に伴う多方面の損失に目を瞑って“ゼロコロナ”を叫ぶ(一部の)保守もまた、イメージ=空気に踊らされて具体的な現実を見ない態度だと言わざるをえない。

昨今のウクライナ情勢から統一教会問題にいたるまで、複雑に絡み合っている事象を一元化して、単純な二項対立図式に仕立てるこうした姿勢は、本書が規定するような「政治」とは遠く離れている。シュミットはこう書いていた、「偉大な政治の頂点は、同時に敵を具体的な明確さで敵として認識する瞬間である」と。

 

 そして、このような政治観はまた、人間集団とはまずもって危険かつ動的なものだという人間観から導かれている。先天的に備わっている欲望(エゴイズム)から我々は決して自由になれないのなら、その限界を正しく認識した上で適切な条件設定を与えていくことこそ、「真の政治理論」の役割である。少なくとも本書はそのような理論である限りで、時代を問わず読まれる一冊であるべきだろう。

 

カール・シュミット 著/権左武志 訳『政治的なものの概念』

 

 

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