こんにちは、『表現者クライテリオン』編集部です。
本日から3回に分けて、『表現者クライテリオン』2023年1月号特集座談会「二〇二二年を振り返る 戦争・テロ・恐慌の時代への大転換」から冒頭部分をお届けします。
興味を持った方は是非、本誌を手にお取りください。
仲正昌樹×吉田 徹×藤井 聡×柴山桂太
藤井▼本日は金沢大学の仲正先生と同志社大学の吉田先生にお越しいただき、編集委員の柴山さんと私で「二〇二二年を振り返る」というテーマでの座談会を企画いたしました。
吉田先生は比較政治学がご専門で、これまでも本誌にご寄稿いただいたこともありますが、実は吉田先生は、表現者塾・発言者塾の私の先輩に当たる方でもあります。
吉田▼九〇年代半ばに塾生でした。
藤井▼私は二〇〇〇年くらいに入りましたので、私より少し前ですね。そういうご縁もあり、かねてからお目にかかりたいと思っていた中、本日はご登壇、ありがとうございます。
吉田先生にはウクライナの情勢が政治的にどういうインパクトがあるのか、この戦後においてどういう意味を持っているのか、といったお話をお伺いできればと思っています。よろしくお願いします。
吉田▼こちらこそよろしくお願いします。
藤井▼仲正先生は哲学がご専門で、『表現者クライテリオン』へと本誌が改変された当初から何度もご執筆いただいている先生です。
仲正先生には思想的な視点から、この時代がどういう転機を迎えているのかご発言いただくと同時に、統一教会に学生の頃に入っておられたということもあり、安倍晋三さんへのテロにもつながっている統一教会問題も含めて、色々とお話をお伺いできればと思います。今日はどうぞよろしくお願いいたします。
仲正▼よろしくお願いします。
藤井▼まずは吉田先生から、ロシアのウクライナ侵攻が政治学的にどういった意味を持っているのか、といったところからお話しいただければと思います。
「ポスト・ポスト冷戦」の時代
吉田▼色々な観点から議論できますが、時代区分で見るとおそらく、「ポスト・ポスト冷戦」が二・二四のウクライナ侵攻以降、本格的に始まったと後世に記されることでしょう。
我々は何となく、冷戦崩壊後の世界を「ポスト冷戦時代」と認識していたのですが、今回のウクライナ侵攻はそこに明確な断絶線を引くことになった。
ただ、時間軸を遡れば、実は今回初めてロシアがウクライナを侵攻したわけではなく、二〇一四年からウクライナ東部を既に実効支配していました。その後、クリミア半島の併合もソチオリンピックの後にやり遂げた。
プーチンの頭の中では、二〇二二年以前から領土拡張、あるいは影響圏の確保が既に始まっていたのではないかと思います。プーチンは二〇〇〇年に大統領になって、その後首相になって再度大統領を務め、これからも院政を敷くことになるかもしれない。
そういった、権威主義国家のリーダーが持つ時間軸と、数年間の選挙サイクルで暮らしている自由民主主義国家の時間軸とでは、おそらく様々な不整合や認識上の違いが出ていて、それが危機の本質であるように思えてなりません。
だから例えば、ウクライナ侵攻の可能性をアメリカが示唆した時、ウクライナを含めて、多くの国はそれをまともに取り合わなかった。二月二十四日に私はたまたま沖縄に調査旅行に行っていて、ウクライナとロシア政治の専門家たちと一緒でしたが、みな驚いていた。
専門家すらも予想できなかった侵攻だったということです。合理性は時間軸やパースペクティブによって性質が変わります。つまりは、我々の持っている合理性と、プーチンの持っている理性や合理性をすり合わせないと、戦争が起きた理由や解決策もおそらく見つからないでしょう。
藤井▼非常に面白い視点ですね。時間軸が権威主義国家と民主主義陣営と言われる西側では全く違っていて、我々の時間軸から見ると、今回のウクライナ侵攻はとんでもないものに見えてしまうし、ウクライナ人もそう思うかもしれませんが、プーチンからすると二〇〇〇年からの一貫したストーリーがある。
そして今回のウクライナ侵攻は、表舞台における時計が、西側がつくった時間軸から権威主義国家、あるいはプーチンの時間軸へと転換し、その転換が世界に巨大なインパクトを及ぼし始めたということですね。
吉田▼プーチンの合理性は、冷戦崩壊からの時間軸で図られているかもしれないけれども、その間、西側は「歴史の終わり」の時間軸の中にあったかもしれない。歴史を見つめ直さなければならない所以です。
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次回更新は12/28(水)!
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