【藤原昌樹】台風直撃の下で考える防災対策としてのインフラ整備―無電柱化推進計画―

藤原昌樹

藤原昌樹

迷走する台風6号(カーヌン)

 2023年7月28日にフィリピンの東の海上で発生した大型で非常に強い台風6号(カーヌン)は、沖縄気象台の担当者が7月31日の記者会見で「正直に言って、進路予報の不確実性が大きい」「似たような進路をたどった台風を示すことができない」と語ったように、異例の進路を辿っています(注1)。7月31日に大東島地方を通過した後、翌8月1日に沖縄本島地方が暴風域(午前4時半に暴風警報発令)に入り、その後、約44時間ぶりに本島地方の暴風警報が解除(3日午前1時半)されたものの、東シナ海を西に向かって宮古島地方及び八重山地方を暴風域に巻き込んだ後にUターンして、久米島や慶良間・粟国諸島付近を通過し、再び本島地方を直撃(4日午後3時過ぎに再び暴風警報が発令)しました。

 沖縄県全域で暴風警報が解除されるまでにおよそ一週間も台風6号が猛威を奮っていたということになります。具体的にどれだけの被害があったのかについては詳細な調査結果を待たなければなりませんが、台風が進行する速度が遅かったことに加えて、いったん沖縄本島を通過した後にUターンして再直撃するなど迷走して沖縄県域に長く留まったことから被害が大きく膨らんでしまったことは間違いないものと思われます(注2)

 

台風には慣れているウチナーンチュ

 沖縄は、昔から「台風銀座」と言われるほどの「台風の常襲地域」であり、ウチナーンチュ(沖縄人)は台風の襲来には慣れています。

 実際、今回の台風6号についても、遥か遠くのフィリピン沖で熱帯低気圧が発生した時点から、多くの沖縄県民がテレビや新聞などマスメディアやSNSなどネットを活用して、沖縄県や沖縄気象台、各市町村など公共及び民間の関係機関が発表する情報を確認するとともに、強風で飛ばされそうな物の片づけ、停電や断水に備えて食料をはじめとする必要な物資の買い出しなど事前の台風対策を行ったに違いありません。

 コンビニやスーパーなど多くの店舗で食料品が売り切れてしまい、空っぽになってしまった商品棚の様子は、台風の影響で物流が滞ってしまうことが主たる原因なのですが、多くの人々が事前の対策として購入した結果であると言うことができます。

 誤解を招くかもしれない言い方になってしまいますが、ウチナーンチュは大きな被害をもたらす台風とのつき合いの中にも、ある種の「楽しみ」を見出してきました

 今回の台風6号の際には、私自身も「バスやモノレールの運行状況」や「通行止めなど道路の状況」「停電や断水の発生状況」「県内各地域の被害状況」などマスメディアやネットから得られる情報を収集するのに加えて、LINEやX(旧Twitter)、FacebookなどのSNSを用いて友人・知人との間で「食料品など必要な物資を購入できる店舗」や「台風下でも営業している飲食店」などといったリアルタイムの情報を交換していました。

 親しい友人とのやり取りでは、単に「いま必要な情報」を交換するだけでなく、台風にまつわる子どもの頃の思い出話に花を咲かせることもあり、例えば、「台風の影響で停電や断水になり、ろうそくや懐中電灯の薄暗い灯りの下、家族でヒラヤーチー(注3)やソーメンタシヤー(注4)を食べた」エピソードなどは、どちらかと言うと「台風の辛い思い出」というよりも「家族との懐かしい思い出」として語られていました

 私自身もそうなのですが、子どもの頃に「(台風を)学校が休みになる非日常的なイベント」として捉えてワクワクした記憶がある人は多いのであろうと思います。

 もちろん、「台風」は決して「楽しいイベント」などではなく、死傷者が発生する可能性がある災害であり、多くの人々が社会的・経済的活動を制限されることで不自由を強いられることは避けられません。復旧までに長い時間を要する可能性も高く、人々の日常生活や地域の社会経済全般に甚大な被害を及ぼす恐ろしい災害です。

 実際に、自分自身や家族、友人など身近な人が直接的な被害を被った場合には、とても「楽しい」などと言っていられる訳がなく、台風について「楽しい」と形容することは「不謹慎である」との誹りを免れないことだと思います。

 しかしながら、台風の襲来という強大な自然の猛威を前にして、私たちにできることは限られており、被害をできるだけ最小限にとどめるよう事前の対策に努める以外には「安全な場所に身を潜めて台風が過ぎ去るのを待つ」しかありません。

 台風という自然の脅威について、あたかも「楽しいイベント」であるかのように認識することや、自宅や避難所に閉じ込められた経験を「家族や身近な人との楽しい思い出」として語ることは、「台風によって自分自身や家族、親しい人々の生命や財産、日常生活そのものが奪われてしまうことへの不安や恐怖に押し潰されずに精神の平衡を保つための知恵である」と言うことができるのではないでしょうか。

 私自身を含めて、「台風の常襲地域」である沖縄に住む多くのウチナーンチュが、繰り返し「台風の脅威」に晒される経験を通して身につけた「知恵」なのだと思います。

 

停滞する台風に疲弊する人々

 台風には慣れているウチナーンチュでも、今回の台風6号ではかなり疲弊してしまいました。台風6号が迷走して停滞したために自宅や避難所などに長く閉じ込められたことに加えて、沖縄県全域の広い範囲で発生した停電と断水による生活への影響が大きくなったことによるものです。

 幸いなことに、私が住んでいる地域では停電することも断水もすることもなかったのですが、県内の全戸数の34%に相当する最大21万5,800戸の停電を記録しました。大規模な停電と言えば、2012月9月の台風17号で県内戸数の過半を越える約33万4,400戸が停電して生活インフラに打撃を与えた事例や、2018年9月末に台風24号と25号が相次いで襲来して沖縄本島が27時間にわたって暴風域となり、最大25万700戸、最長108時間にわたる停電が発生した事例などが思い出されますが、今回の台風6号による停電戸数は2018年以来の大規模なものとなっています(注5)

 また、停電に伴い給水設備が稼働せずに断水した戸数もかなりの数にのぼりました。停電が発生した地域で、マンションやアパートなど集合住宅で電気を使って部屋に水を送るポンプが止まるなどして断水したことに加えて、宜野湾市や本部町では上水を提供するための送水ポンプが停止して広い範囲で断水が発生してしまいました。

 沖縄電力によると、遠隔操作で停電区間を縮小する「配電自動化システム」で復旧作業を実施したとのことですが、人員による現場での復旧作業は「安全確保を前提」に進めなければならず、沖縄県全域で電気と水のライフラインが全面復旧するまでにはかなりの時間を要することになります。

 長引く停電と断水で疲弊したのは、沖縄県在住のウチナーンチュに限りません。台風6号が襲来したのは、沖縄に多くの観光客が訪れる夏休みの時期であり、台風6号の発生を受けて旅行そのものをキャンセルした人や、旅程を早めに切り上げて台風が襲来する前に脱出することができた観光客もいましたが、かなりの数の観光客が延泊して台風下の沖縄に留まることを余儀なくされました。

 せっかく訪れた沖縄で、台風の悪天候によってホテルに閉じ込められ、観光やマリンスポーツなどのアクティビティを楽しむこともできず、停電や断水のためにクーラーも稼働せず、入浴やトイレにも不自由するといった、とても快適とは言えない状況での滞在を強いられた観光客が、もともと沖縄に住んでいて台風には慣れている人が自宅や避難所に閉じ込められる場合と同じように、もしくはそれ以上に強いストレスを感じて疲弊してしまったであろうことは容易に想像できることです。

 沖縄は「台風の常襲地帯」であると同時に、我が国で唯一の亜熱帯気候地域に位置する国内有数の観光地であり、観光リゾート産業を県経済のリーディングセクターとして位置づけています。沖縄に多くの観光客が訪れる季節と台風が襲来する時期が重なってしまっている以上、運悪く台風に見舞われてしまった観光客への対応が求められるのですが、今回の台風6号に遭遇して疲弊してしまった観光客の様子からは、とても「十分な対策が講じられている」と看做すことはできません

 「台風に遭遇した観光客への対応策」については、あらゆる角度から検討する必要がありますが、どのような手立てを講ずるにせよ、その対策を実行可能なものにするためには、台風襲来時にも「電気と水」が安定的に供給されることが求められます。

 「台風の時にも停電や断水が起こることなく、安定的に電気と水が供給されること」が、観光客のみならず沖縄に住む全ての人々にとって望ましいことであるのは、改めて確認するまでもない自明のことであり、「災害時における電気と水の安定的な供給体制の確立」が重要な課題であることに異論の余地はないものと思われます。

 

計画は既に存在している沖縄県無電柱化推進計画

 台風6号の際の停電と断水の状況を改めて振り返ってみると、全てとは言えないまでも断水の多くが「停電のために送水ポンプなどの給水設備が稼働しなくなったこと」によるものであり、「停電を防ぐこと」が「断水を防ぐこと」に直結していることから、「停電を防ぐこと」が最初に取り組むべき課題の1つに位置づけられることになります。

 「停電を防ぐ」方法としてホテルなど各々の施設や住宅に自家発電装置を備えることが考えられますが、それぞれの施設や住宅で備蓄できる燃料には限りがあるために、今回のように台風が長く停滞してしまう場合には、自家発電装置だけで発電所からの送電が復旧するまでに必要な電力を賄うことができなくなる懸念があります。

 根本的な対策は、やはり「発電所からの送電を途切れさせないこと」であり、実はそのための計画―「沖縄県無電柱化推進計画」(注6)―は既に存在しています。

 「無電柱化」とは「電線共同溝を整備し、電線類を地中に埋設する等の方法により、道路上から電柱を無くすこと」です(注8)

 「無電柱化」のメリットとして、①街の景観向上、②安全快適な生活空間の創造、③災害に強い街づくり、④資産価値向上、⑤通信回線の信頼性強化、⑥防犯効果、などが挙げられますが、最も大きなメリットは、その「防災性」にあると言われています。

 電力会社へのヒアリングによると「無電柱化」は落雷、台風、浸水、地震、火事、竜巻に強く津波にのみ弱い」とのことですが、「津波に弱い」のは「架空線(電柱)」でも同じことなので「無電柱化が災害に強い」ということができるのです(注9)


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無電柱化とは?現状やメリット・デメリットをプロが完全解説! | NPO法人 電線のない街づくり支援ネットワーク (nponpc.net)

 「災害大国ニッポン」と言われるほど災害が多い我が国では、「防災」という観点だけから考えても、沖縄県のみならず、全国において「災害に強い無電柱化」を積極的に進めるべきであると言えるのではないでしょうか。

 

進まない「無電柱化」-全ての無電柱化が完了するのは2700年後

 しかし残念ながら、我が国では昭和60年代初頭から「無電柱化」に取り組んできてはいるものの、現状では驚くほど進んでいません。3,578万本もの電柱が乱立(平成28年)しており、「無電柱化」を進める一方で、全国の電柱本数は減るどころか、毎年7万本のペースで増え続けています(注10


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道路:データ集:電柱本数の推移 – 国土交通省 (mlit.go.jp)

 

 「沖縄県無電柱化推進計画」では、「無電柱化の現状」について「ロンドンやパリなどのヨーロッパの主要都市や香港・シンガポールなどのアジアの主要都市では無電柱化がほぼ100%なのに対して、日本の無電柱化率は東京23区で8%、大阪市で6%と諸外国と比較して低い状況にある」「沖縄県の無電柱化率は約1.6%、全国で10位である」(平成29年度末時点)と解説しており、諸外国と比較して極端に低い我が国の無電柱化率に驚かされます。

 

欧米やアジアの主要都市と日本の無電柱化の現状

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道路:データ集:無電柱化の整備状況(国内、海外) – 国土交通省 (mlit.go.jp)

 

 日本は「無電柱化」について後進国であると言わざるを得ない状況にあり、私たちにとって身近な生活道路での「無電柱化」はほとんど行われておらず、実際に「無電柱化」という言葉自体は聞いたことがあったとしても、その実感がないという人が大半を占めるものと思われます(注11

 


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無電柱化とは?現状やメリット・デメリットをプロが完全解説! | NPO法人 電線のない街づくり支援ネットワーク (nponpc.net)

 

 我が国では3年ごとに無電柱化の計画が発表されて工事が進められていますが、その実態について「スムーズに無電柱化が進められている」と言うことはできません。最も整備延長が多かった第5期計画(H16~H20)の時でさえ、1年間に440km程度でしかなく、日本の道路総延長は約120万kmもあり、全ての「無電柱化」が完了するまでには約2700年もかかる計算となってしまいます(注12

 

我が国で「無電柱化」が進まないのは何故なのか?

 「防災」という観点からだけでなく、「安全で快適な生活空間」の提供や「景観の向上」など多方面で大きなメリットが得られると考えられる「無電柱化」が一向に進まないのは何故なのでしょうか。

「NPO法人 電線のない街づくり支援ネットワーク」の資料(注13によると、「無電柱化」の課題は様々ありますが、最も苦労するのが「電力・通信事業者との調整」であり、無電柱化が進まない最も大きな理由が「コストが高くつく」ことであると言われています。

 すなわち、「無電柱化事業」を「誰が担うのか」、そして「誰がそのコストを負担するのか」についての調整が困難であるということになります。

 国の「無電柱化推進計画」では、「基本的な方針」において「無電柱化の目的は複合的である」と述べた上で、道路管理者、電線管理者、開発事業者等の事業者及び地方公共団体の間で、その目的(①防災・強靭化目的、②交通安全、景観形成・観光振興目的、③その他の目的)に応じた「適切な役割分担」を基本に現地の状況に応じて連携し、事業手法(①電線共同溝方式、②自治体管轄方式、③要請者負担方式、④単独地中化方式)を選定して「無電柱化」を推進するとしています。また、その費用負担については「それぞれの整備主体の負担とする」「無電柱化の目的に応じた関係者間の費用負担のあり方について(調整して―筆者補足)具体化を図る」と述べています(注14

 正直なところ、「無電柱化推進計画」を読み通しただけでは―私自身の読解力の低さは否定できません―具体的に「誰が担うのか」、そして「誰がそのコストを負担するのか」ということについて十分に理解することができないのですが、「事業者間での調整が困難である」ということと、「事業主体は(僅かな部分を除いて)政府ではなく、あくまでも道路管理者、電線管理者、開発事業者等の事業者及び地方公共団体となっている」ということだけは読み取ることができました(注15

 「無電柱化」によって得られる「防災性の向上」「安全快適な生活空間の創造」「街の景観向上」などの便益(benefit)は、消費の「非競合性」と「排除不可能性」の両方の性質を満たしており、いわゆる「公共財(public goods)」(注16と看做して考察することができるものであると思われます。

 「無電柱化」の便益を「公共財」になぞらえて考えると、「非競合性」と「排除不可能性」の両方の性質から「フリーライダー(ただ乗り)問題free rider problem」を避けて通ることはできません。「無電柱化」を供給する主体となるべき事業者が「たとえ自分が供給しなくても他の誰かが供給することから、自らは費用を負担することなく(無電柱化による)便益を得ることができる」と考えることによって「フリーライダーになる」インセンティブが働いてしまい、全ての事業者が同じように考えることで、誰も「無電柱化」を供給しようとしなくなり、「無電柱化」が遅々として進まない事態―「過少供給undersupply」という「市場の失敗」―に陥ってしまっていると言うことが可能です。

 完全競争型市場経済論においても、公共財の供給といった点で「市場の失敗」が起こることは認められており、自由市場経済学者も、公共財の供給といった限られた範囲で政府や公共当局が市場補完的な介入をする必要は認めています(注17

 しかしながら、「無電柱化推進計画」を読み解く限りでは、「無電柱化」事業に取り組む事業者に対して、政府が(主に資金面や税制面での)支援策を講じることになってはいるものの、政府や公共当局自らが(道路総延長に占める国道の割合に準ずる僅かな割合を除いて)「無電柱化」事業そのものに主体的に取り組む―政府自らが公共財としての「無電柱化」を供給する―仕組みにはなっていないように見受けられます。

 公共財の「過少供給」という「市場の失敗」に対しては、政府による公的供給で対処することが求められるのであり、これまで長年にわたって全く実績が上がっていない我が国の「無電柱化」事業において、政府が資金面や税制面での支援という限られた間接的な役割から脱却し、より積極的な市場補完的介入を行うという方向に転換しなければ、2700年後という―我が国が存在し続けているのかどうか、人類が生き延びているのかどうかさえも不確かな―遠い未来においてでさえ、我が国では全ての「無電柱化」を完了することができていないのではないかと想像してしまいます。

 

公共財としての「防災·減災対策」

 「災害列島」「災害大国ニッポン」と言われる我が国(注18では、「首都直下型地震」「南海トラフ地震」「根室沖巨大地震」など「阪神淡路大震災」や「東日本大震災」を遥かに上回る規模で甚大な被害をもたらすことが予想される巨大地震が、今後30年以内(2018年起点)の近い将来において70~80%という高い確率で起こると言われており、巨大地震以外でも毎年のように日本の何処かで台風や豪雨被害、そしてそれに伴う河川の氾濫などの水害、土石流などの土砂災害などが頻発し、激甚化しています。

 地震や津波、台風や豪雨などといった災害を前にして、強大な自然の力を抑え込もうとするのは所詮不可能なことであり、私たちにできることは、持てる知恵を振り絞って可能な限り災害による被害を最小限にとどめるための事前の対策に努めること―減災-でしかないのだと思われます。

 「無電柱化」事業の事例を用いて考察したように、「防災・減災対策」の多くは「非競合性」と「排除不可能性」の両方の性質を持つ「公共財」として捉えることができるものであり、「フリーライダー問題」を避けて通ることはできません。

 公共財としての「防災・減災対策」は、自由な市場の働きに任せておくだけでは「市場の失敗」が起こってしまい、「過少供給」もしくは全く供給されないという事態になりかねず、政府や公共当局による公的供給が非常に重要な役割を果たさなければならないのは論を俟たない明らかなことだと言えます。

 実際、政府は「防災・減災、国土強靱化のための 5か年加速化対策」(令和2年12月11日)を策定し、「重点的に取り組むべき対策」の筆頭に「激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策」を掲げており、「5か年加速化対策」全体で概ね15兆円程度の事業規模を想定しています(注19

 しかしながら、政府はその一方で、「我が国の財政健全化に向けた取組」として「2022年度から徐々に政府支出を縮減していき、2025年度には、中央政府と地方政府の双方をあわせたPB(プライマリー・バランス)赤字をすべて解消し、『黒字化』させる」という「財政規律目標」を堅持しています(注20「プライマリー・バランス論」に代表される均衡財政を目指す政策態度は「責任ある財政運営」と称しているようですが、「機能的財政論」の観点から考えると、「財政の均衡」を重視して必要な投資を怠ることは「将来の技術・インフラ不足と生産性水準の低下」を招いて将来世代に負担を強いるものであり、必要とされる財政支出をも削減する政策は「将来世代へのツケ回し」でしかありません(注21

 政府は「防災・減災のための計画」を掲げてはいますが、いつ起こるかわからない「災害に備えること」よりも「プライマリー・バランスの『黒字化』」を優先する愚策を弄するのではないかという疑念を振り払うことができません。「財政の健全化を守る」ことを優先して「災害から国民の生命・財産を守ること」を蔑ろにするということは「将来世代へのツケ回し」どころか「将来世代に対する犯罪」であると言っても過言ではありません。

 台風一過の沖縄から「台風6号に続く台風7号による被害が拡大しないこと」を祈るとともに、現在の岸田政権が「将来世代に対する罪」を犯さないことを願ってやみません

(藤原昌樹)

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(注1)台風6号:異例の台風Uターン… 沖縄の100時間ドキュメント【7月29日~8月4日 タイムス+プラスのみどころ】 | デジ編チョイス | 沖縄タイムス+プラス (okinawatimes.co.jp)

(注2)本稿を執筆している時点で台風6号による被害の全容は明らかになってはいませんが、8月6日時点で死者2名、けが人98名が発生しています。広い範囲で停電と断水が発生しており、全面復旧までにかなりの時間を要するものと思われます。交通機関では、空の便・海の便ともに数日間にわたって欠航が相次ぎ、路線バスや沖縄都市モノレールでも多くの便が運休となりました。また、具体的な発生件数の確認はできていませんが、道路での冠水や建物の浸水被害なども多く発生しています。

沖縄県農林水産部が8月8日に発表した台風6号による農林水産業被害報告(第3報)の速報値によると、同日午後2時現在の農作物類の県全域の被害総額は13億6,557万円となっています。今回被害額が発表されたのは耕種部門の被害と施設部門、水産業の被害の一部であり、畜産業や林業の被害額は調査中となっていて、今後の調査で被害総額はさらに大きく膨らむ見通しとなっています(台風6号、沖縄農作物の被害13.6億円 サトウキビが7割 吹き返しで拡大 – 琉球新報デジタル|沖縄のニュース速報・情報サイト (ryukyushimpo.jp))。

(注3)ヒラヤーチー 沖縄県 | うちの郷土料理:農林水産省 (maff.go.jp)

(注4)ソーミンタシヤー 沖縄県 | うちの郷土料理:農林水産省 (maff.go.jp)

(注5)停電、全面復旧のめど見えず 長引く暴風雨で被害確認に遅れ 再接近の恐れが作業の懸念に – 琉球新報デジタル|沖縄のニュース速報·情報サイト (ryukyushimpo.jp)

(注6)沖縄県土木建築部「沖縄県無電柱化推進計画」令和4年3月
「沖縄県無電柱化推進計画」は、「無電柱化の推進に関する法律」(平成28年12月)に基づき策定された国の「無電柱化推進計画」(注7(令和3年5月25日)を基本として策定されました。国と沖縄県のいずれの「無電柱化推進計画」においても、冒頭で「台風や豪雨等の災害では、倒木や飛来物起因の電柱倒壊による停電並びに通信障害が長期間に及ぶケースも報告されており、電力や通信のレジリエンス(回復力)強化が求められている」と述べており、沖縄県の計画は「沖縄県における無電柱化をさらに推進するために、今後の無電柱化の基本的な方針、目標などを定めるものである」と位置づけられています。

(注7)国土交通省「無電柱化推進計画」令和3年5月25日

(注8)「沖縄県無電柱化推進計画」

(注9)無電柱化とは?現状やメリット・デメリットをプロが完全解説! | NPO法人 電線のない街づくり支援ネットワーク (nponpc.net)

(注10)道路:データ集:電柱本数の推移 – 国土交通省 (mlit.go.jp)

(注11)~(注13)無電柱化とは?現状やメリット・デメリットをプロが完全解説! | NPO法人 電線のない街づくり支援ネットワーク (nponpc.net)

(注14)国土交通省「無電柱化推進計画」

(注15)我が国の道路総延長約1,226,600km(100%)のうち、国道(高速自動車国道及び一般国道)が占める割合は5.2%(約65,000km)であり、都道府県道が10.6%(約129,800km)、市町村道が84.1%(約1,031,800km)となっています(道路:道路行政の簡単解説 – 国土交通省 (mlit.go.jp))。「無電柱化」事業において、その事業主体が道路の管理者に準じて決まると想定すれば、国(政府)が事業主体となる割合は5.2%に過ぎず、全体の90%以上について「道路管理者、電線管理者、開発事業者等の事業者及び地方公共団体」のいずれかが事業主体となり、国(政府)は補助制度や道路占用料の減免措置等の支援策を通して間接的に関わるに過ぎないということになります。

(注16)『スティグリッツ公共経済学[第3版](上)』では、「公共財(public goods)」について次のように解説しています。
「純粋公共財は消費の非競合性と排除不可能性の両方の性質を完全に持っている財である。消費が非競合的であるときには、誰かがその便益を受けられないように排除することは望ましくない。もう1人の追加的な利用者がその財を享受するときの限界費用がゼロである。彼らがこれらの財を享受したとしても、他の人が消費する量を減少させないためである。それが私的に供給されるならば、過少消費か過少供給のどちらか、または両方が生じる。排除不可能であるときには、誰かがその便益を受けられないように排除することが不可能になり、フリーライダー問題が生じる。そのような財は一般的には市場によって供給されず、また私的に供給されるときには過少供給になる」

(注17)原洋之介『開発経済論 第2版』

 原洋之介は、完全競争型市場経済論においても「政府・公共当局が市場補完的な介入をする必要を認めている」ことを論じた上で「不完全情報の世界では、市場の失敗は、誰の眼にも識別しやすい公共財という狭い領域以外のところでも発生し、それが普通の状態となっている」「(市場の失敗が発生することが普通の状態であることが)政府・公共部門の介入が潜在的に必要であるということを意味しているのであって、民間経済主体と全く同様に不完全性に直面している政府が介入することが、常に望ましい改善をもたらしてくれる訳ではない」として、不完全情報の世界における政府・公共当局の限界についても指摘しています。

(注18)災害リスク 日本列島 どこで何が起きるのか|災害列島 命を守る情報サイト|NHK NEWS WEB

(注19)内閣官房「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策 (cas.go.jp)

(注20)藤井聡『令和版 プライマリー・バランス亡国論』

(注21)望月慎『図解入門ビジネス 最新MMT「現代貨幣理論」がよくわかる本』

<参考資料>

・資料:【特 集】台風6号に関する記事一覧 – 琉球新報デジタル|沖縄のニュース速報・情報サイト (ryukyushimpo.jp)

・資料:「台風6号」の記事一覧 | 沖縄タイムス+プラス (okinawatimes.co.jp)

・資料:沖縄気象台 (jma-net.go.jp)ホームページ

・資料:国土交通省「無電柱化推進計画」令和3年5月25日21-05.pdf (mlit.go.jp)

・資料:Microsoft Word – 【最終版】沖縄県無電柱化推進計画(令和4年3月) 沖縄県土木建築部 (okinawa.lg.jp)

・資料:道路:無電柱化の推進 – 国土交通省 (mlit.go.jp)

・資料:無電柱化とは?現状やメリット・デメリットをプロが完全解説! | NPO法人 電線のない街づくり支援ネットワーク (nponpc.net)

・資料:災害リスク 日本列島 どこで何が起きるのか|災害列島 命を守る情報サイト|NHK NEWS WEB

・資料:内閣官房「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策 (cas.go.jp)

・資料:「典型的な台風とは違う」 迷走、停滞、2度の暴風域 台風6号、専門家も驚きの進路 | 沖縄タイムス+プラス (okinawatimes.co.jp)

・資料:「無電柱化は予算や時間がかかる」 台風6号で21万戸停電も抜本策見えず 自らバッテリーを買い求める県民 | 沖縄タイムス+プラス (okinawatimes.co.jp)

・資料:避難指示に住民戸惑い 行政の発信方法に課題 自治体連携で改善必要 | 沖縄タイムス+プラス (okinawatimes.co.jp)

・資料:重い給水袋を持った高齢者が高層階の階段を… 台風6号影響、停電から断水 浮き彫りになった課題 沖縄 | 沖縄タイムス+プラス (okinawatimes.co.jp)

<参考文献>

・ジョセフ・E・スティグリッツ/ジェイ・K・ローゼンガード『スティグリッツ公共経済学[第3版](上)』東洋経済新報社、2022年

・原洋之介『開発経済論 第2版』岩波書店、2002年

・藤井聡『令和版 プライマリー・バランス亡国論』育鵬社、2022年

・望月慎『図解入門ビジネス 最新MMT「現代貨幣理論」がよくわかる本』秀和システム、2020年


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