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【平坂純一】浜崎洋介先生の講演at早稲田大学に見た「社交と人間」

平坂純一

平坂純一 (雑文家)

今月15日、早稲田大学の大隈講堂にて浜崎先生が「早稲田大学国策研究会」の主催で講演をなされた。演題は「保守言論人の歴史と現代」という「保守原論」で期待をして観に行った。西洋哲学史から演繹した保守思想のかたちが、日本においてどう用いられ、先達が格闘したか。保守思想家の系譜をひもとく浜崎先生の熱弁に対し、集まる学生たちが耳を傾ける姿はOBとして込み上げるものがあった。

 

この頃は「ルペンっていつ出るの?」が皆の挨拶にされつつある平坂です。

私も即答しかねますが、来年にはどうにかします。他の仕事もしながらで、なかなか厳しい日常で、しかし、早稲田でフランス語をやって仕事にするという本懐を遂げたい。そして、ルペンさん存命中に必ず……。

参照「“マリーヌ・ルペン親子=極右”だと思っている日本人へ」【平坂純一】

https://www.kk-bestsellers.com/articles/-/1419916/

 

 

さて、本題である。

浜崎先生「東京を離れる」の報は届いており、一声ご挨拶したいことが一つ、そして、たまにはアカデミックな雰囲気を感じたいのが一つ、そして、早稲田大学で今や唯一の右派サークル・国策研究会との「右派学生vs浜崎洋介」が見られるはず、これが一つ。藤井先生とのコラボ動画でお馴染みの甲府めがね氏を連れて行った。面食らったのは、真冬の大隈の大講堂、それも平日に100人以上の人が集まるのは異例であろう。

 

講演は至って基礎的で、重要な内容だった。

フランス革命前後の西洋思想にあって、二つの潮流があるとした。単一の原理によって世界を演繹に把握しようとする思想(概ね、急激な変革を是とする)と、その一方の、経験の蓄積としての歴史と社会を見つめ、自然な調和(中世キリスト教の歴史に概ね肯定的)を旨とする思想の二波に分けられることを手始めに説かれた(私はバーリン『ハリネズミと狐』を思い出した)。

 

ヨーロッパの人文学の知性をこれだけ簡潔に、そしてカンパ制で(!)聴けるのはありがたいことだ。後半は、小林秀雄と福田恆存、80年代以降の日本の保守に接近する思想家を論じられた。この辺りはご著書ひもとけば済む、かと思いきや、なかなか言葉のビーンボールもあり、来られなかった各位は残念であったなと言う他ない。高級な言葉を、爽やかな雰囲気で伝える浜崎先生が、私は好きだと思った。

 

二次会、早稲田の赤提灯。学生中心ゆえ遠慮しようとしたら編集者N氏に捕まり、甲府氏と参加、この場も温かかった。大学OBか学生の中に、グランジ服と黒眼鏡中年2名には非常に居心地が悪いが、その異和を活かした酒を楽しんだ。インテリか非インテリか、年上か年下かなど、どうでもいい。人間と人間が酒の前では平等であり、言葉と生き様が人間をあらわにする。

 

浜崎先生も同じことを思ってらしたようだが、私はある結論を得た。「早稲田大学は、早稲田という土地を離れない限り、学生たちはバカになれない」ということを。

 

早稲田の地を詳らかにしない読者に記しておくと、早稲田周辺はいわゆる「新宿区」の雑踏から離れて、商店街が栄えていて、食事処や酒場、銭湯、ラーメン屋、たいへん学生に最適化されている。そして何より、古本屋街が残っていて風情がある(千代田区の神保町より価格が安いので、Digり甲斐もある)。このことは「学ぶこと」を生活に落とし込める環境が早稲田にはある(学び=図書館で本を読むだけではないし、三田の慶應より庶民の大学なのもこの点にある)ことを浮き彫りにする。うーん、自学自賛だ。

 

余談だが、西部邁先生も早稲田大学近くに事務所を構えていた時期が長く、この街を好いておられた。2007年には、当サークル主催で登壇もしている。「自分なんかに大講堂を用意するな!」の言を残された(2階席がありMAXで1123人収容可能。演る方は空席に照れてしまう)。また、禁煙のはずの控え室で堂々とタバコを喫まれたと伝わっている。

 

余談パート2、私の母方には、明治時代のアジア主義的な政治結社「玄洋社」の主要な社員がいる。よって、早稲田出なのもおかしな運命だ。おっといけない、最近の若い衆には、福岡出身で中江兆民の舎弟格だった来島恒喜(玄洋社)が、明治11年の条約改正(簡単に申せば、井上馨の譲歩のなかに「外国人判事」を容れる案があったこと)に反対し、大隈重信に爆弾を投げて片足を吹っ飛ばし、自分も死んで見せた歴史を書かねばならんのだった。

 

この「国策研」、サークルを束ねる藤井氏の話し方が落ち着いていて、大人っぽさに好感を持った。曰く、「コロナによる活動休止が数年続いて、サークルにノウハウが伝達されておらず、講演会の開催も先輩のご指導仰ぎつつ行った」という。しかし、再開イベントに浜崎先生を呼ぶのは、見どころがある青年ではないか。赤提灯で浜崎先生の謦咳に触れる経験を糧にされるだろう。

 

早稲田大学「国策研究会」に幸あらんことを欲する。

 

 


〈編集部より〉

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