政治制度はわれわれの解釈から独立し、客観的に存在するのか。本書の著者・小堀眞裕の新制度論に対する疑問はこの問いから発している。新制度論は、政治行動を個人の社会的・心理的要因に還元したいわゆる行動論政治学への批判的方法として、九〇年代以降、政治学の新たな潮流となっているアプローチ法であるが、その方法論に対し、著者は限界を指摘する。たとえば、比較政治においてよく用いられる議院内閣制と大統領制という制度分類は、各国の歴史的背景、文脈などを捨象したものであり、異なった制度的存在が同じものとして分類されたにすぎない(九頁)。ゆえに、著者が依拠するアプローチ法は、解釈主義・歴史主義・社会構成主義という解釈における認識論を基盤とする(九、一一頁)。日本の政治学においてあまり用いられることのなかった解釈論をもとに、日英米仏豪の政治制度を比較した本書は、これまでにない画期的な論考となっている。本来であれば、著者が明らかにした、各国の政治制度が作られていく際の政治家の思考や日本と各国の政治制度の比較論に踏み込んでいきたいが、紙幅の関係から、今回は、議院内閣制の問題に限定したい。
かつてより、日本の政治学業界では、英国を模範とし、議院内閣制という制度に特別な意味をもたせてきた。しかしながら、そもそも、英国に「議院内閣制」parliamentary cabinet system という言葉は存在しない。英国議会は政府に対し監督機能しかなく、また、英国においては内閣法すらないという(八一~八二頁)。
ここで重要となるのが、なぜ日本の議院内閣制と英国の議会主義を同じように捉えたのか、という解釈の問題である。この問題には、日本の憲法学者による解釈が関係している。実は、日本の憲法学者の多くは、日本の議院内閣制に近い形で議会主義の理論化を進めたフランスの憲法理論をもとに英国の議会制を解釈してきたのであり、英国議会に関する議論や研究に目を向けてこなかったのである(八二頁)。その背景には、君主に実権は存在しないという憲法理論を強調する日仏学者の思想が関係している。このように、現に存在すると考えられている政治制度は、多分に、制度を運用する政治家のみならず、学者やその時々の潮流がつくり上げた解釈(しかも時にはかなりバイアスのかかった)にすぎないことがあるのだ。
最後に、著者の用いた解釈主義の是非についてふれておこう。政治学研究において解釈主義は絶対にして唯一の方法論というわけではない(もちろん著者自身がそう述べているわけではない)。政治思想史研究の世界では、古来より培われてきた政治的概念にはある種の普遍性が存在するという立場もあるように、政治学研究にはさまざまなアプローチが存在する。日本では政治学、政治理論における方法論の議論がようやく始まったばかりである。本書は解釈論に依拠した研究事例として、後世への大きな遺産となるだろう。
〈編集部より〉
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