昨年の『表現者クライテリオン』(2023年7月号)でも特集のテーマとして取り上げられ、多面的・多角的に論じられていましたが、昨今の日本社会において「コストパフォーマンス/タイムパフォーマンス至上主義」という考え方が拡散し、浸透しています(注1)。
これまで数回にわたって、元日に発生した能登半島地震を題材にして論じてきた(注2)ように、我が国では長年にわたって東京一極集中や地方の過疎化を放置し、「緊縮思想」に囚われ、過てる「財政規律目標」を堅持し続けてきたことによって、国土を保全することが蔑ろにされ、道路をはじめとするインフラを維持するための投資を怠り、国土全体で「リダンダンシー(冗長性)」(注3)が失われてしまいました。
その結果として、今回の能登半島地震の被害が肥大化してしまい、復旧・復興が遅々として進まないという事態に陥り、さらには「被災地の復興」を選択肢として掲げて、あくまでも当事者である被災者の意向を尊重しているかのごとく装ってはいるものの、そのコスパ(費用対効果)の悪さを強調し、「復興を諦めて移住する」ことこそが経済合理的であり、より望ましい選択であるとする「復興より移住」論が、ここぞとばかりに展開されています。
その背景には、我が国で「コスパ/タイパ至上主義」が広く浸透してしまっているということがあり、多くの人が日常生活のあらゆる場面で「コスパ/タイパ」を判断基準とし、時間と金銭の両方の側面で「効率性」を過度に重視する風潮が蔓延していることがあると言えるのだと思われます。
地震と津波そのものの規模の大きさもさることながら、小池淳司氏(神戸大学大学院工学研究科教授)が明確に指摘しているように、この度の能登半島地震で道路が陥没したり、法面が崩壊したりする被害が多発し、救助・救援や復旧・復興が遅々として進まない事態に陥っている主たる要因の1つは、過激すぎる「コスパ思想」に基づき、道路の補修・補強を目的とした土木工事が「ムダである」と切り捨てられてきたことであり、「老朽化した道路を放置してきた我々日本国民の責任である」と言うことが可能です(注4)。
小池氏によると、我が国では、新自由主義を掲げる政治家が要職に就くようになり、土木行政で「道路の整備効果におけるコスパ指標」である「費用便益比(B/C)」を基準にインフラ投資が行なわれるようになりました。その結果として、道路整備への投資額は半減し、さらに行政改革のあおりから、必要な補修や補強が施されることなく地方の県道・市町村道の老朽化が激しくなっています。現在では「人口減少社会において、過疎化する地方の道路に投資するのはコスパが悪い、ムダだ」と切り捨てる人も少なくありません。
そもそも、先進国で「費用便益比」をインフラ投資の基準にすることを義務づけているのは日本だけであり、土木行政で「費用便益比」を最初に取り入れたイギリスでさえ「費用便益比は参考にはするが、投資決定時の絶対的な基準ではない」としており、フランスなど他の欧州諸国でも同様の傾向にあります。すなわち、欧州諸国においては「道路は我々の生活を支える社会基盤であり、単に全国で集計された投資効果だけを考えて予算をつけるべきではない。自分がその地域に住むとして、受け入れられる程度の水準までは引き上げよう」という意識が行き渡っていると言うことができるのです。
それに対して我が国では、日本人の多くが「コスパ至上主義」に基づき「人が住まなくなるところに投資は必要ない」と考えるようになった結果として、現在の公共施設への投資額は30年前と比較するとほぼ半減してしまいました。
今回の被災地である能登半島は人口減少が続く過疎地であり、「費用便益比」が低いと看做されて道路整備が滞り、老朽化した道路が放置されて道路インフラが脆弱化してしまった地域の1つです。多くの専門家が指摘しているように、被災した場合、高速道路のような高規格道路は復旧が比較的容易であるのに対して、老朽化した県道や市町村道の修復は困難を極めます。能登半島北部の輪島市の手前までは高速道路(能越自動車道)が整備されていますが、その先の輪島市や珠洲市を走る道路は市町道が中心であり、これらのエリアで道路の陥没、土砂崩れによる法面崩壊の被害が深刻な状態に陥ってしまっています。
また、能登半島では、もう1つの重要なライフラインである水道についても(道路と同様に)「費用便益比」の低さを理由にメンテンナンスに必要な投資が滞って老朽化が進んでおり、復旧作業がなかなか進んでいないという状態にあります。地震から1か月が経過した2月1日の時点でも約4万戸で断水が続いており、復旧は今月末から3月末を予定していますが、一部地域では4月以降にずれ込むとの見込みが示されています(注5)。
前回の記事(注6)で、能登半島地震の発生直後から雨後の筍のごとく現れた「復興より移住」論を批判して、震災が発生した場合に「被災地を復興させることを諦め、被災者を移住させる」ということが、国民国家としてあり得ない選択肢であり、国家としての総力を挙げて被災者の救護・救援と被災地の復旧・復興に尽力すべきであるということについて論じました。
現在、私自身と同じように多くの日本国民が「被災地の復旧・復興を目指すべきだ」と考えているであろうと信じるものではありますが、日本社会に「コスパ至上主義」が蔓延してしまっていることもまた紛れもない事実です。残念ながら、その結果として「多額の費用をかけて被災地を復興するよりも被災者を他所に移住させる方が安価で済む」といった「コスパ(費用対効果)」を主たる理由とする「復興より移住」論が、ある一定程度の支持を得てしまっていることを否定することができません。
コスパやタイパを考えること自体は、より経済的とか満足度を高めるとかいった場面においては自然なことであり、とりたてて批判されるべきものではありません。投入する費用や時間に対し、より大きな成果や満足度を得られるように工夫することは、緻密な比較や計画が可能な人間にとっては至極当然の行為だと言えます(注7)。
企業や家計など民間の経済主体であるか、政府など公的な組織や機関であるかを問わず、ある事業(経済活動)を実施すべきか否かを判断する、もしくは、そのアクティビティの成果を評価するに際してコスト・ベネフィット(費用便益)分析が有用なツールであることは間違いなく、そのことを否定することはできません。
しかしながら、コスパ/タイパ至上主義に囚われたり、自己家畜化状態(注8)に陥ったりすることを避けるためには、その限界を理解した上で活用していく必要があります。
コスト・ベネフィット分析の最大の欠点は、コストはそれなりに評価することができたとしてもベネフィット(便益)の全容は十分に評価することができないということです。未来のことは簡単に予測できるものではなく、ベネフィットの中には数字で評価しづらいものや、そもそも数字で評価することができない質的なものが山ほど含まれています(注9)。
この度の能登半島地震を巡って議論されている「復興より移住」論では「復興にかかる過大なコスト」を「復興よりも移住が望ましい」とする主たる理由に挙げていることからもコスト・ベネフィット分析の考え方がその根拠として用いられていることは明らかです。
しかしながら、「復興より移住」を選択してしまうと、被災地で長い歴史を通して育まれてきた伝統工芸(例えば、輪島塗など)をはじめとする人びとの生業、祭りなどの年中行事、地縁などその地で共に生活を営んでいるからこそ形成される社会的な人間関係などが高い蓋然性をもって失われてしまうことになりますが、これらの「(移住することによって)失われてしまうもの」=「(復興することで)守られるもの」の価値は数値化することができない質的なものがほとんどであると考えられます。
このような数値化できない「価値」を捨象して、数値化が容易な要素だけを用いてコスト・ベネフィット分析が行なわれることで「移住すること」のコスト―地域の伝統文化や社会的な人間関係などが失われてしまうこと―が過小評価されてしまうこととなり、安易に「復興より移住」論が唱えられることに繋がってしまっていると言えるのではないでしょうか。
コスト・ベネフィット分析を用いる際には、予測・評価できないことが必ず漏れ落ちることを常に意識しなければならないのですが、その限界を理解することなく、コスト・ベネフィット分析を安易に適用し、数値化できない「価値」を無視してしまうことで「復興より移住」論が一定程度の支持を得ることになってしまっているように思えてなりません。
能登半島地震の翌日に羽田空港で発生した航空機衝突・炎上事故で日本航空機と衝突した海上保安庁機は、救援物資を届けるために被災地に向かおうとしていたのであり、今回の事故は災害関連事故として位置づけられるべきであり、広義の震災被害の一端と捉えることが可能です(注10)。
現在、事故原因について運輸安全委員会が調査を行っているほか、警視庁も特別捜査本部を設置して業務上過失致死傷容疑を視野に捜査を進めています(注11)。運輸安全委員会の調査は結論が出るまでに通常1年半から2年はかかると言われており、事故原因の詳細については、その調査結果を待つしかありませんが、事故原因と再発防止策については、それ以外の各方面でも様々な形で検証が行われており、その中で「羽田空港が世界有数の混雑空港であり、超過密な状態にあること」が直接的な「事故原因である」とは言えないまでも、少なくとも遠因の1つであることが指摘されています(注12)。
イギリスの航空情報会社ОAGが発表した「世界の混雑空港ランキング」によると、2023年、羽田空港はアトランタ国際空港(アメリカ)、ドバイ国際空港(UAE)に次いで世界第3位の混雑ぶりであり、年間の発着数が約49万回、混雑時には航空機が2~3分おきに発着している状態です。
国交省の関係者によると、国交省の航空局長が会見で「羽田は日本で一番忙しい空港。(事故)当日は容量一杯で使われていた」と語っていますが、羽田空港では2010年に4本目のD滑走路を新設し、国際便が就航して便数が一気に拡大しました。安倍政権下において更なる大幅拡大が目指されることになり、2013年の東京五輪招致決定を受けて、2030年の訪日外国人旅行者数6,000万人を目標に掲げ、観光政策を仕切る菅義偉官房長官(当時)の号令で、それまで実現不可能とされていた新ルートが解禁されます。それ以前には海側から着陸するルートのみでしたが、官邸が「都心上空飛行ルート」新設に向けて動き、騒音問題を理由に新ルートに消極的であった国交省を押し切る形で2014年に計画を発表、2020年3月から運用が開始されました。年間最大6万回であった国際線の発着数が9.9万回にまで引き上げられ、便数は6割増しとなり、現在では1日の発着数が約1,200回、1分間に1.5回のペースで発着が行われる計算となっています。
さらにはLCC便の参入や飛行機の小型化で国内便の発着数も増加しており、それにもかかわらず、この10年間、羽田空港の管制官の人数は80人前後の横ばいであり、1人当たりの取扱い機数が約1.6倍に増えて負担が大きくなり、その結果として、事故が発生するリスクも増大しています。
また、羽田空港については、発着便数の多さに加えて、滑走路の運用方法の問題点も指摘されています。
通常であれば、離着陸ごとに滑走路を分けて、1本の滑走路を1人の空港管制官が担当し、状況に応じて着陸や離陸の優先順位を決めて指示を出すといった運用方法であり、前述の「混雑ランキング」で1位と2位のアトランタ空港やドバイ空港においても滑走路を離陸専用と着陸専用とに分けて、それぞれで運用されています。
それに対して、羽田空港のA~Dまでの4本の滑走路のうち、今回の事故の現場となったC滑走路は常に「離着陸兼用」の運用が行われており、日本で最も数多く離着陸を繰り返しています。現役管制官が「羽田のC滑走路は“異常”な運用」と指摘しているように、常に離着陸の双方について指示をしなければならないC滑走路を担当する管制官が過大な負担を強いられていることは想像に難くありません。
元日本航空のパイロットで航空評論家の杉江弘氏は「東京五輪が終わった今、羽田空港の離発着便の一部を成田空港に戻すべき」と指摘しています。
離発着便を羽田空港と成田空港で適正に配分し、現在の羽田空港の「超過密状態」を少しでも緩和することが望ましいことであるのは論を俟ちませんが、成田から羽田へのシフトの当初の理由であった東京五輪が終了した後も羽田空港に離発着便を集中させたままに放置しているのは、羽田空港と成田空港とを比較して、前者がより都心に近く、利用者にとって利便性が高い―コスパ/タイパが良い―と考えているからであるものと思われます。
この度の羽田空港での航空機衝突・炎上事故の遠因に「羽田空港の超過密な状態が放置され続けてきたこと」があり、その底流には我が国に蔓延してしまった「コスパ/タイパ至上主義」が横たわっていると言うことができるのです。
海上保安庁機の乗員6人のうち5人の方がお亡くなりになられたことが残念でなりませんが、その一方で、十数人の負傷者が出てしまったものの、1人も死者を出すことなく日本航空機の乗員乗客379人全員が脱出できたことについては、多くの海外メディアが「奇跡的な脱出」と報道していることをはじめとして多方面から称賛の声があがっています(注13)。
ニュース番組等で報道された事故発生直後の炎に包まれた状態で滑走する日本航空機の映像(注14)や機体の損壊状況から伝わってくるのは、乗員乗客の全員あるいは大半が死亡していたとしても全く不思議ではない緊迫した状況であり、1人の死者も出さずに全員が脱出することができたのは、同便の乗務員のプロ意識と日頃の訓練の成果が活かされたとともに、乗客の多くがパニックに陥ることなく乗務員の指示に従って冷静に行動したことが功を奏したからであると言えるのでしょう。そして、乗務員と連携しながら乗客の救助にあたったのが、現場に駆けつけた多くの応援部隊であり、東京消防庁からは100台以上の消防車両が出動、着陸した飛行機を先導するグランドハンドリングと呼ばれるスタッフや整備士らも加わり、会社や組織を超えた協力体制で「奇跡の脱出」を支えたのです。
まさに称賛に値する「奇跡(関係者の努力の賜物)」であったのだと思います(注15)。
このような「奇跡の脱出」を実現できたのは、乗務員や空港スタッフなど関係者が(自らが遭遇する可能性は低い)事故に備えて訓練を積み重ねて、実際に事故に遭遇してしまった時に、その訓練の成果を発揮することができたからであるに相違ありません。
日本航空によると、同社では緊急時の脱出訓練は年に1回、全乗務員を対象に行われており、その訓練の日には丸1日をかけて非常用ドアの操作などを確認するとのことであり、恐らく、全日空など同業他社でも同様に厳しい訓練を積み重ねているものと思われます。
当然のことながら、このような訓練には長い時間と多大なコストが(確実に)必要とされます。その一方で、航空機の事故が発生する確率は0.0009%であり、これは438年毎日搭乗して1度事故に遭う確率だと言われており(注16)、計算上では、航空機に搭乗する乗務員のほとんどが、就職してから一度も事故に遭遇することなく退職する日を迎えることになるのです。
ミクロ経済学や政策評価の分野で、人間の「生命の価値」を計測する方法論として、人的資本アプローチ(human capital)と支払意思額アプローチ(Willingness to Pay: WTP)とが良く知られています(注17)。
航空機事故に備えた訓練に要する時間的及び金銭的コスト(費用)、事故が発生する確率、人的資本もしくは支払意思額アプローチで計測される事故が発生した場合に失われる(=訓練をすることによって救うことができる)乗員乗客の「生命の価値」などを用いて、航空機事故に備えた訓練についてコスト・ベネフィット分析をすることが可能となります。
乗員乗客の「生命の価値」をどのように見積もるのかということによって大きく左右されることになりますが、航空機事故が発生する確率の低さから、コスパ/タイパ至上主義に基づいて考えると「事故に備える訓練にコストをかけるのが無駄である」との結論が導き出される可能性を否定することはできません。
この度の「羽田の奇跡」を成し遂げることが可能となったのは、各航空会社がコスパ/タイパ至上主義に陥ることなく、コスト・ベネフィット分析の限界を理解し、乗員乗客の「生命の価値」を低く見積もるという過ちを犯さず、「(たとえ事故が起こったとしても)乗員乗客の生命を守る」という気概をもって、長い時間と多額の費用をかけて事故に備えた対策と訓練を継続してきたからであると言えるのではないでしょうか。
これまでにも繰り返し論じてきましたが、近い将来、我が国では、「南海トラフ地震」や「首都直下型地震」をはじめとして、この度の能登半島地震とは比べものにならないほど広い範囲に甚大な被害をもたらす巨大地震が高い確率で発生することが予想されています。しかも最悪のケースとして、巨大な震災が複数のエリアで同時多発的に発生する可能性も否定できません。
能登半島地震によって、我が国では長年にわたって国土を保全するためのインフラ投資が疎かにされてきた結果として国土全体で「リダンダンシー(冗長性)」が喪失してしまっている実態が白日の下に晒されることになりました。
本来であれば、来るべき大震災に備えて「プライマリー・バランスの黒字化」「財政の健全化」などといった過てる政策目標を捨て去り、「国民の生命・財産」を守るためのインフラ整備―国土強靭化―に向けた政策へと舵を切り、早急に取り組まなければならないはずなのですが、現在、国会では「政治とカネ」を巡る議論に終始しており、誠に残念ながら、我が国の舵取りを担う政府と国民の代表者の集まりである国会に「国民の生命・財産」を守るのは国家の責務であるとの気概を感じることができません。
能登半島地震が発生してから現在に至るまでの日本政府・岸田内閣の災害対応や国会での審議を見ていると、政府・内閣が先頭に立って「被災地を救おう」としているようには思えず、国会での審議においても(震災について)あたかも「我が国とは直接的な関係がない遠い外国での出来事」について話し合っているかのように感ぜられ、政府と国会の双方が「まるで他人事であるかのような対応をしている」との印象を拭うことができないのです。
近い将来、かなり高い確率で巨大な震災に見舞われることが予想されているにもかかわらず、我が国の国政を担う政治家のほとんどが「近い将来に巨大災害が起こるとはいえ、まさか自分の任期中に起こることはないだろう」といった「正常性バイアス」(注18)に囚われて「国民の生命・財産」を守るという「国家の責務」と対峙することから目を背けて、政治家としての自らの責任を果たすことを放棄し、「『政治とカネ』にまつわる国民からの非難と責任追及から如何に逃れるか」ということに汲々としているように見受けられます。
我が国では、政治の世界のみならず、経済界をも含めた社会全体において「国家のビジョン(=理想)」が語られることがなくなってから久しく、「国家のビジョン」を想定しなければ―すなわち、何らかの「クライテリオン(規準)」が示されなければ―そもそも(目的を達成するための最適解を模索するツールである)コスト・ベネフィット分析を正しく活用することなどできるはずもなく、多くの国民が「コスパ至上主義」に陥らざるを得ないのは、当然の理であるように思えます。
国民の多くが長期的な「国家のビジョン」を思い描くことなく視野狭窄に陥り、コスト・ベネフィット分析を誤用して、「コスパ至上主義」に囚われたままに短期的な利益ばかりを追い求め、「現実的」と称して安易な「経済合理的選択」をひたすら繰り返し続けていると、「国土強靭化」のためのインフラ整備をはじめとする「国民の生命・財産」を守るための取り組みに着手することがないままに大震災の日を迎えるということになりかねません。
巨大な震災に備えるために、私たちにどれぐらいの時間が残されているのかはわかりませんが、災害から「国民の生命・財産」を守るためには「国土強靭化」を実現しなければならず、そのためには私たち国民自身が「コスパ至上主義」から脱却しなければなりません。そして、「コスパ至上主義」から脱却するためには、将来の我が国のあるべき姿を描く「国家のビジョン」が必要とされるのだと思われます。
たとえ迂遠な道程であるかのように思えたとしても、私たちは来るべき大震災に備えて国民の間で広く共有できる「国家のビジョン」について語ることから始めていかなければならないのではないでしょうか。
——————————–
(注1)『表現者クライテリオン』2023年7月号(特集「進化する“コスパ”主義-タイパ管理された家畜たち」)
・表現者クライテリオン2023年7月号 | 表現者クライテリオン (the-criterion.jp)
(注2) リダンダンシー(冗長性)を失った「災害弱国ニッポン」の脆弱性 ―能登半島地震を受けて考える― | 表現者クライテリオン (the-criterion.jp)
・【藤原昌樹】被災者を劣悪な環境の下に放置していることは、我が国にとっての恥辱である | 表現者クライテリオン (the-criterion.jp)
・【藤原昌樹】被災地の復興を諦めることは、国民国家の選択肢としてあり得ない -「復興より移住」論の批判的検討- | 表現者クライテリオン (the-criterion.jp)
(注3) リダンダンシー(redundancy)とは、「冗長性」、「余剰」を意味する英語であり、国土計画上では、自然災害等による障害発生時に、一部の区間の途絶や一部施設の破壊が全体の機能不全につながらないように、予め交通ネットワークやライフライン施設を多重化したり、予備の手段が用意されている様な性質を示しています。
・小池淳司「インフラを語ることは、将来の日本と社会のあり方そのものを語ることである」『表現者クライテリオン』2024年3月号(特集「日本を救うインフラ論」)
・表現者クライテリオン2024年3月号 | 表現者クライテリオン (the-criterion.jp)
(注5) 【被害・復旧状況まとめ】能登半島地震から1か月 断水の復旧は遅れ…(日テレNEWS NNN) – Yahoo!ニュース
(注6) 【藤原昌樹】被災地の復興を諦めることは、国民国家の選択肢としてあり得ない -「復興より移住」論の批判的検討- | 表現者クライテリオン (the-criterion.jp)
(注7)上野吉一「コスパ/タイパの追求がもたらす自己家畜化状態」『表現者クライテリオン』2023年7月号所収
(注8) 上野吉一(2023)では、「自己家畜化」について「コスパ/タイパ至上主義」と関連づけて、次のように論じています。
「人間に対する『自己家畜化』という概念は、20世紀初頭にドイツの人類学者によって人類進化の有効な説明原理として提唱された。家畜と人間との間の形態学的な類似性をもとに考えられたが、この考えそのものは現在ほとんど受け入れられていない。しかし、人為的な環境に自らの振る舞いなどを適応させているということを捉えるメタファーとしては意味のあるものと目されている(尾本惠一、2002)。ここで言う『家畜化』とは動物が人間のもとで効率化された生活が可能な状態に変容したこととしよう。したがって、『自己家畜化』とは人間自ら自身をそういう状態にすることとなる」
「(人間が)効率性ばかりを強く求めそこに目が行き過ぎてしまうと、物事を選択しているようであっても、実際には外部から与えられるという状態(自己家畜化)に陥ってしまっていると捉えられることは少なくない」
「自己家畜化とは、人間自身を人為的・文化的環境への適応を促し、その結果として物事を無批判的ないし受動的に受容する状態に陥ることが含まれることをメタファーとして表現したものだった」
「コスパ/タイパ至上主義は一見より高い生産性や満足度を効率良く得られる行為のようでありながら、主体性をなくし誰かの手で管理されたものを受け入れ、その行為の意味にすら無自覚になってしまう。極論、人間性の放棄ですらある。それでは効率性を高めるということは善きものとはならない」
「コストパフォーマンスやタイムパフォーマンスに盲目的に従うことは、自己家畜化を招くことになる。それを避ける上で、効率性を追求しながらも自己の主体性や批判的思考力能力を保ち、適度なバランスを持つことが重要である。バランスとは効率的なことと(一見)“無駄”なことの間にあるものだ。したがって自己家畜化に陥ることを避けるためには、効率性を追求する一方で、主体性と批判的思考を大切にすることが必要不可欠だと言えるだろう」
・尾本惠一「メタファーとしての自己家畜化現象―現代文明下のヒトを考える―」尾本惠一編『人類の自己家畜化と現代』人文書院、2002年
(注9) 藤井聡氏の発言。特集座談会「コスパ主義は『家畜化』への道である」『表現者クライテリオン』2023年7月号所収
(注10) 羽田空港地上衝突事故 – Wikipedia
(注11)航空評論家の杉江弘氏やその他の専門家によって日本の刑事司法制度が事故原因の究明の足枷になっていることが指摘されています。
・日航機と海保機の衝突事故が露わにした羽田「過密」空港の危険度/杉江弘氏(元日航パイロット、航空評論家)(ビデオニュース・ドットコム) – Yahoo!ニュース
(注12)羽田空港 航空機衝突事故はなぜ起きたのか その時パイロットは 最新報告 | NHK | WEB特集 | 羽田空港事故
・羽田空港・航空機事故「空白の40秒」重なったヒューマンエラー | from AERAdot. | ダイヤモンド・オンライン (diamond.jp)
・日航機と海保機の衝突事故が露わにした羽田「過密」空港の危険度/杉江弘氏(元日航パイロット、航空評論家)(ビデオニュース・ドットコム) – Yahoo!ニュース
・羽田空港「JAL機炎上」全真相 現役管制官が緊急告発! 「離陸も着陸も」C滑走路の異常【先出し全文】(文春オンライン) – Yahoo!ニュース
(注13) 乗客全員の脱出「奇跡」 航空機衝突で米英メディア(共同通信) – Yahoo!ニュース
(注14) 【瞬間映像】乗客が撮影か 機内に白い煙のようなものが | NHK | 羽田空港事故
・【2日詳細】羽田空港 日本航空JALの機体が炎上 海上保安庁の機体と衝突 海保機の5人死亡 | NHK | 羽田空港事故
(注15)羽田衝突事故での“奇跡の脱出”について元航空管制官がウラ側を明かす「鍛錬が究極の形で出た」「“ワンエアポート”になって対応にあたった成果」(ABEMA TIMES) – Yahoo!ニュース
・日航機の乗員乗客379人、18分で全員脱出…専門家「乗客が指示通り動いた」 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)
・羽田空港の海上保安庁機と日航機の衝突炎上事故、奇跡生んだ客室乗務員の鍛錬:読売新聞社会部デスクが考察 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)
(注16) 飛行機が墜落する確率は宝くじの1等が当たる確率より低い!? (flight-service-guide.com)
(注17) 「いのち」の価値を測る | 三菱UFJリサーチ&コンサルティング (murc.jp)
(注18) 正常性バイアス – Wikipedia
(藤原昌樹)
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