大手メディアはなぜ
積極財政派の議論を報じないのか。
財務省を批判する
稀有なジャーナリスト・須田慎一郎氏が真相を語る
藤井▼本日はジャーナリストの須田慎一郎さんにお越しいただきました。どうぞよろしくお願いします。須田さんとはもう十年以上前からのお付き合いになりますが、十年前くらいは大阪や名古屋のテレビ番組でよくご一緒しましたね。それと東京の討論番組でもよくお会いしましたが、ホント最近はテレビで全然会わなくなりましたよね。
須田▼最近全然会わないですね。今日久しぶりですもんね。
藤井▼そうなんですよ。なぜ会う機会がこうしてなくなってしまったのかということとも関係するのが今回のテーマなのですが、本日は緊縮財政問題について、ジャーナリストの須田さんにぜひ、僕がジャーナリズムしたい、ということでいろいろお伺いしたいと思いお声かけした次第です。
まず経済学に関わる学者連中に関して言いますと、その大半が緊縮財政派で、積極財政派はほとんどいない。僕や本田悦朗さんなど、ごく一部です。それと同じようにジャーナリストの世界も、財務省がずっと言っている緊縮財政的な話を報道するジャーナリスト、メディアばかりで、積極財政的な角度からジャーナリズムされている方は僕の知る限り須田慎一郎さんくらいしかいないんですよ。
須田▼これだけあからさまに積極財政だとか、財務省けしからんなんて言っているのはほとんどいないでしょうね。
藤井▼そうですよね。だから自民党内の積極財政派と緊縮財政派の対立、抗争を、積極財政派の立場も理解しながら書くジャーナリストも須田さんくらいしかおられない。ついてはまず、そのあたりのお話をお伺いしたいと思います。自民党内の積極財政派と緊縮財政派の争いが一番激しかったのは安倍さんが亡くなる直前ではなかったかと思います。いわゆる「骨太の方針」の中にプライマリーバランス(以下、PB)の記述をどうするかを巡って、安倍さんグループ(積極財政派)と麻生さんグループ(緊縮財政派)のバトルがあり、マスコミ世論的にも非常に盛り上がっていました。その後、安倍さんが殺されてしまってから状況が変わりましたが、それでもその対立は長く続いている。ついてはそのあたりの状況をご解説いただけないでしょうか。
須田▼まず時系列から話をした方がいいと思うんですが、これは意外に思われる方が多いんですけれども、実は二〇二五年度、つまり再来年度の予算編成作業というのは、もう水面下で実質的に始まっているんですよ。三月二日土曜日に二〇二四年度の予算案が衆議院で可決をしたことを受けて、もう週明けからその辺のバトルが繰り広げられています。予算編成作業の一丁目一番地はだいたい六月に閣議決定を見る「経済財政運営と改革の基本方針」、いわゆる「骨太の方針」です。これで枠組みをまず決めて、その上で八月くらいに「概算要求基準」で次年度予算のシーリング、上限を決め、その後秋口ぐらいから概算要求という作業に進みます。今一番注目されているのは、この骨太の方針です。
藤井▼六月ですからもうすぐ再来年度の予算の枠組みが決まってしまうんですよね。だからそのバトルが今すごくやられている、と。
須田▼実は骨太の方針は今回特に重要な意味を持つんです。というのも、二〇一五年から二〇二四年度まで財務省は密かに増額上限のキャップをはめていたんですよ。
藤井▼そうですね。MXTVでは解説したことがあるのですが。
須田▼やったんですか? 重大な話ですけど、この話どこでもやらないじゃないすか。
藤井▼やらないんですよ。
須田▼実は三年で非社会保障費で一〇〇〇億円しか増やせない。これが二〇一五年からずっと約十年続いていたんですよね。そうすると年間の増額の上限が三三三億円ですよ。こんなキャップをはめられたら積極財政と緊縮財政のバトルどころの話じゃないんです。その手前で既に毒が埋め込まれているんですから。
藤井▼しかもそれに総理大臣だった安倍晋三すら気付いていなかったという話ですからね。
須田▼そうなんです。安倍総理は全然気付いていなくて、不思議に思った谷川とむさんが自民党政調の会議で問いただしたところ、内閣府の副大臣をやっておられた黄川田仁志さんが気が付いた、と。それでようやく党内に知られるようになったという経緯がありました。
藤井▼PBというキャップよりももっときついキャップがはまってたということですからね。キャップは多重にありますが、一番きついキャップを骨太の方針という超重要文書の脚注に七ポイントぐらいの小さい文字で書いてあったんです。結果、誰もその重大さに気付いておらず、安倍さんすら気が付いていなかった。
須田▼いま積極財政派を率いている西田昌司さんもそれを知って激怒したんですよ。「ふざけるな、お前たち。聞いてないぞ、俺は」みたいな感じで。それぐらいに自民党のほとんどの人が知らなかったんです。
藤井▼私も当時は参与だったんですが、恥ずかしながら気が付いておらず……。ちゃんと脚注を全部見ておかないといけなかったと本当に反省しました。
須田▼それでこの年季が明けるのが、二〇二五年度予算ということです。この一件は「骨太の方針」がいかに重要かということが見えてくると同時に、今回はその中でも特に重要なものになるということを示しています。これを巡って今ちょうど、積極財政派と緊縮財政派のバトルが始まったところです。
自民党内の政務調査会の中に財政政策検討本部というものがありますが、そこの本部長は西田昌司さん、幹事長が城内実さん、事務局長が中村裕之さんで、彼らは皆積極財政派です。元々は安倍さんの意向で作られた組織でもあります。
政務調査会は自民党内で政策について議論し意思決定する会ですから、積極財政派はこの財政政策検討本部を中心に骨太の方針を巡って戦いを始める準備をしています。
藤井▼一方で緊縮財政派はどのように仕掛けてきているのでしょうか。
須田▼緊縮財政派は岸田総裁直下に財政健全化推進本部というものがありまして、本部長は古川禎久さんという方ですが、最高顧問を、これがすごいのですが、麻生太郎さんがやられているんですね。顧問にも、それこそ政調会長から、総務会長までずらずらと名前を連ねていて、それの下にいる幹事長が小渕優子さん。もう財務省ラブみたいな、そういう人ですね。明らかにこっちは緊縮財政派になっていて、ここを中心に戦うのだろうと思います。
藤井▼そうですね。読者のために簡単に申し上げると、緊縮財政派は先ほどのキャップを維持して増額は三三三億円以下にして、PB黒字化するために税収以上にはお金は使わないし、それ以上に何かやりたいんだったら増税しろという人たち。積極財政派は必要なことがあるのならば国債を発行して、必要なことにちゃんとお金を充当して進めていこう、と。そして、国債発行分はきちんと後で償還していきましょう、ただしもちろん必要ならば借り換えも許容する、という人たち。つまり、決して借金を無限に拡大しろと言ってるわけではないですけど国債を発行することを是認する人たちVS国債発行を許さない人たち、という対立になっているわけです。
須田▼もう一点大きな違いがあります。いま日本経済の景気は好循環に入ろうとしているのかもしれませんが、この三十三年間は全く成長していないじゃないですか。
藤井▼むしろ衰退ですよね。所得の点でいうと本当に下がっていますから。
須田▼別に、無理に借金返済で国民からお金を集めなくても、経済成長してGDPが拡大すれば、法人税、所得税、消費税が増えていくわけですから、その分で財政再建すればいいでしょう。
これが積極財政派の考え方ですよね。ところが健全財政派というのは、いやいや経済が成長しないんだ、三十三年間そういう成長をしたためしがないじゃないか、そんなところに財政拡大をしていったら、日本の財政はおかしくなるよ、と。
藤井▼日本以外の国は全部成長しているし、日本も九〇年代にデフレになるまではずっと成長していたんですけどね。
須田▼つまり、緊縮派っていうのは経済成長否定派なんですよ。経済成長してもらっちゃ困るんじゃないかぐらいの(笑)。
藤井▼ホント、それくらい思ってそうですよね(笑)。例えば安倍さんもずっと「経済再生なくして財政健全化なし」という言葉を繰り返してましたが、これは要するに財政健全化させるための手段として経済成長を置く、ということ。ですが緊縮財政は、経済成長しないと決めにかかることで、財政健全化には増税と予算カットの緊縮しかないと主張するわけですね。ただし、岸田総理も安倍さんの主張を引き継いで、「経済再生なくして財政健全化なし」と主張した上で「その順番を間違えてはならない」とまで言っている。要するにこの言葉は、自らは積極財政派だと主張しているわけです。ですが増税と予算カットばかり続けており、「間違え」まくってるわけです。あの言葉はどこ行ったんやっていうことですね。
須田▼これは普通に考えたらどっちに軍配が上がるか明らかですよ。
藤井▼そうですね。経済成長は可能である以上、積極財政に「理」があることは明白です。
須田▼さらにいえば、積極財政派は基本フルオープンで議論している。メディアにもどんどん来てくださいという形で公開しています。反対に緊縮財政派は隠密行動です。どこでやっているのか分からない。ところが新聞中心のメディアは、後者、緊縮財政派ばっかり取り上げるんですよ。積極財政派を取り上げた新聞は一つだけ、夕刊フジの私のコラムぐらい。
藤井▼本当ですか!? それはひどいですねぇ……。
須田▼ひどいです。無視ですよ。
藤井▼先ほど申し上げた、最近全然お会いしなくなったというお話と関連してくるのですが、僕はご存知の通りいろんなメディアで、積極財政が大事であるとか、減税が必要であるとか、緊縮財政にはこういう欺瞞があるとかいうお話をしています。そうすると、MXさんと関西のテレビ局さんたちは例外なんですが、だんだんテレビ局からお声がかからなくなってきまして。どうやら須田さんもそうなんですよね?
須田▼ただですね、正直に言います。これは大反省なんですが、藤井さんに出会った頃は私は緊縮財政派だったんですよ。
藤井▼そうでした。だからよくバトルしてましたよね、ただ須田さんとは全然楽しくやっていましたね(笑)。
須田▼当時は私のネタ元って実は財務省だったんですよ。
藤井▼彼らもやっぱりすごい情報量がありますからね。
須田▼もう一晩で読み込めないような資料を毎日毎日送ってくるんですよ。しかもまた、こちらがあんまり頭がよくないから、「これどういう意味ですか」と聞くと、懇切丁寧に教えてくれる。それである時、当時官房長をやっておられた方から、消費税を上げようと思ってるんだとお話があって、その勉強会を開きたいからついては、雑誌社の主だったメンバーを集めてくれないかと言われたんです。それで週刊誌の主だったメンバーを集めました。
新聞は記者クラブがあるからいい、と。雑誌は記者クラブに入っていないから、そこまで財務省の影響は及ばない。なのでその勉強会で財務省と雑誌社の関係を作ろうじゃないかというお話だった。
藤井▼ある意味では使われたわけですよね。
須田▼もう言ってみれば財務省の客引きみたいなものですよね。で、それをやると特別な情報がもらえるわけです。
藤井▼なるほど。人より早く情報をもらえるから、ジャーナリストとしてもある意味非常に美味しいわけですよね。それでジャーナリストとしても価値が高まってくる。
須田▼おっしゃる通りです。
藤井▼そんな状況から積極財政派の方に転向されたというか、積極財政の方が正しいと思うようになられたのはいつ、どういうきっかけだったのですか。
須田▼失われた時代って一九九一年一月にバブルが崩壊して以降でしょう。そうするとなんで日本って景気循環しないのか、と。十年経ち十五年経ち、二十年ぐらい経った時に、おかしいな、と思い始めました。その一方で消費税を上げるとか増税だとかっていう声が出てきて、そうするとますます有効需要が減っていくんじゃないかな、と。
藤井▼普通に考えてそうなりますよね。
須田▼実をいうと私は経済学部出身なんですよ。そうするとやっぱり有効需要の創出をしないといけないというケインズ理論はもう基礎中の基礎ですよね。
これを何でやらないのかといろいろ調べていくと、どうも財務省が相当妨害しているということが分かった。今日冒頭でもお話ししたように、彼らは要するに経済成長よりも財政再建だという考えです。でもどっちの方にプライオリティがあるのか考えれば、経済成長でしょう、国民を豊かにすることでしょう、と考えるようになりました。それで正しいと思うことを発信するようになったら周りから財務省の官僚がすーっと消えていくんですよ。
藤井▼経済学の基本的な知識をお持ちだったから、真実に簡単に辿り着けたということですよね。レーダーを攪乱するためにステンレスのファイバーを巻くような形で、財務省はずっと国民を攪乱している状況ですけど、須田さんは良いレーダーを経済学部で養っておられた、というわけですね。
でも他のジャーナリストはなぜそうならないのでしょうか。僕は本当に先ほど申し上げました通り須田さん以外、そういう人を存じ上げないんですよね。
須田▼考えてみると、新聞を中心とする既存メディア出身のフリーランスって多いんですよ。テレビに出てくるジャーナリストという肩書きを持ってる人は、○○新聞や○○テレビの政治部出身です、経済部出身ですという人が多いでしょう。
そこで二十年、三十年、洗脳され続けると間違いに気が付きにくいし、気が付いても直さない。我々二人はよく謝りますよね、間違えたら。
ところがそういう人たちって謝るとか訂正するというのは過去の自己否定になってしまう。
藤井▼別にいいですよね。真実の方が大事ですから。
須田▼それがなかなかできない。加えてやっぱり新聞というと、非常に不思議に思うのが軽減税率の適用です。
藤井▼そうですね。あれはまさに、新聞社と政府における腐敗中の腐敗問題、ですね。
須田▼通常一〇%のところが新聞は八%になっているのですが、別に新聞は生活必需品じゃないですよね。新聞読まなくたって死なないでしょう。読まない方が長生きできるんじゃないかぐらいの話で。
藤井▼そうですね。新聞読むよりもっと楽しいことをしていた方がいい(笑)。
須田▼そうするとあれは二%相当分の販売促進費を財務省、国からもらってるのと一緒です。洗剤や食用油あげますからっていうのと同じで、「減税しますから」とやっているようなものですよね。
藤井▼そういうことですね。お金もらうことを通して言論を歪めているわけですよね。ジャーナリストとして本来こんな恥ずかしいことはない。
須田▼それでも僕は新聞社を一定信じていたんですよ、僕も新聞社出身ですから。だから新聞社の同期のやつに「財務省的な論調書くのは、お金もらえるからじゃないよね」って聞いたんです。そうしたら、「いや、違う」と。二%減税してもらってるんだから、財務省の言うことを聞かざるを得ないじゃないか、お前もっと大人になれ、と言うんです。子供だったんですよ、私。
藤井▼そりゃひどい……。そもそも腐敗することを大人と呼ぶわけじゃない。もしもそういう定義だとしたら、永遠に子供でいいですよね。
それにしてもそれは重大なご発言ですね……。ご友人だからそうやってホンネをおっしゃったんでしょうね。
須田▼その時は否定してくれると思って聞いたんですけどね。
藤井▼それでやっぱり真実を伝える過程で財務省の批判もせざるを得なくなったというわけですね。そうするとやっぱりテレビも出演回数が減っていったわけですか。
須田▼結局、元々私の立ち位置は先ほど申し上げたように財務省擁護でしたから、財政緊縮派の役どころを求めているのに、それを言わなくなったら必要なくなるじゃないですか。
藤井▼もうテレビ局としてはいらないわけですよね。
須田▼もっとバリバリの緊縮派を呼んでくりゃいいわけですから。
藤井▼そうですね。まあ、テレビ出演者なんて掃いて捨てるほどいますからね。積極財政派は需要がないんですよね。
続きは『表現者クライテリオン』5月号で…
〈編集部より〉
本記事は本日発売、最新号『表現者クライテリオン2024年5月号』の特集対談より一部お届けしております。
全文は本誌に掲載されておりますのでぜひご一読ください。
特集タイトルは
です。
巻頭言と目次を公開しております。
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