【藤原昌樹】誰も沖縄社会が分断されることなど望んではいない ―沖縄で「自衛隊への差別的風潮を改める決議」が採択された意味―

藤原昌樹

藤原昌樹

「自衛隊に対する差別的風潮を改めること」を求める決議

 

 2025年10月8日の沖縄県議会本会議において、「自衛隊及び隊員とその家族に対する差別的な風潮を改め、県民に理解と協力を求める決議」(以下、「自衛隊への差別的風潮を改める決議」)が賛成多数で可決されました(注1)

 事の発端は、9月12~14日に開催された「沖縄全島エイサーまつり」で市民団体が陸自第15旅団エイサー隊の出演に反対した問題であり、県政野党の自民党会派は当初、「自衛隊員であることを理由とする職業差別を許さない決議案」を提案していましたが、「沖縄戦の戦争体験に起因する複雑な県民感情に配慮すべきだ」とする公明党会派との調整を経て「職業差別を許さない」から「差別的な風潮を改め」という文言に変更するという経緯をたどりました。

 

 その一方、日米共同実動演習(レゾリュート・ドラゴン25)で市民団体(を名乗る活動家たち)の妨害によって訓練の一部が中止に追い込まれた問題をめぐって、中谷防衛相が「自衛隊への過度な抗議、妨害行為が続いており、大変遺憾だ」と発言したことについて、玉城デニー知事を支持する「オール沖縄」の県政与党会派が「自衛隊活動への県民の抗議等に対する防衛大臣の発言に関する意見書」案を提出していましたが、賛成少数で否決されています(注2)

 

 「自衛隊への差別的風潮を改める決議」が提案された背景には、これまで拙稿で「沖縄の恥ずべき歴史」として論じてきた、自衛隊に対して「差別」的な行為を繰り返してきた歴史があります(注3)。不発弾処理や災害派遣、急患の搬送など、その幅広い活動や自衛隊と関係者たちの努力によって、沖縄に自衛隊が配備され始めた1972年の日本復帰当時と比べて沖縄県民の自衛隊に対する感情が良くなってきてはいることは紛れもない事実であり、現在では、各種世論調査で県民の約8割が自衛隊を支持するまでに至っています。しかしながら、未だに「反自衛隊感情」を抱いている沖縄県民がいることも否定できず、極端な「絶対平和主義」の思想に毒された反戦平和活動家たちによって、沖縄における自衛隊の活動に対する過度な抗議・妨害活動が繰り広げられているのです。

 

 「自衛隊への差別的風潮を改める決議」では、「戦争の記憶や米軍統治、本土復帰といった歴史を経て、自衛隊という存在に複雑な感情を抱えてきた」といった沖縄の県民感情への理解を示した上で「防衛政策への批判や抗議、意見表明は…表現の自由として尊重されるべき」としつつも、「『自衛隊員である』という理由で社会参加の機会が奪われ、隊員や家族の尊厳が傷つけられることがあってはならない」として県民に対して理解と協力を求めており、「平和運動」や「県民感情」といった美名を隠れ蓑にした反戦平和活動家たちによる自衛隊への政治的な攻撃が横行する沖縄の現状に一石を投じる意義があると言うことができるのです。

 

沖縄の民意はどこにあるのか?-「決議」を非難する沖縄のマスメディア

 

 しかし残念ながら、例のごとく、『琉球新報』『沖縄タイムス』両紙を主たる舞台に、「自衛隊への差別的風潮を改める決議」について「自衛隊のエイサー出演に対する抗議を『自衛隊員に対する差別』というのは非常に拡大した解釈だ」「市民団体は個人としての自衛隊員ではなく、あくまでも自衛隊という組織について参加をすべきでないと抗議した」「抗議活動など『政治的表現の自由』は憲法で認められている」「抗議や批判まで『差別』とみなせば、市民・県民による意思表示の萎縮を招きかねない」というように否定的に論ずるキャンペーンが展開されています(注4)

 

 「『抗議』と『差別』の線引きが難しいのは事実」(『八重山日報』)であり、「差別」とのレッテル貼りをすることによって、「表現の自由」が萎縮されたり、「抗議」や「批判」を含む国民の意思表明や政治的発言が抑圧されたりすることがあってはならないことは当然のことです。しかし、それと同時に「表現の自由」を錦の御旗に「差別」的な言動が許されるべきではないということもまた、論ずるまでもない自明の理です(注5)。ヘイトスピーチの規制をめぐる問題で議論されてきたことであり、問題はその線引きです。

 

 ヘイトスピーチなど「差別的な言動」を法的に規制すべきか否かについては慎重な検討が必要であるものと思慮いたしますが、特定の職業(例えば、自衛隊)の人々を地域の催し物(「沖縄全島エイサーまつり」など)から追い出すといった「村八分」的な封建主義的行為は、お互いの接触を断ち切ることによって相互の不信感を高めることにしかなりません。そのような分断を図る行為は道義的に十分非難に値するものです。

 

 地域のイベントなどあらゆる機会を通して地道に交流を図り、相互理解を深めつつも、それでも批判があるなら批判するというのが、健全な市民社会のあり方ではないでしょうか。

 

 今回の決議は、法的に規制をかけるものではなく、自衛隊を排除しようとする運動の背後に差別的な感情を見出し、沖縄社会を分断する方向に向かわないように「協力」を呼びかけているものであって、至極真っ当な決議であるように思います。

 

 幸いにも今回の決議が提出されるきっかけとなった「沖縄全島エイサーまつり」では、『産経新聞』が「12日夜には『道ジュネー』と呼ばれる練り歩きが行われ、先頭を切って、陸上自衛隊第15旅団(沖縄)のエイサー隊が初登場。沿道に詰めかけた観客は、鍛え抜かれた隊員たちの勇壮な演舞に魅了され、大きな拍手を送っていた」と報じてくれているように、多くの県民が自衛隊の参加を歓迎していました(注6)

 

 『琉球新報』『沖縄タイムス』両紙における自衛隊及びその活動について否定的で「差別的風潮」を煽るかのような論調は、沖縄社会における分断を解消するのではなく、より深刻化させることにしかならないと思えてなりません。

 

 『琉球新報』は、「自衛隊への差別的風潮を改める決議」が可決された翌日の社説で「『差別的風潮』というレッテル貼りをすることで、あらゆる県民の意思表明や政治的発言を抑圧する恐れがある」「将来にわたって禍根を残す決議だ」と論難し、「今回の決議が県民の民意と捉えられることを深く憂慮する」と論じていました(注7)。しかし、沖縄県民の多くが深く憂慮しているのは、『琉球新報』『沖縄タイムス』両紙に頻繁に掲載される反戦平和活動家たちの理不尽で非常識な主張が県民の民意と捉えられることなのです。

 

反戦平和活動家のアジビラと化した沖縄の新聞

 

 今年の秋の「新聞週間」が始まり、『沖縄タイムス』は「現場から 秋の新聞週間」と題する特集連載の初日に「ミサイル基地いらない宮古島住民連絡会」(以下、「連絡会」)の清水早子共同代表を大々的に取り上げていますが、その記事の内容は、まるで反戦平和運動のアジビラであるかのごとくです(注8)

『沖縄タイムス』2025年10月16日

 

 これまでにも何度か拙稿で取り上げていますが、この清水早子氏は、「陸自トップが市民を恫喝した」とのネガティブキャンペーンが繰り広げられた騒動の当事者であり、彼女が共同代表を務める「連絡会」は、良識ある「一般市民」の集まりではなく、「市民」を騙る活動家の集団であり、彼らが極端で非現実的な「反戦平和」思想に基づき展開している一連の抗議活動が「常識(コモンセンス)」からかけ離れていることは明らかです(注9)

 

 『沖縄タイムス』の記事では、「市民への脅迫行為」「自衛隊抗議 ネットで批判」「防衛相発言で攻撃激化」「物言えぬ空気 急拡大」「権力に抗議 当然の権利」などセンセーショナルな見出しを掲げ、「記者の目にも、政府を挙げて一人を攻撃しているように見える。なぜここまで執拗なのか」「自衛隊に物言えぬ空気は沖縄でも急速に広がっていると肌で感じる」というように、あたかも沖縄で「言論封殺」の動きが起こり、「表現の自由」が抑圧される兆しが拡がっているかの如く論じていますが、そもそも反戦平和活動家の集まりである「連絡会」の共同代表の理不尽で非常識な主義・主張が何ら制限されることなく紙面に掲載されているという事実が、我が国で「表現の自由」が確保されていることの証左であると言えるのではないでしょうか。

 

 沖縄における反戦平和活動家たちによる非常識な抗議活動を批判した拙稿で、「陸自トップが市民を恫喝した」とされる騒動をめぐって、『琉球新報』が自衛隊を非難するネガティブキャンペーンを展開するとともに、何ら論評を加えることなく「連絡会」の清水共同代表の論稿を「論壇」で取り上げたこと(注10)について「自らの主張を明言せずに公正中立な立場からの客観報道であるかの如く装い、批判的に検証することなく反戦平和活動家たちの主張をそのまま掲載するということは、あまりにも姑息なやり方であり、報道機関としての責務を放棄していると断ぜざるを得ません」と批判しました。

 

 今回の『沖縄タイムス』の記事も『琉球新報』の「論壇」のケースと同様であり、「報道機関としての責務を放棄している」と断ぜざるを得ません。

 

 『沖縄タイムス』は、同記事を「自衛隊は約22万人の隊員を擁する巨大な実力組織だ。沖縄では、沖縄戦の体験から自衛隊への複雑な県民感情がある。その感情の発露である『抗議』は、憲法で保障された表現の自由で、決して侵されてはいけない。自衛隊への『物言えぬ空気』が醸成される中、県紙の記者として今後も書き続ける」と締めくくっていますが、その言葉は「これからも自衛隊に対して分断を仕掛け続け、差別感情を煽る」「反戦平和活動のスポークスマンとしての務めを果たす」との宣言であるかの如く響きます。

 

 沖縄県民の一人として、『琉球新報』『沖縄タイムス』両紙が、反戦平和活動家たちの主義・主張が「沖縄の民意」からかけ離れているという事実にそろそろ気づいていただきたいと思わずにはいられないのです。

 

(注1) 自衛隊及び隊員とその家族に対する差別的な風潮を改め、県民に理解と協力を求める決議 令和7年10月8日 r0709-1008_ketsugi.pdf

(注3) 【藤原昌樹】いま改めて「沖縄の恥ずべき歴史」を振り返るー沖縄における自衛隊差別 | 表現者クライテリオン

(注4) 自衛隊を批判すると差別? 沖縄県議会自民「職業差別許さない決議」検討 何が問題か – 琉球新報デジタル

(注5) 【視点】自衛隊への「差別」終止符を『八重山日報』2025年10月4日【視点】自衛隊への「差別」終止符を(八重山日報) – Yahoo!ニュース

(注6) 【藤原昌樹】反戦平和活動家たちよ、ウチナーンチュを馬鹿にするな! ―沖縄県民は非常識な抗議活動を受け入れている訳ではない― | 表現者クライテリオン

(注7) <社説>自衛隊「差別」決議 将来に禍根を残す内容だ – 琉球新報デジタル

(注8) 自衛隊へ抗議した市民 匿名投稿主から届く名指しの脅迫 風当たりが増した防衛相発言 「犬笛」との指摘も | 沖縄タイムス+プラス

(注9) 【藤原昌樹】ホントに責められるべきはどちらなのか? ―陸自隊長による恫喝と常識(コモンセンス)からかけ離れた抗議活動― | 表現者クライテリオン

(注10)清水早子「〈論壇〉宮古島自衛官が市民を恫喝/軍事組織の暴力性発現した」『琉球新報』2025年8月23日

(藤原昌樹)


 

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